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本日付で、クビになりました。~三十六歳、異世界に再就職します~  作者: くまきち
第一章:ちょっと異世界まで
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23話:異世界研修一ヵ月 ホコリまみれのランプ

 では、今日から最終週の始まりです。


 採用されるように、頑張るぞー!




「おはようございます」

「はよーっス、サワッち」


 いつもの扉を開いたら、弟子が挨拶をしながら手を振っていく。

 後ろからは親方も来て、わたしが週末に渡したウェストポーチを持っている。


 親方が持つと、こんなに小さいんだ……。


 改めて親方の大きさを再認識していたら、ずいっと目の前に掲げて言った。


「助かった。約束通り、返すぞ」

「はい。わたしも持ってきました」


 腰の位置を調整する場所もイジったようで、少しぶかぶかだ。

 ぎゅっと絞ったら、いつもの出勤スタイルの出来上がり。


 いつの間にか、この格好が安心するなあ。


 ウェストポーチを腰に着けたら、わたしは代わりに大きな瓶を渡していく。


「ん?青い実を渡したはずだが?」

「それが砂糖……アイラコと混ぜたら、赤く変化したんです」


 これには、わたしもかなり驚いたよ。


 青いジュースに柑橘を入れることで、赤く変化するものがあることは知っていたけれど。

 アイラコの成分と反応したのか、熱が加わったからなのか、青いカミラフの実を煮詰めたら、赤くなってしまったのだ。


「味はちょっと酸っぱかったですけど、美味しかったです」

「そちらの保証は私もします」


 キリッと真面目な顔で、味見をした安達さんも問題なかったことを話していく。

 そっちにはちょっと呆れた視線を向けた親方と弟子は、手元の瓶に集中することにしたらしい。無視とも言うね、うん。無視でいい。


 外から瓶の中を見ていた弟子が、首を傾げながら呟いていく。


「色の変化が、効能とも関わってきたりするんスかね?」

「まだわからん……が、ツタでも実験してみるか」


 いつもは乾燥させるだけのツタも、内側は微妙に青いらしい。そのまま粉になるだけだったから、同じように煮詰めてみると親方が話していった。


 ふぅん……。ツタも赤く変化したら、効能があることになるのかな。


 そっちのことはよくわからないから、煮詰めたら美味しくなったことと、体調に変化はなかったことだけを伝えよう。


「試しに帰ってからお酒を飲んで、煮詰めたジャムをお湯で溶かしてみたりもしたんですが……。こちらに関しては、わかりませんでした」


 二日酔いに効く実験もしてみたことを伝えて、やっぱりあんまり酔わないわたしでは、そもそもまともな実験にならなかったことも付け加えておく。


 利尿作用も特になかったけれど、そこは言わない。

 自分から言うのは恥ずかしいから、何かこう、うまく察してくれ。




 わたしが渡したカミラフの実のジャムは、早速、親方が色々と試してみることになった。


 弟子は今日もわたしと一緒に、カウンターの中と外でお客さんの相手だ。


「しっかし、青が赤になるとか、どういう意味になるんスかねえ」

「ツタで同じ反応があれば良いんですけど」


 今日はお客さんはまばらで、そうすると、こういう雑談が増えていく。

 弟子はさっきからチラチラ後ろを振り返りながら、どういう結果が出たのか気になっているらしい。


「今日はお客さんも少ないみたいですから、のぞいてきますか?」

「いや、サワッちと一緒に店を任されたんス。昼まで待つっスよ」


 前は、奥の部屋でパンケーキを作ると言ったのに、今日は真面目にお店を守ると言い切った。

 それでも気になっているようで、名残惜しそうに後ろを向いたままだけれども。


 それなら、わたしは何をしようかな。


「ふむ……」


 お金は整理してあるし、お茶っ葉の補充も済ませてある。

 カウンターもテーブルも拭いたから、後は何をしようかとお店の中を見回した。


 カウンターの右側は、薬草をまとめた袋や箱が詰まって並んでいる。

 こっちは定期的に売れる商品が中心だからか、ホコリっぽいことはない。


 それなら左側の鍵付きの棚を拭こうと見やったら、奥のほうで何かが光ったような気がした。




「なんだろう?」


 一番上の棚には手が届かない。

 そこはゴツゴツした加工前の鉱物が並んでいるのだと、前に聞いたことがある。


 加工前なことと、梯子を使わないと弟子も届かない上段ということで、この棚は鍵が掛かっていない。鉱石の入った、大きなたるのような瓶が並んでいるだけだ。


