13、恋の終わり
この国にも他の国と同じように、王家には引退した王族が住む離宮がある。いわゆる前国王夫妻だ。
そんな離宮から1人の女性が王宮へやってきた。エリザベスから言えばお婆さま、一般的には前皇后と言う立場だ。
もう蟄居しているのだから毎日が悠々自適で、ボランティア活動や啓発活動をしたり、庭を散策したりとありふれた日常を楽しんでいる。
この前皇后の1番の楽しみは月に1度の刺繍の会だ。
メンバーは10名ほどだが常に全員が揃っているわけでは無い。特に話す内容は無く、世間の色恋事や流行り廃りなどをおしゃべりしながら刺して行くのだ。
もちろん今回の王女の婚約の話やレオンとエリスの婚約の話も格好のネタだ。ただ、今回の会でのボヌール公爵家のエリス嬢の話には度肝を抜かれた。
――――あの、アンナの娘。。。。
アンナの作品は今でも手元に置いてある。流行病で亡くなっていなかったら今でもあの子に刺して貰っていたわ。
今は偶然にも親友だったボヌール公爵家のステラが指導していると言う。
あぁ、世の中って狭いのね。そのエリス嬢ともまた一緒に刺せたら楽しいわね。
――――だがしかしそんなエリス嬢を悩ませているのがこの私の孫だったなんて。皆は口に出しては言わないが薄々分かっているだろう。
・・・・私の孫のエリザベスがレオンに熱を上げている事を。
エリザベスがこれ以上婚約が延ばすのは外聞的にも良くない。・・・・もうそろそろ収集をつけなければ。
王宮へ辿り着くと出迎えた者に自分が来たと伝えさせ、国王夫妻とエリザベスを呼び寄せた。
そして一同を見渡すと口調は穏やかだが、この一家を厳しく非難した。
「エリザベス、聞いてますよ。婚約を引き伸ばしてるそうね。それがこの王室の人間の許される事で無いと貴女分かっているわね?もう幼子でも無いのですから。」とまずエリザベスに向かって叱責した。今まで両親にもこんな口調で責められた事など無かったエリザベスは一瞬で顔色を変えた。
続けて国王夫妻に向かって、「私達は王室の人間です。私がすでに先方には話をつけてあります。3日後に侍女を何名かつけてエリザベスを出発させなさい。いつまでも相手の誠意を傷つけるような真似は許しませんよ。そしてエリザベスにあちらで花嫁準備をさせなさい。1日でも早く向こうの人間になるのです。」ともう後がない事を重ねて申し伝えた。
エリザベスは泣きながら、「お願いですお婆さま、せめて婚約が整うまではこちらへ居させて下さい。」と頼み込んだが「すでにあちらと話が付いている。」と前皇后は頑として譲らなかった。
「――――お婆さま、まだ時期が早いのでは?」とお父様、お母様が揃って反論してしてくれたが、返って反撃を喰らってしまった。
「――――貴方達が甘やかし過ぎるからこうなるのですよ。エリザベス、貴方も王室の人間なら心を決め義務を果たしなさい。・・・・それが出来ないならいっその事平民に降りなさい。」とはっきり言い渡すと颯爽と離宮へ帰って行った。
――――どうして、どうしてこんな事に。どうして私だけ?
おばあさまにはっきりとこの国から出て行くように言われた事で、エリザベスは溢れる涙が止まらない。・・・・私はただレオンが好きなだけなのに。
でもここでのお婆さまの意見は絶対だ。もうこれ以上は引き伸ばせない。――――でもこのままでは嫌。
◇◇◇◇◇
次の日の夕方、エリザベスは部屋にレオンを呼び出した。
ドアをノックされた後「お呼びでしょうか?王女様。」とレオンの声がした。
「――――どうぞ入って。」と返事をするとレオンが部屋へ入ってきた。
エリザベスは急にレオンに駆け寄り抱き着いた。そして泣きながら
「レオン、私、明日にはプリム国へ立たなきゃいけなくなったの。・・・・自分は王女だから仕方ないのはわかってる。でもお願い、一度だけで良いから私を抱いて欲しいの。」と彼の目を見つめて熱い想いを打ち明けた。
そして「好きなの。お願い。」と言って強引にレオンに口付けた。
突然のことで驚いたレオンに、ばっ!!と体を突き放された。レオンの目には失望と蔑みの感情が溢れていた。
「・・・・これは無かった事にして下さい。私には婚約者がいます。彼女が悲しむ真似はしたくありません。私はこの前のお茶会で貴女が彼女に何をしたのか知っています。もうこれ以上貴女に失望させないで下さい。」と目を逸らして言われた。
「何よ!あんな女。知識も教養も無いじゃない。許さない。許さないわ。」と思わず叫ぶと
「それ以上は聞きたくありません。もし彼女にこれ以上何かするなら、たとえ王家相手にも容赦はしません。」と底冷えする様な冷たい目付きではっきりと言われた。
「――――もうこれ以上お話する事はありません。失礼します。」とドアを開け、悠然と部屋を出て行った。
バタンッとドアが閉められると、「――――うっ、うっ、うわぁー、うぁあん。」と膝から崩れ落ち、エリザベスは涙が枯れるまで一晩中泣き続けた。
エリザベスが出発する日、王家や騎士達がこぞって見送ってくれたが、そこに愛するレオンの姿は無かった。
――――エリザベスはため息ひとつ付くと、悲しい気持ちで国を後にした。
この後は到着後すぐに婚約、それから5ヶ月後に結婚式を挙げる事になってしまった。
お婆さまによって婚約から挙式までを短縮されてしまったのだ。次にこの国へ帰れるのはもういつになるかわからない。
馬車に揺られながら、この恋にきちんと向き合っておけばまた違ったのかな?とエリザベスは考えてみるのだった。でも自分は。――――分からなかった。
今回の王女様の婚約劇はこれで幕を閉じたのだった。




