彼女の終わり
「やあ。久しぶりだね」
「・・・・・」
気が付くと懐かしい場所に立っていた
千年以上昔に一度来たことのある場所だ
その時に出会った男もその時と同じ姿で再び私の前に姿を現した
こいつのせいで私の人生の全てが狂った
「・・・・・」
「そんな怖い顔して怖い事考えないでよ」
私はまた死んだのか
あのルシオという青年を使って忌々しい鏡海を壊し
世界への、人類への復讐という悲願がようやく達成できると思っていたのに
「やり直せるという力があそこまで反則的だとはな・・・」
「君に与えた力も人類にとっては十分反則だと思うけど?」
「・・・・自分から私に力を与えておいて勝手に奪わないで欲しいな」
「まあまあ、彼の力も同時に無くしたから平等でしょ?」
「・・・・」
駄目だ、この死神と話しているとイライラするだけ
今までなら感情に任せて殺すこともできたのに
今の私には何一つ力がないからそれも叶わない
ただ悔しさだけが溢れてきて私を内側から破壊する
生まれ変わってからもそうだった
人間という物は汚い生き物だ
腐っていると言ってもいい
人の考えを読む力を持っていたからこそわかる
誰かの為と上っ面では言っておいて
結局全ては自分の為に行動する
それが人間だ
良い面をしていれば他人が優しくなる
それを知っている人間は己の為に人に優しく振舞う
心の底ではその他人を馬鹿にしながら
小賢しい人間はどいつもこいつもそうだった
馬鹿な人間も自分の利益しか考えない
ただ馬鹿だから馬鹿正直に自分の利益しか考えない
だから他人から奪い、殺す
結局人間は自分の事しか考えていない
誰かの為に我が身を犠牲にできる人間なんて
「居ただろう?」
「・・・・」
「昔のことすぎて忘れちゃったのかな?」
「そうだった、懐かしすぎて忘れていたよ。人の思考に口を挟まないでくれないかな?」
「君も散々やっていたことじゃないか」
「・・・・」
「君の事を信じていた人間もちゃんといただろう?」
「・・・・居なかったさ」
「今君が頭に浮かべた人だよ」
死神を睨む
グラシエールとして生まれ変わった私には兄がいた
赤ん坊なのに泣きもしない笑いもしない私の事を生みの親を始め周りの人間は不気味がっていた
そして人の考えを読むことができる私はそれがすぐにわかった
赤ん坊だった頃の私ですら可愛いと思ってくれる人間は殆ど居なかった
ただ一人、兄だけは私を可愛い弟だと純粋に想ってくれていたが
後から思えば兄も子供で、単純に無知だったからだろう
だからそれも小さな子供の間だけ
成長して色々考えるようになれば関係も変わってくる
最終的には兄も私を不気味がり、恐れた
結局人間は他人を理解することなんてできやしない
思考を読むことができた私でさえそうなのだから
「それが君と彼との違いだね」
「・・・・」
「彼は人の考えを読む力はもってない、でもそのくらいの事彼はちゃんと解っている。同じ転生者でも元々の器が違ったね」
「・・・・」
ルシオという青年
彼が生まれ変わる前の人生は私の生きた物とはまるで違う国、時代だった
当然あの世界の人間とは違う事を知っていて、私ですら知らない情報を沢山知っていた
それでも同じなのは彼も人間だという所
私の誘いを断り
私の事を憎み、私を恐れ、私を殺そうとした
他の人間と同じだ
「そうだね、でもそういう君も人間と同じだよ」
「・・・・」
「人という生き物は知恵をつけたことで誰しも二面性を持っている。善と悪。性善説や性悪説というものは極論だ」
「・・・・そんなこと」
「あるさ。ただ黒い方が目立つというだけのこと。思考を読むことができるからこそ君だって知っているだろう?それとも・・・君が見ないようにしていただけなのかな?」
「・・・・」
「彼は人間のそういう所をちゃんと解っている。解ったうえでそれと上手く付き合っているんだ。だから彼の周りには人が集まる」
「ふん・・・私は人間と慣れ合うつもりなんて無い」
「生まれ変わった頃の君ならそこまでは思わなかったんだろうけどね・・・君は長く生き過ぎた、それも負の感情を持った時間が長すぎた」
「ざまあみろ。性悪説の通じる人間がここに居るじゃないか」
「忘れちゃったんだね」
「何を?」
「一時期は君も兄の事を信じていたじゃないか」
「・・・・」
そうだ
子供の頃
確かに私は唯一人兄の事だけは信用してもいいかなと思っていた頃があった
兄だけは私の力に嫉妬し、そして怯えながらも
それでも私のことを愛してくれていた
だから私も兄の事だけは信じてもいいかなと思っていた
それが信じられなかった姉さんへの罪滅ぼしになると心の何処かで思っていたのかもしれない
けれど結局、兄も負の感情の方が大きくなり
私を裏切った
「裏切ったのは君の方だ」
「・・・・」
「君は見切りが早すぎる。自分の都合が悪くなるとすぐに捨てようとする。だから世界の全てを敵に回すような事になるんだ」
「・・・・」
「人間はたった一人で生きていける生き物じゃないよ」
「・・・私の周りには敵しかいなかった!なら一人になるしかないだろう!」
「自ら敵を作り、自ら一人になろうとしたのは君自身だ」
「そんなこと・・・」
「他者を拒絶して君には何が残った?」
「・・・私には力があった、だからあんな下等な生物なんて」
「なら力を失った君は?最後君には何が残った?」
「・・・・」
「あの力は僕がお詫びの為に与えた力だ、その力を失って普通の人間に戻った時、君には何が残った?」
「・・・・」
「彼には隣に立つ人物と、帰りを迎えてくれる人たちが居た。仮に君がまだ若くて力を失ってからもまだ生きていけたとして、あの誰も居ない塔の天辺でただ一人、死を待つだけの存在になったのかな?」
「・・・・」
わかっている
でもならばどうすればよかったのか
私も他の人間と同じように、下に見ている相手に媚びへつらって
上っ面だけの関係を保てば良かったというのか?
それが出来なかったからあんなことになったのに
ならばこの人生で良かったのか?
それはない
だって今どうしようもないくらい私の中で後悔の念が渦巻いている
「やり直したい・・・そうすれば今度は上手く・・」
「ないよ。君に三度目はない」
「・・・・」
「勿論彼にも三度目はないけど、でも彼なら力を失って普通の人間に戻ったとしてもそれを受け入れられると思うな。君と違って」
「・・・・」
「さて、そろそろ君の魂を処理しないと。僕も忙しいんだ」
「・・・・ならさっさとしてくれ。じゃないとどうしようもない感情に襲われてもっとおかしくなりそうだ。早く楽にしてくれ」
「そうだね。本当なら二度目の人生の感想とか聞きたいところだけど、無粋かな」
「早くしろ」
「はいはい」
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人間という生き物は皆
解り合う事の出来ない者同士で、それでも上手く共存しながら生きているのか
私にはとても無理な話だ
そう思うと人間という物は私が思っていた程下等な生き物ではないのだろうか
いや、以前の私ならそれなりに上手くできていた
死神に力を与えられたことで私はおかしくなってしまったのだろう
そう考えると結局全てはこの死神が原因だ
そうだ全部こいつが悪い
私は自分が姉を信じられなかった過ちを棚に上げ
会話が終わってから死神が私の魂を消滅させるまでの刹那
その刹那まで誰かの事を怨み
私という物語は終わりを迎えた




