表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/128

23話:異世界についての説明会 前編

「……ええと、ここまでがいつも来る四階だね」


 建物の外から見たけれど、やっぱり四階までしか見えなかったんだよね。いつも使う階段は入り口側にあるから、五階があるとしたら見えないはずはないのに。


「それとも、こういうところから試験だったりする?」


 見える人、もしくは五階までの階段を上がれる人だけが異世界への講座を受けられるとか。


「いや、ないな」


 今まで通っていたハローワークの建物が、異世界に通じているとか。そんな特殊なところが、家から二駅にあるとか考えたくない。


 ないないと首と手を振りながら、五階へ向かう階段を上がったら普通に着いた。ほら、そんなことはあり得ないじゃん。


 ホッとしながら登り切ったら、部屋の前にはいつものテーブルが置いてあった。




「さすが沢村さんですね。そして、見事に来れましたね。おめでとうございます」

「へ?」


 パチパチと感心するように手を叩きながら、いつものお兄さんが受付にいた。

 っていうか、どういう意味?


 他の講座と同じく、ハローワークカードを見せたら出席のチェックをしている。そうしてテキストの置いてある場所に座ってくださいと言われるけれど。

 いや、今の言葉の意味を説明してくれよ。


「え、そのままですけど?」

「何がですか」


 きょとんとするんじゃない。意味がわからないって言っているじゃないか。


「そのままは、そのまま・・・・ですよ。五階に続く階段を見つけられることも最低条件になったんです。先日、お話したでしょう?異世界に行くための、注意事項が変更になったと」

「ああ、はい。……それが?」


 それでどうして声を掛けられたのに、五階に上がれるかどうかまでが審査対象になっているのだと言うわたしに、そもそも声を掛ける人も綿密に審査をしていると言われてしまった。え、監視カメラとかで見張られていたの?


 思わず電話越しでも寝ていたことがバレた岸さんの時みたいに、キョロキョロと周囲を見回したら、そうじゃないと手を振っていく。


「ハローワークには今までの活動記録が残るでしょう?そこから職業相談での会話や今までの講座への姿勢、求人票の応募回数などから決めているんです」


 それでもセミナーが始まるまでの間に調べたところ、異世界に行かせるには困りそうな人だったなら、声を掛けていても五階には辿り着けないようになっていると話す。

 それでチラシも曖昧に書かれていたのかと、疑いたくなる用意周到さだ。


 ……もしかしなくとも、やっぱり怪しい場所に来てしまったんじゃないだろうか。五階が見つけられないとか、何かの魔法までかけられているの?


 ものすごく顔が歪んでしまったからか、お兄さんがポカンとした顔をしている。それよりも、今すぐ帰りたい気分になってきたんですけどいいですかね。


 けれど今日もニコニコ顔のお兄さんは、手を振って恐ろしいことを呟いた。


「ここまで来た人は帰しませんよ。むしろ、異世界に行っても大丈夫だということがよくわかりました」

「は?」


 前に面接に行った会社では、二つ隣りの県にある会社のほうに行っても良いかということを突然訊かれたけれど。

 それと同じで、こいつなら知らない世界に飛ばしても大丈夫だろうという何かがわたしにはあるのだろうか。


 財産はなくて、家族は両親だけ。親戚や友人とも疎遠なら、行方不明になっても問題にする人はいなさそうだけど。……自分で言ってて落ち込む交友関係の狭さと交流の浅さだな。


 ちょっと頭を抱えたくなるわたしに、とりあえず中に入るように別な人が言っていった。




 そういえば、今日は他にも人がいるんだ。


 長めの前髪に似たような太い黒縁眼鏡、特徴のないダークグレーのスーツ。社風なのか何なのか、雰囲気も同じ気がする。

 わたしよりも空気な、すぐに忘れそうな凡庸な見た目の人が並んでいて、一瞬、分身したのかと思ったくらいだ。


 特徴のない雰囲気を重要視している会社かもしれないのに、失礼な言い方をしてしまったな。

 無職のわたしと違って、怪しくても仕事をしている人なのに。……怪しいけど。


 部屋の中にはまだ誰も来ていなくて、女の人が何かの機械を設置しているところだった。女性もいるなら、ちょっとだけ安心かも。


 それでもテーブルは三つでテキストが五つしか並んでいないことが、またしても不安しか感じないけれど。


 ん?五人しか参加者がいないのに、講師の人が多くない?


