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魔剣の扱い

「さて……それで、チェリルさんは聖剣……? を、手に入れたわけなんですが」


「すごく自信なさげですね!」


「自信ありませんからね。そもそも僕は、この剣を知りませんでしたし、今もこの杖に反応がないんですよ。本当に聖剣なのかを全力で疑っています」


「実際、妙な剣だからな。剣なのに喋っているし、名前があるし」


「わたし、昔持っていた剣に名前つけてましたよ!」


「さすがはお嬢様。剣に対してもそのように愛情深さを持ち得るとは、まさに天使のお心です」


 その、チェリルに対して全力で敬意を表す姿勢はどうにかならないのだろうか。

 僕が下手に話しかけると、汚物を見るような目で見てくるくせに。


「昔の剣は、めざし、って名前をつけていました!」


「さすがはお嬢様。時代の先を行くセンスをしておられます」


「えへへっ! そんなに褒めなくても!」


「いえいえ、このマリカ、お嬢様の一挙手一投足全てが、この世の宝だと思っております」


「この世の宝が秒単位で増えすぎではありませんか?」


 あ、やっぱり汚物を見るような目で見てきた。

 まぁ、それは置いといて。


「ちょっとチェリルさん、剣を見せてもらってもいいですか?」


「え? はい、どうぞー」


「では、失礼して」


「な、なんだよ。男に触られる趣味はねぇぞ!?」


「僕もそんな趣味はありませんよ」


 つっ、と僕はベルグラードの刃に、己の指を当てる。

 当然、長く風雨に晒されていた刃は、簡単に切れはしないものだ。つっ、と刃を指でなぞって、ようやく皮一枚に傷が入る。


「――っ!!」


「ゼノさん!? どうかしましたか!?」


「むっ……この剣、もしかすると……呪いを与える魔剣かもしれません」


「えっ……!」


 指先から、血が滴る。

 簡単な傷ならば一瞬で塞がるのが、魔王である僕の体質だ。剣で薄皮一枚切ったところで、血など出ることはない。

 つまりこの剣は――僕を斬ることに、特化している。

 魔王を斬ることに特化している剣――聖剣だということだ。


「な、なんと……! ゼノさんが呪いに!?」


「いえ……傷が浅いので、まだ分かりませんが……治癒力を減衰させる呪いでしょうね。斬った対象を呪うタイプの剣……なるほど」


 大嘘である。

 僕にだけ効果があるというより、そういう呪いを持っていると勘違いしてくれる方が今後やりやすい。

 何よりベルグラードのこの見た目、聖剣感が全然ないから助かる。


「魔剣、ですね」


「おいおいおい兄ちゃん! 俺様が魔剣ってどういうことだよ!」


「僕、事実呪われてますし」


「確かに!」


「お嬢ちゃんもそれで納得するのやめてくれねぇかな!? いやいやいや、俺な、別に悪い奴じゃないと思うんだよ! 多分だけど!」


 魔剣――ベルグラードが、一生懸命そう主張してくる。

 だけれど、明らかに見た目魔剣の奴にそう言われても、困るというものだ。分かりやすく言うなら、盗賊みたいな奴が「怪しくないっすよー」と近付いてきても、簡単には信用しないのと同じである。


「しかし、チェリルさんに聞こうと思っていたのですが」


「はい?」


「まぁ万が一それが聖剣だとして、それを『天樹教』に持っていって、勇者として認定されるわけじゃないですか」


「はい!」


「一応、振りだけでも魔王は探さないといけませんよね?」


 チェリルは、魔王を倒す気など全くない。

『天樹教』が、世界中に対して強要している『勇者特別約定』――宿泊施設の格安化、武器防具の格安化、様々なアイテムの無償提供、果ては他人の家に勝手に入って壺を壊したり樽を壊したり棚を漁っても無罪となる措置――を目的にして、勇者に認定されようとしているだけである。

 だが、それでも表向きは魔王を探さなければならないはずだ。


「まぁ、はい、そうなりますね!」


「どうやって探すんですか?」


「とりあえず、近所のダンジョンを色々回っていけばそのうち出会えるかもしれません!」


「それなら、とっくに冒険者が出会ってそうですけど」


 まぁ、魔王は僕だから、会えるはずもないんだけど。

 一応、何かプランでもあるのかと思って聞いてみたら、全くなかった。

 実際のところ今まで勇者って、どうやって魔王の情報を集めようとしていたんだろう。僕はこの千年以上、大陸中を放浪しているんだけど。

 彼らにとっての魔王って、四六時中玉座で偉そうにふんぞり返ってる奴を想像しているのだろうか。


「まぁ、そのうち会えると思いますよ! わたし勇者ですから!」


「そうですか」


 既に会っていることは言うまい。

 とにかく僕はこれから、チェリルに聖剣をぜんぶ抜いてもらわなければならないのだ。僕の体に刻まれた呪いを消すために。

 しかし、チェリルは聖剣だと思われる変な剣を手に入れてしまった。これで「わたしが勇者として認められます!」となるのが一番困る。

 だから、僕がやるべきことは――。


「さて、チェリルさん。それでは次の聖剣を抜きに行きましょうか」


「へ? ゼノさん、わたし、ベルグラードさんを手に入れましたよ!」


「ああ、それはですね」


「俺様、いつの間にか手に入れられてんのか!?」


「ややこしくなるので黙っていてください」


 僕が説明しようとした矢先で、ベルグラードが口を挟んでくる。

 手に入れる云々はどうでもいい。というか、本当に魔剣であってくれないかなこいつ。


「これは魔剣です。つまり、本来勇者であるチェリルさんが振るうべきでない存在です」


「わわっ! 捨てましょう!」


「捨てないでくれよっ! 俺だって生きてるんだぜ!? えっ、生きてんのかな俺!?」


「知りませんよ。ただ、こんな剣ではありますけど、丸腰のチェリルさんには丁度いい武器ではないかと思いまして」


「確かに、すごく軽いです!」


 今まで持っていた剣と比べて、安定感は段違いだ。

 これも恐らく、選ばれた聖剣ゆえに重さを感じないのだろう。多分、マリカあたりが持ったら物凄く重くなるはずだ。

 だから一応、今後チェリルを戦力として数えるならば、ベルグラードの存在が必要となってしまう。


「ですから、チェリルさんが選ばれし聖剣を抜くまでのつなぎに、ベルグラードを使えばいいんじゃないですか?」


「むっ……し、しかし、魔剣を使うとは、わたしの勇者としての、なんかそのアレが……!」


「ええ」


 まぁ、問題ない。

 僕は既に、チェリルに対する殺し文句は考えている。

 これを言えば、間違いなくチェリルは同意してくれるだろう、という一言を。


「右手に魔剣、左手に聖剣を持ってる勇者、格好良くないですか?」


「えっ! 何それかっこいいです!」

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