次の聖剣へ
「ふぇぇ……聖剣が、また灰になってしまいましたぁ……」
「お嬢様、ご安心ください。此度の剣は、お嬢様が振るうに値しないものだったのでしょう。お嬢様が振るうに相応しい、素晴らしい聖剣は必ず存在します」
「そう、でしょうか……」
「勿論です、お嬢様。むしろ、お嬢様に選ばれなかったこの剣は聖剣ですらありません。駄剣です」
「なんと、ここにあったのは聖剣でなく、駄剣だったのですか!」
マリカの口先に、完全に騙されてしまっているチェリル。
むしろ、どうしてそんな風に、人の言葉を完璧完全に信じ込むことができるのだろう。
「はいはい……とりあえず、気持ちを切り替えていきましょう」
「……貴様、あまり驚いた様子がないな」
「え?」
「お嬢様が剣を抜き、その剣が灰となった。それが分かって、お嬢様に剣を抜かせたのか?」
マリカが、僕をそう睨み付ける。
確かに、この未来は僕にとって分かっていたことだ。チェリルが聖剣を抜く、僕の呪いが解ける、そして聖剣が灰となる――その未来が。
だが、僕は一応表向き、チェリルが扱うことのできる聖剣を探すたびに出ているのだ。ここで怪しまれるわけにはいかない。
「そ、そうなのですか、ゼノさん!」
「いやいや……そんなわけないじゃないですか。僕だって、驚いていますよ」
「本当か?」
「ただ、前回……ローレンス洞窟でも、聖剣は灰になりましたからね。今回もそうなるんじゃないかと、少し思っていたものですから」
「ふむ……」
マリカが、疑うように僕を見てくる。
だけれど僕は、とりあえず自己弁護をするだけだ。事実、僕は目の前でチェリルがローレンスの聖剣を抜くまで、聖剣が灰になるとは思っていなかったのだから。
だから今回も多分、灰になるんだろうなー、くらいの気持ちではあった。
「まぁ、いい。早く、次の聖剣の場所を教えろ。こんな、誰にも見つかっていない辺鄙な場所の聖剣も知っていたのだ。次の聖剣にも、当てはあるのだろう」
「ええ。僕の知っている聖剣は、ブリスペル国内にもう一本あります」
マリカの言葉に、頷く。
ただ、少しだけ嘘は混ぜている。実際のところ、ブリスペル国内にあるのはもう二本だ。うち一本は、絶海の孤島クロア島の海中洞窟に存在するため、後回しにしたいというのが本音である。
だから、僕が知っているのは残り一本。
比較的、危険度の低いダンジョンにある聖剣だ。
「ファンデル州、リガの街。ご存じですか?」
「ブリスペルの西端、ロシュフォールとの国境近くの街だな」
「そうなのですか?」
「そうです、お嬢様。かつて、ロシュフォール王国と戦争になったとき、最前線となった街でございます」
「はわー。そういえば、歴史の授業で聞いた気がします!」
リガの街は、ゼッツブールの街から歩いて三日ほどの位置にある、小さな街だ。
マリカも言ったように、かつてはブリスペル共和国とロシュフォール王国の戦争が起こったとき、最前線として兵が集まっていた街でもある。現在ブリスペルとロシュフォールの間には不可侵の条約が結ばれているため、専らブリスペルの入り口として交易の中心にある街だ。
もっとも、今はロシュフォール王国内で内乱が発生しているため、ほとんど国交はないようだが。
「そこに、聖剣があるんですか?」
「ええ。リガの街から少し離れた、ミスリフの岩山――その頂上に、聖剣が刺さっています。これは、僕もこの目で見ていますので、間違いありません」
「では、今度こそわたしの聖剣がそこにあるのですね!」
「チェリルさんが選ばれるかどうかはさておき、間違いなく聖剣はあります」
また抜いたら灰になるだろうけれど、聖剣の姿は僕も確認した。
岩山の頂上とはいえ、それほど高い山というわけではない。ほとんど魔物も出ることがないため、今回は特に冒険者へ依頼するとか、そういったことはしなくてもいいだろう。
そして何より、ミスリフの岩山に刺さった聖剣――その呪いは、僕の左腕だ。
現在、二十七本の聖剣によって、僕にかけられた呪い――そのうち二つを、解除している状態だ。
一本目、ローレンス洞窟で抜いた聖剣によって、左大腿を。
二本目、ウェイデン遺跡で抜いた聖剣によって、左肩を。
そして三本目――ミスリフの岩山に刺さっている聖剣は、左腕の呪いである。
つまり上手くいけば、左腕の権能――『森羅万象の創造』を、僅かにでも顕現させることが可能かもしれない。
そして何より、四肢が老人並の僕ではあるが、左腕の呪いが二つ解かれた場合、少なくとも左腕は常人並に動かすことができるようになるだろう。
「道中でヤルバの村という小さな農村がありますので、そちらで宿をお借りする形で……まぁ、リガまでなら四日もあれば到着するでしょう。一応、保存食は購入してありますので、このままリガまで向かう形にします」
「ゼッツブールには戻らない、ということですか?」
「そうです。まだ日も高いですし、行ける場所まで行きましょう」
「お風呂には入れますか?」
「入れません」
マリカの言葉に頷き、チェリルの言葉を却下する。
何をどう考えれば、これから旅をするのにお風呂に入れることになるのだろう。その思考回路がどうなっているのか、一度見てみたいものである。
ヤルバの村も本当に小さな農村であるため、お風呂などあるわけがないだろう。せいぜい、沸かしたお湯を貰って体を拭くくらいだ。
「ではお嬢様、長旅でお嬢様が足腰を痛められてもいけません。ここは、このマリカがお嬢様を背負って向かうことにいたします」
「おお! さすがはマリカです!」
「本当ならば、お嬢様の移動にあたっては輿を用意せねばならぬところ、このような侍従の背中で失礼します」
「ええ、構いません。そのうち、ゼノさんが用意してくれるはずです」
「用意するわけがないでしょう」
何故か背中を差し出すマリカと、その背にあっさり飛び乗るチェリル。
一応、このパーティでは唯一の戦力であるマリカなんだが。まぁ、さっきゴブリンを足技だけで倒していたし、どうにかなるか。
そして、輿など絶対に用意するつもりはない。何様のつもりだ。
「さて、それでは行きましょう」
次の目的地は、ファンデル州リガの街――近くにある、ミスリフの岩山。
今のところ、二本。順調な旅路と言えるだろう。
この調子で。
勇者の聖剣、ぜんぶ抜く。