 受付にいたのはいつものお兄さんともう一人、部屋の中では女の人を含めた三人が整えている。

 つまり、マンツーマンでの説明会ってこと?


 参加者の少なさと講師の多さにウロウロするわたしに、気付いたお姉さんが声を掛けてきた。


「後半は個人面談と、それぞれに合った就職先についてお話しますので同じ人数になります」

「はあ……」


 親切なんですね。でも、そこがまた怪しいですね。


 ちょっと顔を引きつらせながら、座って静かに待つことにする。だってせっかく来たしね、うん。




 時間になる少し前に、わたしの他の参加者の人たちも五階に辿り着けたらしい。無事に五つの椅子が埋まって、説明会の始まりだ。


 あ、最初はいつもの講座みたいに一人が前で説明をして、もう一人が後ろで待機らしい。他の三人は部屋の外にいるようで、小さくホッとする。

 五人がズラッと前に並んでいたら、圧迫面接みたいだもんね。


 わたしが先に座っていたことで、他の四人はものすごくホッとした顔をしながら入ってきた。やっぱり緊張するよね。だって就職先は異世界なんだもん。


 まずはビデオを見ることになり、続いてテキストを使っての説明だ。ここまではいつも通りといえば、今まで参加した講座と同じだね。


 ……ふーん、なるほど。


 とりあえず、研修期間というものが受けられるらしい。それは前に参加しようとして挫折した、職業訓練みたいなものだと話してくれた。

 ハローワークが主催の公共職業訓練ということで、日当や交通費が出るところは助かるな。……交通費の意味が、ちょっとわからないけど。


 そういえばどうやって異世界に行くんだろうと不思議に思ったから、ここは後で訊いてみようとメモっておくことにしよう。

 他の人は疑問に思わないらしく、研修期間なのにお金がもらえてラッキーという感想だけみたい。……そんなに気楽なんだ。


 わたしが考え過ぎなのか、ここまで細かく考える人がいないだけなのか。性格の違いかなということにして、次のページをめくっていくことにしよう。


 しかしこのテキスト、全異世界共通のことしか書かれていないらしい。

 わたしが気になる食事事情や言語についても、”その世界による”の一点張りだ。なのでとっても薄い。……大丈夫、これ?


 色々と書き込んでいるわたしの周りでは、ふぅんという感じで聞き流している人しかいない。……この中で同じ異世界に行くことになる人がいても、何だか頼りにならなさそうだなあ。


 だからって、この中で一番小柄なわたしが頼りになるかと言われても困るところだけれども。


「では、共通の話は以上です。次に、テキストと一緒に置いてあったアンケートをご記入ください」


 アンケートについてはみんなが聞いていたみたいで、筆記具を取り出してサッとテキストを脇にずらしたら、同じくらいの厚さのアンケート用紙を書き始めた。

 おっと、わたしも書かないと。




 ……ええと、ふむふむ?


 『次の項目で気になっていることは何ですか?』


 これは前にもやった、履歴書講座のチェックシートみたいだね。

 あれは興味のある仕事と、したくない仕事についてが分かれて書かれていたものだった。


 けれど目の前にあるのは、異世界に行くためのチェックシートだ。


 これにはたっぷりの時間を割いてくれるようで、次の休憩時間までの三十分間、じっくり埋めていくように説明されている。

 しかし改めて見たアンケート用紙はやっぱりというか、謎の項目がたくさんあるなあ……。


 『戦いに興味がある』、『チームを組んで行動できる』。……この辺りは冒険者向けかな?


 何人かと組んで同じ目的で行動はできるけど、旅は切実に勘弁してもらいたい。なので『旅をしながら移動をする』ではなく、『一つの場所で同じ人たちと仕事をする』に丸をつけよう。


 その後も仕事の内容に関係があるものなのか、『同じ作業をするほうが好き』、『別な作業をするほうが好き』、『仕分けが得意』や『機械が得意』もあった。


 うーん……。でもこれは、仕事の内容にもよらないかなあ?


