12、間話 ステラとアンナ
「――――貴方、早いものでもうあの子が18歳になるんですね。」と久しぶりに夫婦二人で夕食を食べ、食後のコーヒーを頂きながら、目の前の私の旦那様に話していた。
――――先日、親友の忘れ形見のエリス嬢を引き取った。
表向きはレオンの婚約者としてだが、・・・・本当は見るに見かねてだ。なので現状のまま、持参金も何も要らないと断った。父親は一応誠意は見せようとしていたが、あの女狐はこちらからのその申し出に対して、「まあ、さすがボヌール公爵家。我々は心置きなくエリスをそちらへ嫁がせる事が出来ますわ。」とぬけぬけと言い放った。少し遠慮、社交辞令って言葉を知らないのかしら??まあ、顔合わせの時ですら、エリスの父親であるアトランテ侯爵は空気だったけどね。
わが家の執事に連れられて、初めて部屋に入ってきたエリスの姿を見た時は、痩せぎすの身体、貧相な身なりに衝撃を受けた。私たちが調べて報告書でエリスがどんな生活を送っていたか知っていたけど、まさかこれほどとは・・・・
ただ、そんな見た目だったのに大きな目がキラキラ輝いて、その目の奥底に深い知性を感じた。
――――あぁよく似てる。私の大好きな親友だったあの子に。。。。
アンナ、親友の名前はアンナと呼ばれていた。確か元々子爵家の人間だったと記憶している。
初めて会った入学式の時、アンナは隣に座っていた私に、にこにこ笑いながら「そのハンカチ素敵な刺繍ですね。私はアンナ=フォレストと言います。良かったらお友達になって下さい。」って言って来た。
その時のアンナの顔はやはりエリスとよく似ている。今でもたまに思い出す。
私たちはとてもウマがあった。いつも一緒にいたし時が経つのも忘れておしゃべりに興じた。
共通の趣味が刺繍という事もあってか、良くお互いの家に泊まりがけで作品作りに精を出した。
アンナは本当に刺繍の名人だった。
彼女が刺した鉢鳥などは目が動くのでは無いかと思ったし、刺した小花の色はとても鮮やかで、小花を手で擦ると色が指につくのでは無いかと指で思わず触ったりした。
ある時、彼女の作品が当時の皇后様のお付きの方の目に留まり、アンナの刺繍が皇后様のドレスに使われた。
皇后様はとてもアンナの刺繍が気に入られ、ドレスのみならず、その他にもストールやグローブにも使われた。
実は私も1つだけアンナの作品を手放さず取ってある。2人の友情の証にとアンナが作ってくれた扇子だ。
これは色違いのお揃いで、尚且つ対のデザインになっている。だからアンナも持っていた筈。
ただ残念な事にエリスに付けている侍女のミニーに探させたが、今回のエリスの持ち物には入って無かった。
久しぶりに手に取り2本揃えて見たかった。
もうあの阿波擦れのカトレアとか言う女に処分されてしまったのか?
自分の欲望のままに庭師と関係を持ちそして身籠もり、親の金の力でアンナの後釜に座った女。
あの侯爵家に入った途端、アンナの個人の持ち物は全て処分されたと聞いている。
――――あんまりにもエリスがアンナの物を持っていない。形見分けすらしなかったなんて。信じられない。
でも、アトランテ侯爵家もあの出来る執事と共に、侯爵本人が大掃除を進めていると聞く。
大掃除の結果を聞くのが楽しみだわ。
そして今日、エリザベスとか言う王女の主催のお茶会へエリスはレオン同伴で行った。
他の令嬢の前で侮辱された上に、紅茶をかけられ、部屋へ閉じ込められて襲われかけたと聞いた。
私は、はらわたが煮えくりかえるぐらい腹が立ったわ。エリスは気にしないって言ってたけど私は許さないわ。たかが15、6の小娘の分際で。
アンナの娘は私の娘同然よ。
もう退いたけど皇后とは旧知の仲。刺繍の会の友人でもある。もちろんアンナの事も良く知ってるわ。
今度の刺繍の会で話してみようかしら?
皆さん穏やかな人達ばかりだけど、今でもアンナの刺繍の大ファンでもあるのよ。
みんな1枚や2枚はアンナの作品を持ってるわ。
アンナの娘も刺繍を嗜むのを皆さんが知ったらどう思うかしら?
そして、アンナの娘がうちの息子の婚約者だけど、みんなの前で、(あまりにも婚約者がモテるので刺繍が手につかないほど悩んでます。)って言ってやろうかしら?
これでわかるわよねぇ。みんな修羅場をそれなりに潜り、この国を陰で支えて来た女傑達ですものね。




