考える
「おう、それじゃ、俺らは寝るぜ」
「はい。良い夜を」
冒険者パーティ『天竜の翼』に対して、僕はそれ以上何も聞かなかった。
下手に僕が聖剣の存在を臭わせるわけにもいかなかったし、彼らが隅々まで探索してなかったと言うならば、本当になかったのだろう。であれば、聖剣はどこかの隠し部屋に存在していると考えていい。
そもそも、僕は呪いの発信源からウェイデン遺跡だろうとあたりをつけているだけであり、ウェイデン遺跡に聖剣が存在するという噂は、耳にしたことがないのだから。
そして、そうなるとまた次に浮上してくる問題もある。
「……」
ぐおぉぉぉぉ、と激しいいびきが部屋の中に響く。
三人のうちの誰かであるのなら別にいいが、三人揃って激しいというのはどういうわけなのだろう。だが屈強な大男たちであるし、今まで文句は言われなかったと思われる。そして、別段眠る必要のない僕も、特に文句を言うつもりはない。
問題というのは、冒険者ギルドの認識と本当の数の相違だ。
冒険者ギルドは基本的に、雇っている魔術師による『生命感知』を用いて魔物の魔力を確認し、ダンジョンの中に入ることなく魔物の数を認定する。これを、全てのダンジョンに対して一定期間ごとに行っているのだ。
だがこの『生命感知』も確実というわけではなく、そこに少なからず差異が生まれることはある。しかし、そこに大きすぎる差が生まれることはない。
今回で言うならば、『生命感知』により五十体程度のゴブリンが生息していることを確認していたが、実際には二十体しかいなかった、といった差――三十体もの差は、なかなか生まれにくいのである。
ゆえに、可能性としては二つ。
パーティ『天竜の翼』がウェイデン遺跡の討伐をする前に、他の冒険者がゴブリンの素材を求めて、先にある程度の討伐を行っていた。
それなら、僕としては助かる。これからウェイデン遺跡へ赴き、隠し部屋を探し、聖剣を抜くというだけの仕事だからだ。
だが、もう一つの可能性。
それは、隠し部屋の中に大量のゴブリンがいるということ。
ザックスたちの発見できなかった場所に、ゴブリンたちと聖剣が同時に存在するということだ。もしもこの可能性が正しければ、僕たちは隠し部屋を発見すると共に、大量に存在するゴブリンたちを倒さなければならない。
「はぁ……」
響く三重奏のいびきの中、僕は小さく溜息を吐く。
こうならないために、僕は先に冒険者への討伐依頼をしたというのに。たった二十体程度を倒してくれる程度で、銀貨十五枚の損失は大きい。
そして、ゴブリンが大量に残っている可能性を考えるならば、僕とチェリル以外に戦力が必要となる。
ただでさえ、聖剣を抜く以外に何の取り柄もないチェリルと、四肢老人並の僕というパーティである。遠距離から初級魔法を、僕の魔力が尽きるまで放ち続けて、ゴブリンを数匹倒せるかどうかといったところだ。そうなれば、残るゴブリンにチェリルが蹂躙されるだけである。
ゆえに、僕たちに加える戦力が必要となる。
「……」
選択肢は、幾つかある。
最も簡単なのは、冒険者ギルドで依頼を出すことだ。ウェイデン遺跡の探索に関する、同行依頼である。
それこそ、ザックスたちのようなランクの高い戦士が、一人同行してくれるだけでも大きく違う。僕が後方から支援に努め、チェリルが自身の防衛に努め続けていれば、時間はかかるだろうけれど討伐ができるだろう。
だが、これには二つ問題がある。
依頼を出すことそのものは簡単だが、冒険者の質は選べないという欠点だ。対外的には、ザックスたちによって掃討されたウェイデン遺跡の再調査という形になるため、ほとんど魔物のいない場所だと冒険者たちは考えるだろう。そうなれば、それこそ何の経験もないような新米冒険者が現れてもおかしくない。
加えて、本来冒険者を雇うのにかかる費用に加えて、冒険者ギルドの仲介料もかかってしまう。もしも妙な冒険者を仲介されれば、それこそ払い損だ。
「……」
二つ目は、僕が明日の朝にでも彼ら――『天竜の翼』連中に話を持ちかけて、個人的に雇うことだ。
既にウェイデン遺跡の討伐――ゴブリン二十匹討伐済みという実績を持っている以上、信頼はできる。そして言い方は悪いが、ゴブリンの掃討を銀貨十枚で請け負う程度には、金に困っていると考えていいだろう。
三人を一日だけ、ウェイデン遺跡の再調査を一応行いたいと誘う。恐らく、一人あたり銀貨十枚も出せば、問題なく同行してくれるだろう。そして隠し部屋などを発見し、そこに巣くうゴブリンを倒してくれれば何よりである。
だが、これも何の問題もないとは言いがたい。
僕はザックスに対して、聖剣の存在を臭わせたのだ。そして隠し部屋があるかもしれないと告げると、僕が何かを知っていると思われる可能性がある。
そしてこれは、一つ目でも可能性はあるけれど、冒険者というのは貪欲で強欲なのだ。隠し部屋があると分かれば、そこに財宝が存在すると考えて先に乗り込まれるだろう。それによって聖剣を抜かれることはないだろうが、先に何もかも探索されてしまう。その間、僕たちは聖剣を抜くことができないのだ。
さらに、彼らが探索をやめてから僕たちが向かって聖剣を抜き終えるとなれば、その後にトラブルが発生する可能性もある。誰が抜いたのか――それは、ザックスたちからすれば完全に僕の仕業だと思うだろう。
「はぁ……」
つまり、僕たちの取るべき選択肢は、三つ目。
とりあえず交渉はしてみるけれど、頷いてくれるかどうか――それは、僕の口先でどうにかしよう。
「おう、お前さんはまた早いな」
「ご主人も、随分早くからいるんですね」
昨日と同じく朝一番に宿を出ようとすれば、やはり受付カウンターに主人が座っていた。
一体、何時に眠っているのだろう。僕と違って、睡眠が必要だと思うんだけれど。
「年寄りは朝が早いんだよ。お前さん、今日は仕事か?」
「ああ、今日は冒険者の仕事です」
「そうかい。生きて戻んならまた泊まりに来な」
「ええ」
主人の言葉に、僕は頷く。
だけれど、もう今夜は泊まりに来ない。今後どうなるにしても、僕はゼッツブールから離れることになるだろう。
さて。
僕はひとまず、ロビーで待つなんて愚行はやめて、チェリルを叩き起こしに向かうとするか。