 二番目の棚は、ガラスの引き戸がついている。もちろん、鍵も。

 鱗が見える気がするから、瓶の中に入っているのは生き物なのかもしれない。……深く考えないことにしよう、うん。


 三番目は、一番色んな種類が並んでいる棚だ。


 棚の右半分にはガラスの蓋つきケースが置いてあって、加工済みの宝石が並んでいる。これは、ちょっと前に大量に盗まれようとした物でもある。

 そのガラスケースの下にも引き出しが付いていて、また違った宝石が並んでいるらしい。こっちも鍵が掛かっているから、まだわたしは見たことがない。


 そして同じ棚の左側には古めかしい、中身の見えない瓶が並んでいる。


 この奥が光った気がしたんだけど、気のせいだったのかな?


「サワッち、どうかしたんスか?」

「こっちの奥が光った気がしたんです。ちょっと動かしても良いですか?」

「いっスよー」


 ちょっと上に行ってくるという弟子の言葉に頷いたら、手前の瓶から動かそうと手に取った。……お、重い。


 いつも手前を軽く拭くだけだから、あんまりじっくり見たことがないんだよね。

 ついでに奥まで掃除をしようと、カウンターに運んでいったら、ようやく光っていたものの正体が判明した。




「……ランプ?」


 なのかな、これって?


 カレールーを入れるような、横長の器。

 細長い先端の反対側には、つるんと丸い取っ手がついている。


「本や映画に出るような、ランプに見えますが……」

「やっぱり、ランプですよね?」


 蓋がついているけれど、これは開けられないみたいだ。本体に鍵が掛かっているのかもしれない。


 安達さんにも確認してもらってから、中身が見えないホコリだらけのランプが、どうして光ったように見えたんだろうと首を傾げる。


「それこそ、中に何かが入っているとか?」

「ランプの精とかですか?……なるほど」


 ホコリを被っているから、磨いてくれという意味で訴えたのかもしれない。


 カウンターを振り返って、ランプの前に置いてあった瓶はそれほど汚れていないことを確かめる。

 それなら、このランプを磨けばいいのかな?


「……ん?ランプの精が中にいたら、磨いた途端に出てきませんか?」

「それはさすがに、本の中だけでしょう」


 肩をすくめた安達さんには、何を言っているんだと突っ込まれてしまった。


 しかしだね、ここをどこだと思っているのかと呆れた視線を向けてやる。


「……そうですね、ここは異世界でした」

「そうですよ、ここは異世界なんです」


 忘れがちだけれど、人間以外の種族もたくさんいる異世界なんだよ、ここは。




 安達さんと現在地の確認を済ませたら、改めてランプを見やるわたしたち。


「汚れているので拭きたいです。……が」

「何かが出てくるのなら困りますね」


 本や映画の世界みたいにランプの精が閉じ込められていて、磨いたらご主人様と言われ、願いを三つ叶えようと言うだけならいい。


 しかし何度も言うけれど、ここは異世界。

 わたしの世界の常識が通じない、わけのわからない世界なのだ。困った。


「軽ーく、ホコリを落とすだけなら良いでしょうか?」

「確か、布で磨くと出てくる設定ですよね?それなら、まあ……たぶん大丈夫、で、しょうか?」

「うーん……」


 さすがにランプの精までは把握していなかったようで、安達さんもどうしたものかと首を傾げたままだ。

 見つけたからには磨きたい。けれど、何かが出てきて巻き込まれたら困る。


 こういう時に、弟子は戻ってこないんだよなあ……。

 何か新発見がわかって、親方と語り合っているんだろうか。


 わたしが二階の方角の天井を見上げたことで、安達さんも顔を上げる。そうしてお互い顔を見合わせたら、小さく頷き合った。


「何もしないで片付けることにします」

「それが良さそうですね」


 お店の棚にあるってことは、商品の一つなんだろう。

 それなら戻ってきた弟子か、昼食の時に親方に訊いてみればいいんだもんね。


 触らぬ神に祟りなしってことで、そっと棚に戻すことにした。


 ふう、ふう……。移動したほかの瓶が、お、重い……。




「そういや、サワッち。さっきの光ってたヤツの正体ってわかったんスか?」


 結局、昼食の時間ギリギリまで戻ってこなかった弟子が、食べ終わったら訊いてきた。


 やっぱりというか何というか、効能を調べていた親方と一緒に結果について盛り上がりすぎて、お店のことを忘れていたらしい。

 こんな調子で今まで、よく大丈夫だったな。


 もしかしなくとも、何かしら盗られたりしなかったんだろうか?


