【第4.1章:潮騒の贈り物、繋がる心】
初夏の気配を孕んだ風が、みゆのセーラー服の襟を優しく揺らす。押し寄せては返す波が、砂浜に白いレースのような泡の模様を描き、引き際にかすかな調べを残していく。みゆは、波打ち際をゆっくりと歩きながら、その足元でキラリと光る「地球の欠片」を探していた。
ふと、彼女の足が止まる。濡れた砂に半分埋もれるようにして、一つの中型の貝殻が顔を出していた。それは、朝日のような淡い桜色から、深海を思わせる柔らかな真珠色へと見事なグラデーションを描く、非の打ち所のない美しい貝殻だった。
「まあ、なんて綺麗……」
しゃがみ込み、指先でそっと砂を払って拾い上げる。掌に乗せると、その貝殻は太陽の光を吸い込んで、魔法の石のように不思議な輝きを放った。高次元の星々には宝石のような鉱石は無数にあるが、この地球の海が長い歳月をかけて育んだ「命の抜け殻」が持つ温もりは、何物にも代えがたい価値があるように感じられた。
その時、みゆの脳裏に、いつも優しく声をかけてくれる「裏のおばあちゃん」の顔が浮かんだ。
「これ、おばあちゃんにあげたら、喜んでくれるかな……」
おばあちゃんは、膝が悪くて最近はなかなか海まで歩いてくることができないと言っていた。「海の色はね、見ているだけで心が洗われるんだよ」と、遠い目をして話してくれたあの時の声。みゆは、貝殻を耳に当ててみる。遠い潮騒の音が、小さな空洞の中で響いている。この貝殻を渡せば、おばあちゃんの部屋に、いつでも海が届くことになる。
みゆの口角が、自然と柔らかく持ち上がった。想像の中のおばあちゃんは、シワの刻まれた細い手でこの貝殻を受け取り、「まあ、みゆちゃん、ありがとう。まるで海がここにあるみたいだね」と、目を細めて笑っている。その笑顔を想像するだけで、みゆの胸の奥は、春の陽だまりのような温かさで満たされていった。
「人は1とりではいきられない。助けられたら助け返そう。」
おばあちゃんは、いつも美味しい漬物を分けてくれたり、雨が降りそうになれば洗濯物の心配をしてくれた。そんな日常の、当たり前のような「助け」に対する、これはみゆなりの小さな「助け返し」だった。高次元の「上級大将」としてではなく、隣人の少女として。
彼女は、見つけた貝殻を大切にハンカチで包み、胸元に抱えた。早くおばあちゃんの家に行って、この海の宝物を手渡したい。みゆの足取りは、いつの間にか弾むように軽やかになっていた。一歩踏み出すたびに、砂浜に残る彼女の足跡は、誰かを想う喜びという名の優しい印を刻んでいった。




