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鍵の異常者-盗屋ラックの哀喪  作者: 轟号剛


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ケルベロス

煙の迷路。


白煙の中。


ラックとアオは向かい合っていた。


「悪ぃな」


アオが酒瓶を揺らす。


「このダンジョンの宝は俺が貰う」


「そりゃまた横暴だな」


ラックは鍵を構える。


「冒険家ってのは奪い合いも仕事なんだよ!」


アオは酒を一気に煽る。


ゴクリ。


喉が鳴る。


次の瞬間――


「ッ!?」


消えた。


煙の中へ、アオの姿が溶け込む。


速い。


先程より明らかに。


「酔えば酔うほど強くなる異常でなァ!!」


声だけが響く。


ブォン!!


横から蹴り。


ラックは咄嗟に鍵で受ける。


だが。


「ぐっ……!」


重い。


体が横へ吹き飛ぶ。


「視界が悪い方が俺にゃ好都合だ!」


煙の中。


赤く光る瞳。


アオの視線だけが、はっきりと見えていた。


「視力も強化されてんのかよ……!」


ラックが舌打ちした、その時。


「キュゥゥゥ!!」


爆発鳥。


煙の中から飛び出してくる。


だが。


アオはそれを片手で掴み取った。


「お前に渡すぜ!!」


そのまま、ラックへ投げつける。


「はぁ!?」


直後。


ドゴォォォン!!


爆発。


炎が迷路を埋め尽くす。


ラックは空間を閉じて防御するが、衝撃までは殺しきれない。


壁へ叩きつけられる。


「がっ……!」


息が詰まる。


「どうしたァ!?もう終わりか!?」


アオの笑い声。


煙の中から、拳が飛んでくる。


ラックは辛うじて避け続ける。


だが。


押されていた。


完全に、防戦一方。


「チッ……」


ラックは額の汗を拭う。


「仕方ねぇな」


首元の鍵を掴む。


そして――


自分の頭へ突き刺した。


「……オープン」


カチリ。


鍵が回る。


次の瞬間。


ドクン――。


ラックの瞳孔が開く。


筋肉が軋む。


血流が、一気に加速する。


「……ッ?」


アオが違和感を覚えた。


煙。


音。


空気。


全てが変わる。


ラックが――消えた。


「な――」


瞬間。


腹部に衝撃。


ドゴンッ!!


「がっ!?」


アオの体が吹き飛ぶ。


壁へ激突。


「速ッ……!?」


ラックが立っていた。


先程までとは比較にならない速度。


「リミッター解除」


ラックは鍵を肩に担ぐ。


「数分しか持たねぇけどな」


アオが笑う。


口から血を流しながら。


「ハッ……最高じゃねぇか!!」


再び酒を煽る。


ゴクゴクと流し込む。


筋肉が膨張。


血管が浮き出る。


「まだまだァ!!」


突撃。


だが。


「遅ぇ」


ラックの拳。


アオの顔面へ直撃。


ドゴン!!