「店に人が来た時点で、こっちに知らせが来るんスよ」

「そうなんですか」


 ちなみに、三階にいてもわかるようになっていると話してくれたけど、具体的にどういう知らせなのかは教えてくれなかった。


 言えない理由は、防犯上の何かかな?

 さすがに本採用じゃない試用期間中のわたしに、そこまで深い話はできないか。


「いや、オレが説明できないだけっス」

「あ、そうですか」


 よくわからない仕組みらしく、弟子は理解していないとカラッと笑っていった。

 それでいいのか。……そうか。


 親方が遠い目をしているけれど、わざわざ説明をする気はないらしい。もしかしなくとも、親方もよくわかっていないんだろうか。


 大丈夫かな、このお店。セキュリティ的にも、色々と。


 わたしが頭を抱えそうになったけれども、今は脇に置いておいて。

 ちょうどいいので、さっきの不思議なランプについて訊いてみることにしよう。


「光っていたものは、こういう形のランプ、で良いんでしょうか?それでした」

「ん?」

「……それか」


 弟子はそんな商品はあったかと首を傾げて、親方はちょっと顔を歪ませている。トントンと顎を叩いたら、何かしたのかと訊かれてしまった。


「出しただけで拭いてもいません。かなりホコリっぽかったんですが、こういう形のランプを磨くと中から妙な物が出てくる、という話を読んだことがあるんです。なのでそのまま、同じ位置に戻しました」


 ランプの精の話をしつつ、あり得ないだろうけれどわからないから、何もしないまま元に戻したと話していく。


 わたしの言葉に弟子は「なんスか、ソレ?」ともっと首を傾げて、親方は小さく溜息を吐いていった。


「ああ、何もしなくていい。アレは売れ残りのヤツでな。オレの親方から譲られたモンなんだ」

「そんなに古いんじゃ、オレは知らないっスね」


 何もしなくて正解ってことは、磨くと厄介なものが出てきたりするのかな?


 良かったとホッとしたら、午後からの仕事を頑張ろうとお店に降り立った。




「……」


 午後からもお客さんはまばらで、そうすると、ちょっと気が散ってくる。


「……」


 業務日誌を書いたり、午前中に売れた薬の名前と値段を覚えたり、カウンターの中でノートを埋めているわたし。


「……」

「沢村さん?」


「……ああ、もう、まぶしいっ!」


 手元のノートに集中しているのに、チラチラと視界に謎の光が入ってくる。


 何を訴えているのかわからないけれど、鬱陶しいのは一人だけで十分です!


