20、過去の精算をする人
「それは。・・・・それはカトレア様に命令を受けてたとは言え、お嬢様に満足に食事を与え無かった事です。」
料理長は目を伏せ力なく話し始めました。
「カトレア様には私の言う事が聞けないのならクビにする。と何度か言われていました。また抜き打ちで厨房に入って来られ、エリスお嬢様の食事を見掛けると減らすように采配されていました。それだけでは無く材料の予算を厳しく管理され、亡くなられた奥様がおられた時の約半分の予算にまで減らされたのです。さすがに私達もこれには参りました」
「ですが、エリスお嬢様は我々プロが舌を巻くほどの知恵で野草を始め、捨ててしまっていた部位も食べられる様に工夫されていました。あの時ほど料理人である自分を恥じた事は無かったです。」と握った拳を震わせながら目を潤ませていた。
「そして、そのお嬢様が作られた料理を振る舞われた時感動しました。お世辞抜きで美味しかった。こんな方がこの世にいるなんて。と」料理長は大きな体を縮こませて涙を堪えていたようです。
「今更謝っても時が返っては来ません。ですが謝っておきたかったのです。まだ幼かったエリスお嬢様に満足に食事をさせられなかった事を心からお詫び申し上げます」と料理長は泣きながら深々とお辞儀をしたのです。
なんて事。まさかそんな事が。あの時の厨房は亡くなったお母様の時と違い、確かにいつもギスギスしていた様に思う。あの時の厨房はそんな状態だったのね。
エリスは一旦深く深呼吸すると「料理長、頭を上げて下さい。謝罪を受け入れます。これからもお父様やトーマス爺をよろしくお願いしますね。頼りにしてますよ。」と料理長の側へ行き、その手を握り締めてお願いした。
「ーーーーはい、はい、お嬢様。」と言いながら料理長は大泣きしていた。
「さあ料理長、食事にしましょう。」とタイミングを見たトーマス爺が声をかけた。
料理長はサッと涙をふき、「腕によりをかけて作ります。お嬢様に負ける訳には行きませんからね。」と、笑ってました。
「ふふっ!久しぶりの料理長のお料理本当に楽しみです。ボヌールの料理も美味しいけど、ここの料理も負けず劣らずなのよ」とエリスも笑って言いました。
その後はリビングから食堂に移り、トーマス爺と共に料理長の美味しい料理に舌鼓を打ちました。
食事が済み、皆んなで雑談しながらデザートとコーヒーを楽しみました。特にお父様はエリスの学園生活の話を聞きたがっていましたし、エリスも務めてその話題を話しました。「エリスは本当に勉強が好きだったんだなあ」と感心していました。
エリスは逆にお父様に日頃のお話を聞来ました。お父様もたまには街にもお出かけになるみたいで、流行のお店なんかもよくご存じでこちらがびっくりする程です。
話の流れで、自分の仕事のエリスシリーズの話しをしました。「お父様、エリスシリーズは若い女性や流行に敏感な人達に受け入れられたのよ。自分の考案した商品が初めて店頭に並んでいるのを見た時には震えるほど嬉しかったわ」
そしてエリスシリーズの商品のコンセプトから話すと「ははっ、アンナもそんな所があったよ。いつもいつも工夫する事を考えてた。本当に血は争えないね。」と笑ってました。
ちょうどその時、来客を告げるノッカーが鳴ったのです。備え付けのナフキンで口元を拭いさっと立ち上がるトーマス爺。
「はい、ただいま参ります」と返事をしながらそのまま玄関へ様子を伺いに行きました。
でも何やら玄関で話し声が聞こえてきます。私もお父様と目を合わせて2人で玄関に向かいました。
来客を見て驚きました!そこにいたのは何とレオン様だったのです。でもどうして?私ここに来るなんて全然聞いてなかったわ。
「エリスのお父様ですね?初めてお目に掛かります。ボヌール公爵家のレオンと申します。」と一礼した。
「私の方こそご挨拶が遅れました。アトランテ侯爵家のハムレットと言います。」とお父様も一礼を返した。
「実はちょっとお父様とエリスと3人でお話しさせていただいてよろしいでしょうか?」と伺ってきました。
「あぁ、私の方は構わない。エリス、レオン様を応接間へお通ししなさい。」とお父様から言われました。あまり気乗りしませんでしたが仕方ない。
「ーーーーレオン様どうぞこちらへ。」とぎこちない表情で応接間へ案内しました。案内している途中も彼は表情を崩さず、口を一文字に結び何も言わない。
エリスは応接室へ入る前に、レオンにここへ来た理由を聞きたかったが、声を掛けずらい何も言わせないような雰囲気があった。
一体、彼何しにきたのかしら?