さらに。


蹴り。


肘。


鍵による打撃。


怒涛の連撃。


アオは反撃すらできない。


「ぐっ……ははっ……!」


それでもアオは笑う。


震える手で酒瓶を持ち上げる。


「もっと飲めば……まだ……!」


酒を流し込もうとして――


ピタリ、と止まった。


「……あ?」


ふらつく。


目が虚ろになる。


そして。


ドサッ。


その場に倒れ込んだ。


「……Zzz」


「……は?」


ラックは目を瞬かせる。


「寝た?」


アオは幸せそうな顔で眠っていた。


「……なんなんだこいつ」


ラックは深いため息を吐く。


煙の部屋を抜けたラックは、ゆっくりと扉を押し開けた。


――ギィィ。


「……は?」


そこに広がっていたのは、先程までとは真逆の空間だった。


部屋の中央。


大きな噴水。


透き通るように綺麗な水。


壁には淡く光る鉱石が埋め込まれており、静かな水音だけが響いている。


まるで休憩所。


そして。


噴水の縁には――


「よう」


ボロボロのアダアダが座っていた。


全身傷だらけ。


服は裂け、頬には血が流れている。


「……お前その顔どうした」


ラックが呆れたように言う。


「ハッハッハ!ちょっと石像と殴り合ってきた!」


アダアダは豪快に笑う。


その笑顔の直後。


「いってぇぇぇ……」


脇腹を押さえて悶え始めた。


「アホか」


ラックはため息を吐く。


そして噴水の水を手ですくう。


冷たい。


異様なほど澄んでいた。


「飲めそうだな」


「飲んだぜ。死んでねぇから多分大丈夫だ」


「判断基準雑すぎんだろ」


ラックも少しだけ水を飲む。


全身へ冷たさが染み渡る。


だが。


筋肉痛までは消えない。


「っ……」


ラックは小さく顔をしかめた。


頭部解放の反動。


全身の筋肉が悲鳴を上げている。


「お前も大概ボロボロじゃねぇか」


アダアダがニヤつく。


「うるせぇ」


ラックは壁へ背中を預けた。


しばし沈黙。


静かな水音だけが響く。


「……アスト待つか?」


アダアダが尋ねる。


「いや」


ラックは即答した。


「他の挑戦者と鉢合わせたくねぇ」


「まだ来てんのかねぇ、そんな命知らず」


「アルファ・メトロボットの遺作だぞ?腐るほど来るだろ」


ラックは立ち上がる。


「先行くぞ」


「マジかよ……」


アダアダは立ち上がろうとして。


「ぐっ……」


足を押さえる。


「……お前ほんと大丈夫か?」


「問題ねぇ!」


数秒後。


「問題あったわ」


「知ってた」


そんな軽口を叩きながら。


二人は次の扉へ進んだ。


――そして。


扉が開く。


瞬間。


熱風。


「グルルルル……」


低い唸り声。


部屋の中央。


そこにいたのは――


三つ首の魔獣。


巨大な牙。


黒い毛並み。


燃えるような赤い瞳。


「……ケルベロスかよ」


ラックが顔をしかめる。


ケルベロスはゆっくりと立ち上がる。


その巨体だけで圧迫感が凄まじい。


「ハッ……」


アダアダが笑う。


「最高じゃねぇか」


「どこがだよ」


ケルベロスが咆哮。


次の瞬間。


地面を砕きながら突進してきた。


「来るぞ!」


ラックが叫ぶ。


アダアダは前へ出る。


右腕を巨大化。


「オラァ!!」


振り抜く。


だが。


ドゴン!!


逆に吹き飛ばされた。


「ぐぁっ!?」


壁へ激突。


「硬ぇ……!!」


ケルベロスの一つ目の頭が炎を吐く。


ラックは空間を開いて炎を逸らす。


だが。


残り二つの頭が同時に襲いかかる。


「チッ!」


鍵で爪を受け流す。


重い。


筋肉痛の体に響く。


「アダアダ!!」


「分かってる!!」


アダアダが再び立ち上がる。


全身を巨大化。


筋肉が膨張。


「行くぞ化け犬!!」


正面から突撃。


ケルベロスの注意がアダアダへ向く。


その隙。


ラックが鍵を伸ばす。


「オープン!!」


鍵がケルベロスの足元へ突き刺さる。


床が裂ける。


体勢が崩れる。


「今だァ!!」


アダアダの巨大な拳が、中央の頭へ叩き込まれた。


轟音。


だが。


ケルベロスも牙を突き立てる。


「ぐっあぁぁ!!」


アダアダの肩から血が吹き出す。


それでも。


離さない。


「ラック!!」


「分かってる!!」


ラックが跳ぶ。


鍵を剣状へ変化。


一気に突き刺す。


「クローズ!!」


中央の頭が眠りにつく。


残る左右の頭による咆哮。


暴れるケルベロス。


しかし、中央の頭が力無くぶら下がっていることで行動が極端に制限されている。


アダアダが無理やり押さえ込み。


ラックが残る二つの頭を眠りにつかす。


そして――


ケルベロスは崩れ落ちた。


「はぁ……っ……」


「死ぬかと思ったぜ……」


二人はその場へ座り込む。


満身創痍。


だが。


部屋の奥の扉は、ゆっくりと開いていた。

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