 バンッとカウンターを叩いて勢いよく立ち上がったら、例の棚の前まで一直線に向かってやる。


「サワッち、どうかしたんスか?」


 急に立ち上がって叫んだわたしに、弟子も驚いてカウンターから出てきた。

 その弟子に顔を向けながら、棚の一角をビシッと指差す。


「デーイさんは見えませんか?さっきからチラチラ鬱陶しく光ってくるんです!」

「そこ、光ってるんスか?……いやあ、オレにはちょっと見えないっスけど」

「私もわかりません」

「え?」


 今だって、棚の奥から光り輝いているというのに。

 弟子も安達さんも怪訝な顔をしながら、何が光っているのかわからないと、首を傾げていった。


「目が悪いだけじゃなくて、見えないもんも見えるんスか、サワッちは?」

「目が悪いんですから、見えないものは見えませんよ」


 特殊な現象が見えるのかと言われても、産まれてこの方、信じたことも見たこともないよ。


 ただまぶしいだけだと言うわたしに、弟子が微妙に首を傾げていく。


「親方は知ってるみたいっスもんね。まぶしくて仕事にならないと困るっスから、ちょっと訊いてきます」

「お願いします」


 棚の前では、わたしだけがまぶしそうに手をかざしている。

 その様子に光っていることを理解してくれたみたいで、ポンと手を叩いた弟子が親方を呼んでくると走っていった。


「沢村さんには、この棚がどんな風に見えているんですか?」


 安達さんはこの不思議現象に驚きつつも、前例がないことだからか上司に報告をするらしい。メモ帳を取り出したら、早速、色々と訊き始めた。


「そうですね……。棚に変化はありませんよ。なので、お店もいつもと同じです。ただ、この奥のほうから光の筋が伸びている感じです」

「光の筋ですね。……ふむ」


 カウンターの中にいれば、普通は棚の奥が光って見えるだけなんだろうけれど。午後からは、なぜかどの位置にいても、わたしめがけて光が追い駆けてくるのだ。最悪だ。


「それではまぶしいですね」

「はい、気も散って仕方がありません」


 横の人の鬱陶しさには、いい加減にちょっとは慣れたけれども。これは目の前に思いっ切り光が届くから、まぶしくてイラっとする。


「そこでなんで、私を見るんです?」

「安達さんのような光だなあと思ったからです」

「は?」


 それはどういう意味だと、きょとんとした顔で首を傾げている。


 しつこくて鬱陶しいのだと何度も言ったはずなのに、今のわたしの言葉は本気でわからないらしい。……マジか。




 どうしてくれようかと光と安達さんを見やっていたら、親方が降りてきてくれたらしい。


「あれ?」

「どうしました?」

「ちょっとだけ、光が収まったような気がします」


 本当にちょっとだけだから、気のせいかもしれないけれど。

 親方がお店に顔を出したら、うっすら控えめな光に変わっていった。


 それでもまぶしいから、なんとかして欲しいけれども。


「例のランプが光ってるって?」

「はい。でも、わたしにしかわからなようです」


 弟子と安達さんは自分たちには見えないと言ったことで、益々、眉間がぎゅっと寄せられていった。


 ものすごく眉間を寄せた親方が、棚の奥からランプを取り出そうと手を伸ばす。眉間が寄っているのは、仕事の邪魔をされたことに対する不機嫌もあるのかな。……すみません。


「コイツか、サワ?」

「あ、はい。それです」


 さっき取り出したランプを、親方もつかんで目の前に掲げていった。


 うわぁ……わたしは両手で持ったのに、親方は片手で良いんだ。やっぱり大きいなあとしみじみしながらも、そのランプがまぶしい原因だと話していく。


「ったく……。大人しくしていると思ったんだがな」

「え?」

「親方?」


 嫌そうに顔を歪めた親方が、小さく溜息を吐きながら、頭に巻いていたタオルで乱暴にランプをぬぐっていった。


 え、磨いても大丈夫なの?


