15、叔母さん登場!
「時が経つのは早いものねぇ、エリスちゃんもう18歳になったのね。やっぱりお母様に似て来たわね。」と叔母さんは私の顔をまじまじと見ながら話していた。
「ーーーー新聞でボヌール家のレオン様との婚約の記事を読んだ時は正直びっくりしたわ。もう何回記事を読み返した事か」と叔母さんも嬉しそうにしている。
エリスは心の中で、まさかあと少しで婚約解消するつもりです。なんて口が裂けても言えないわ。と思っていた、
「そうなんです。良いご縁に恵まれました。」と笑いながら話しました。
「そうそうこれ。やっと渡せるわ」とクリスティーナ叔母さんは持っていたカバンをごそごそと弄り、中から1つの扇子を取り出しました。
「これ、実は貴女のお母さんが死ぬ間際に私に送ってきた物なの。良かったら開いて確認してみて?」とエリスに渡した。その扇子をゆっくりと開いてみると、薄い生地にも関わらず、そこには美しい刺繍で咲き乱れる花々と花の周りに飛び回る蝶が生き生きと表現されていました。
一言で言い表すと「超絶技巧」だった。
「っ!!これは。綺麗ですねぇ。」と感心しながらそっと扇子を閉じそのまま叔母さんに返そうとすると、叔母様は微笑み「これはエリスちゃんが持ってて。」とやんわり返そうとした手を押し返された。
「手紙には時期が来たらエリスちゃんに渡して、と頼まれていた物よ。だから貴女が持っててあげてちょうだい。」そう言われたので大切に自分の鞄に仕舞い込みました。
「わかりました。所で叔母さんは今はどうしてらっしゃるのですか?」と聞いてみた。
「実は私は一度結婚に失敗しているの。」と苦笑いをし、へへっとお茶目に告白された。
「えっ。理由をお尋ねしても?」
「子供が出来なくてねぇ。離縁されてしまったの。」と今度はしょんぼりとした様子を見せた。この方、何て表情が豊かなの。とっても面白い方だわ。
「それから一念発起したのよ!今はドレスメーカーを経営しているのよ!」と得意げにエリスに言った。
「それでね、空いた時間があればで良いんだけど、私の仕事を手伝ってくれない?」とエリスを見ながら上目遣いに依頼している。
「もちろんボヌール家が許してくれたらだけど。」とエリスの手を取り熱心に見つめて来た。
「もし手伝えそうならここへ来て。会社の住所よ。」とカバンから小さな紙を取り出してエリスの手に握らせた。
「じゃあそろそろ行くわね。エリスちゃん待ってるわよ。」と手を振り笑いながら叔母さんは去って行った。
◇◇◇◇◇
ボヌール家に帰り「ただいま帰りました。」とドアを開けてリビングに入った。
「あらあら、エリスちゃんお帰りなさい。」とステラお母様が寄って来てくれた。
ステラお母様は気を遣ってか、いつも出迎えてくれる。その気持ちがちょっとうれしい。
「お母様ただいま戻りました。」とご挨拶すると「今、お茶でも淹れるわね。ちょっとゆっくりなさいな。」と言われた。
「ありがとうございます。じゃあ着替えて来ますね。」と一旦自室に戻り着替えてリビングに戻った。
「今日はね、刺繍の会があってね、レイネル侯爵夫人から珍しいお茶を頂いたのよ。」とメイドに伝えすぐ様お茶を用意して下さり、ソファに腰掛けるとまず一服した。(・・・・確かに美味しいわ。なんて香りも良いのかしら)
手元のコップを見ながら「実は今日は私の叔母さんにあたる方と会って来たんです。」と話し出した。
「まぁ、そうだったの?えっと確かクリスティーナさんでした?」とエリスを覗き込み不安げに聞いて来られました。
エリスはステラお母様の顔を見上げて「はい、やはりご存じでしたか。私の中の母の記憶と重ねると、やはり似てらっしゃいますね。」と話した。
「結婚はされてましたけど、クリスティーナ叔母さんの不妊を理由に離婚されたそうです」
「まぁ、そうだったの。お気の毒に。」
「でもその出来事が理由で一念発起され、今はドレスメーカーを経営されているそうです」
その時の得意げなクリスティーナ叔母さんの顔を思い出すとちょっと笑えた。
「まぁ、凄いわね。頑張られたのね」と感心している様子を見て、
「はい、ご苦労はされたと思います」と返事をした。その話の流れを引き取り、
「実はお手伝いを頼まれてしまいました。ボヌール家が許して下さるならお願い出来ないかと」とステラお母様の表情を伺いながら話してみた。
そう話しながら手元のティーカップからお茶を一口飲んだ。本当に良い香りのお茶だ。
「あっ、それから1つお母様の遺品を手渡されました。以前ステラお母様のおっしゃっていた刺繍が施されているんですよ。今、取って来ますね。」と席を外し自室へ戻った。
扇子を手に取り、リビングへ戻るとステラお母様の目の前でゆっくりと扇子を広げて見せてみました。
ステラお母様はその扇子を見た瞬間、双方の瞳から大粒の涙を溢れさせて、「あぁ、アンナ。。。」とぼろぼろと泣き出してしまわれました。
思わず扇子をたたみステラお母様を抱きしめて「お母様が亡くなる直前にクリスティーナ叔母様の所へ送られて来たそうです」と話すと、ステラお母様は手でさっと涙を拭き、リビングを出て奥様の部屋へ向かわれました。
しばらくすると奥様も1本の扇子を持って来られ私の目の前で広げて下さったのです。
それを目の当たりした瞬間思わず私の扇子も横へ広げました。
2本の扇子に描かれた楽園を表すかの様な構図。こまめに糸を替えグラデーションになる様に刺繍されていた。
きちんと天と地も表してあり、ステラお母様の扇子の方に天を、私の扇子の方に地を。
その間に咲き乱れる花々を。花の間を飛び回る蝶々達。
「私は刺繍は分からないがこの2本の作品が凄い物だとはわかるね。美しいね。」と旦那様も一緒に感動して下さってました。
「もう、あきらめていたわ。とっくに処分されたかと。」と泣き濡れた瞳でこの2本の扇子を眺めながら呟かれていました。「まさかこの目で再び揃って見られるとは。」と話すと再び目を覆っていました。
「恐らくですが、お母様はもう自分の命は長くはない。この後は後妻の方を娶られる。自分の大切な物も処分されてしまうかも知れない。と考えたのだと思います。」
「なので自分が本当に大切な物だけはクリスティーナ叔母様へ送られたんだと思います。」とステラお母様を慰めて差し上げた。
この日を機会に、しばらくはステラお母様の扇子とお母様の扇子が並べてリビングに飾られて、ステラお母様の刺繍の会の方々がわざわざこの屋敷まで見に来られたんだそう。
「久しぶりに昔話に花が咲いたわー。」とステラお母様が嬉しそうにおっしゃってましたから。




