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鍵の異常者-盗屋ラックの哀喪  作者: 轟号剛


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11/32

回想

「ただいまー!」


玄関の扉が勢いよく開く。


飛び込んできたのは、小さな少女。


まだあどけなさの残る顔――アイン。


「おかえりなさい」


キッチンから、優しい声。


母、オルタナが振り返る。


「アイン、今日もいい子にしてたかー?」


リビングでは、父トムが片手間にパソコンを操作しながら笑う。


「うん!」


アインは駆け寄り、そのまま胸に飛び込んだ。


「猫さんも、氷も使ってないよ!」


「そうか」


トムは、頭を優しく撫でる。


「ナインも偉いな」


――ぴたり。


アインの動きが止まる。


次の瞬間。


その表情が、すっと変わった。


「あったりまえでしょ」


同じ顔。けれど、別人の声。


ナインが、胸を張る。


「ふふ、頼もしいわね」


オルタナが柔らかく笑う。


「でもその前に――」


少しだけ、声色を変える。


「帰ったら、手洗いうがいでしょ?」


「はーい!」


今度は、いつものアインの声。


ぱっと離れると、そのまま洗面所へ駆けていく。


足音が遠ざかる。


――静寂。


「……ねぇ」


オルタナが小さく呟く。


「このままで、いられるのかしら」


オルタナの声は、どこか不安げだった。


食卓に料理を並べながら、小さく息をつく。


「最近、取り締まりも厳しくなってるし……」


「異常者スクールのことか?」


トムが軽く肩をすくめる。


「ああいうのは、表向きは“保護”ってことになってるけどな」


「でも……六年間、一度も帰ってこられないなんて」


オルタナの手が、わずかに止まる。


「まだ、あの子は八歳よ?」


沈黙。


「……このまま隠し通せるとは思えないの」


その言葉に、トムは少しだけ真顔になる。


だが、すぐに笑った。


「大丈夫さ」


リビングの方を見る。


「アインも、ナインも――ちゃんと分かってる」


少しだけ間を置く。


「自分たちの力が、どういうものかもな」


「……そうね」


オルタナは小さく頷いた。


――その時。


バチッ。


空気が弾けた。


次の瞬間。


玄関の扉が吹き飛ぶ。


「……は?」


立っていたのは、一人の男。


全身に走る雷光。


「金目のもん、出しな」


低い声。


「異常者……!」


トムが一歩前に出る。


「オルタナ、アインを――」


バチンッ!!


雷が走る。


一瞬で、トムの体が崩れ落ちた。


「え……」


オルタナの手から皿が落ちる。


「やめ――」


閃光。


沈黙。


焦げた匂い。


男は何事もなかったかのように家へと上がり込む。


「ちっ、貧乏くせぇな」


袋を取り出し、金品を詰め始める。


――その時。


「手洗いうがいしてきた...よ」


小さな声。


玄関に立つ、アイン。


「……え?」


視界に入る。


倒れている両親。


動かない。


「……なんで」


一歩、近づく。


「お母さん……?」


返事は、ない。


「お父さん……?」


崩れ落ちる。


意識が途切れる。


――そして。


「……ふざけんな」


低い声。


ゆっくりと、アインが立ち上がる。


だが、その目は――別人。


「……お前がやったのか?」


ナイン。


怒りが、空気を凍らせる。


床が白く染まる。


壁が軋む。


「――殺す」


瞬間。


家全体が氷に覆われた。


すべてが凍りつく。


強盗の男すら。


「チッ……!」


だが。


雷が弾ける。


氷が砕ける。


「厄介なガキだな」


体が、光へと変わる。


雷そのものへと変質し――


「じゃあな」


消えた。


残されたのは、凍りついた家。


そして、二つの遺体。


「……あ」


「……あ……あ……」


理解が追いつかない。


両親の凍った死体を見たナインはそのまま気絶してしまう。


――サイレン。


数分後。


警察が踏み込む。


「……なんだこれは」


凍結した室内。


死亡した男女。


そして、気絶した少女一人。


「……この子がやったのか?」


「異常登録は?」


「されていません」


一瞬の沈黙。


「――暴走だな」


冷たい結論。


「異常者スクールに送る」


その言葉は。


かつて両親が恐れていたものだった。


だが――


「いや、待て」


別の声。


「死人が出てる現状。厳重に管理すべきだ」


「収監対象だな」


決定は、早かった。


「確保しろ」


アインの両手に手錠をはめ、そのままパトカーへと運ばれる。


――もし。


あの日、何も起きなければ。


彼女は、ただの“生徒”として生きていたかもしれない。


だが現実は。


“囚人”だった。


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