 ちょっとオロオロしながら見つめていたら、ぼふっとランプの口から煙と一緒に何かが飛び出した。


「わっ!?」


『ちょっと―、モラン。ボクのことは丁重に扱えって言われなかった?』

「うるせえ。サワに迷惑かけんな」


「……へ?」


 煙と一緒に、ランプを逆さにしたような変な形の帽子をかぶった、派手な刺繍をしたベストを着た男の子が、親方を睨みながら文句を言っていった。


 ほ……本当に出た、ランプの精。




『まったくさー、あんな棚の奥に置きっぱなしってどういうこと?おかげでホコリっぽいわ誰も買っていってくれないわ……最悪じゃないか』


 現れた途端に文句をぶちぶちと言い出すランプの精には、問答無用で親方の重い拳が振り落とされた。


「うるせえって何度言ゃわかんだ、おめえはよ!」

『ぎゃんっ!っ……っっぅ……』


 あああ、めちゃくちゃ痛そう……。


 ゴンッという音と一緒に、わたしと弟子は思わず自分の頭を押さえてしまった。

 殴られないように、わたしも気を付けよう、うん。


 ランプの大きさはわたしの両手のひらくらいだけど、その中に入っていた精霊は、もうちょっとだけ大きめだ。

 それでも親方の片手サイズが、今は半分に縮んだのでは?というくらいにうずくまっている。


『いぃったいなあ、モランのバカ!ボクを粗末にするなって、親方に言われた言葉を忘れたのか!?』

「この店の親方はオレだ。オレの言葉がわからないヤツを大事にする義理はねえ」

『っこの、筋肉バカ!』


 フンッと一息吐いた親方に、ギャアギャアとランプの精が怒鳴っていく。


 けれどはたから見れば、手のひらサイズの小さい男の子が、二メートル近い巨大な親方に抗議をしているんだから、小鳥のさえずりにしか聞こえない。可愛らしい。


「サワッちって、やっぱり目が悪いんスね」

「え?」


 呆れた視線を向けた弟子に、何だか失礼なことを言われた気がするぞ。


「親にエサをねだる、小鳥のように見えませんか?」


 ピーチクパーチクと、両手を振っているところも翼を広げて催促しているみたいではないか。


「耳も悪いんスね……」


 ダメだこりゃと首を振ったら、手も振っていく弟子。

 どうやらここでも、わたしは何か間違ったらしい。


「飛竜より可愛さはありませんけど、怖くはないですよね?」

「怖い存在ではありませんが、可愛くもありません」

「あれ?」


 安達さんに確認したら、どっちも可愛くないと言われてしまった。




「……それで、サワに何の用だ?」


 二度目の拳骨ゲンコツを喰らったランプの精は、ようやく大人しくなってくれたみたい。いや、痛すぎて声が出ないんだな。

 ものすっごく震えているし、涙目になっているもんね。


 もう一発いっとくかと握り直した親方を制して、慌ててわたしに振り返った。


『オーガや巨人族にも普通の対応をしてるお嬢ちゃんなんて、珍しいじゃないか。それに、ガーゴイルも磨いたんだろう?ボクのこともキレイにして欲しくて、なけなしの魔力を使ってアピールしていただけだよっ』


 ランプの本体とランプの精は繋がっているようで、ホコリっぽい自分の全身を指差しながら、綺麗に磨いて棚に並べて欲しいのだと訴えてきた。


「他に、目的があるんじゃねえだろうな?」


 あぁ?と上から睨みつける親方の表情は、今日も山賊みたいに険しい。

 それでも昔から知っていて慣れているのか、ランプの精はむっと頬をふくらますだけだ。


『ピカピカになった、ガーゴイルがうらやましかっただけだよ』


 だから手に取ってくれた時は嬉しかったのに、そのまま戻されてガッカリしたと涙ながらに訴えてくる。


「磨くくらいなら問題なさそうだな」


 シクシクと泣き真似をしているランプの精は、チラチラと指の隙間からわたしを見ている。あざとい。


 しつこくしつこく光を放っていた時のように、このままでは毎日、磨くまで絡んできそうな鬱陶しさを感じるなあ。


「そこでなんで、私を見るんです?」

「安達さんみたいだなあと思ったからです」

「は?」


 しつこい人は、これ以上いらない。

 磨いてくれたら光は出さないと約束したことで、ようやくわたしの手元にランプが戻ってきた。


『さあ、丁寧に磨いておくれよ、お嬢ちゃん!ボクは、そんじょそこらの精霊とは違うんだからね!』


 売れ残りなのに態度がデカいなあということは、特に突っ込まず。

 ペラペラしゃべるランプの精を無視しながら、キュキュッと丁寧に磨いていく。


 まあね、わたしも気になっていたからね。

 こうして磨くことができて、スッキリしたよ。




 蓋の隙間が大事なんだとか、細長い口の部分はもっと丁寧にとか、小姑のようなことを言われながらも、ランプが満足をするまで磨いていく。


『いいねえ、いいねえ!ハッハー!これがボクの本来の姿さ。刮目かつもくせよ!』


 じゃじゃーんという効果音が鳴りそうな、大袈裟に両手を広げて注目するように言ってきた。


「じゃあ、これでいいですね」

『お嬢ちゃん!?』

「悪かったな、サワ。奥に仕舞っとく」

『モラン!?』


 わたしの手から親方に、ランプが渡されていく。

 そのまま棚の奥の奥に仕舞われて、前には重い瓶を何重にも置いて見えなくしてしまった。


 さすが、親方。アフターサービスもバッチリだね。


「あー、これで仕事ができるっスね」

「はい、スッキリしました」


 途中から、ランプの精の声がうるさすぎると耳を塞いでいた弟子が、清々せいせいした顔でカウンターに戻って行った。

 わたしも一緒に戻ったら、新しい薬の効能を覚えようとノートを開く。


『おおおいいいぃぃぃ!!!』


 光は出さずに、声を張り上げたランプの精が全身で訴えていく。真面目か。

 すかさず親方が拳を握って、棚の奥をジロッと睨んだ。


「うるせえ!叩き落とすぞ!」

『……』


「……」


 親方に怒られたランプの精は、それからしっかり黙ってくれた。


 ……ふう。これでようやく、静かになったね。


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