 ちょっと飛ばすことにして次のページをめくったら、今度は生活に関する項目が並んでいた。


 ん?『胃は丈夫か』?って何?いきなり何が訊きたいんだ、これは。


 『次のどれが使えるか』で、ナイフにしても色々なサイズが絵で描いてあって、弓や盾もあれば甲冑なんかも描いてあるとはどういうことだろう。いや、そういうことか。


「……」


 いやいやいやいや、ちょっと待とう。よし、落ち着け。


 ここら辺はガッツリ冒険者向けのページということで、ほとんどにバツを付けて次に行けばいいだけだ。

 一応、果物ナイフや出刃包丁辺りの、普段使っている大きさと形に似ているものには丸を付けておくとしよう。だって料理関係、例えば厨房に配属されるかもしれないもんね。


 そんな風に一つ一つ埋めていきながら、ページを飛ばしたり戻ったりして何とか埋めていく。丸だけじゃなくて、バツを付けるっていうことは助かるな。


 冒険者コースは向いてないし行きたくない。そもそもあちこち旅をするなんて、お金があっても食べるものが見つからなければ野垂れ死に決定じゃないか。

 そもそも、こっちの世界には帰ってこれなさそうだし。


 いくら異世界にしか就職先がなくても、何でもいいってわけじゃない。あくまで生活のために働くんだからね、わたしは。




「はあ……。これで全部かな」


 前もしたチェックシートみたいに、絶対に優先すべき項目をページごとに三つ、絶対に選びたくないことを三つ書く欄があることも助かる。とても。だってバツが付いている項目でも、我慢すれば大丈夫だと思われてはたまらない。


「それではこれから、私たちが条件に合った場所を探させていただきます。十五分ほど休憩としますので、その間はこちらの部屋から出て外で待機をお願いします」


 おや、珍しい。けれど、当たり前かも。


 前までは飲み物を買いに行くこともトイレも、残っていることも自由に過ごしてくださいだったけど。五人分の個人情報を元に検索するんだから、講師側が部屋に閉じこもってくれたほうがこちらも安心だ。


 テーブルの移動もするのか、荷物を持って外に出ることになった。疲れたから、飲み物でも買いに降りようかな。


 あ、でも、五階から出たらダメとかあるのかな。

 上がった時と同じで、フロア内の結界から出たらダメとか何とか。


「一度、こちらに入れた人は降りても問題ありませんよ」

「わかりました」


 良かった。他の人も慌てた様子で階段から足を離してしまったけれど、講師の人の言葉にホッとして一階に降りていった。

 自販機が一階しかないからね。……また五階まで上るの面倒くさいな。


 それでも十五分は長いし、もしかしたら普通の就職先があるかもしれない。

 十三時スタートで今は十四時だから、張り出されている求人票を見てこよう。




「はあ……」


 しかし、さっきのアンケートは項目だけは結構あったけど。やけに冒険者向けの内容ばかりで、あんまり細かいことは書いてなかったな。

 せめて『食事は和食か洋食か』とか、『海の近くか山の近くか、都会か田舎か』くらいは書いてあるものだと思っていたよ。


「基本的に洋食文化の、都会過ぎず田舎過ぎないところに行けるのかな?」


 それならわざわざアンケートには書かないか。そもそも現代日本にいる時点で、田舎を希望する人もあんまりいない気もするし。

 自給自足はちょっとくらいなら良くても、畑を耕すとかは道具があっても知識がないしなあ。


 これは、転生向けとかなのかな?


 アンケートに、『転移か転生、どちらを希望しますか?』という欄はなかった。前提条件が同じ人を集めたなら、アンケート結果によっては同じ世界もあり得そうだなあ。


世界・・が対象だから、会社と違って一世界一人ではないのかな?」


 それでも同じ世界の近所だったら、さっきの四人の誰かと共同生活をしなければいけないとか、あるんだろうか。


「……それは、ちょっと微妙だな」


 けれど『チームで行動できる』の項目には、丸を付けてしまったんだよね。

 これは向こうの世界の人たちとの集団生活とか、同じ仕事を同じ部屋ですることになるという意味でとらえたんだけど。


「うーん……、どういう結果になるんだろう」


 残り一時間、アンケートにはなかったことも含めて訊いてみるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