彼女の始まり
-???-
顔が見えないようにフードを目深く被り、人混みを一人の女性が駆けていた
彼女の生まれた世界
彼女の生きた時代
彼女の育った国
それは魔法の無い世界
かといって化学も発展していない時代
人間同士の争いは絶えず、戦いへと赴く男達が強く、酷い男尊女卑の時代
彼女の故郷である国もそんな所だった
(広場に人が集まってる・・・急がないと、姉さんが!)
彼女には姉がいた
双子の姉が
だがこの時代、双子は非常に珍しく
双子というものは、災いを呼び込む為に悪魔がどちらかになりすましていると信じられていた
それが顔も瓜二つとなる一卵性双生児なら、どちらが悪魔か判断できず、産みの親ですら生まれてすぐに両方殺してしまう程で
双子というのは人々から恐れられ忌み嫌われる存在だった
だが彼女の両親は変わり者だったのか
産まれてきた瓜二つの双子を殺す気にはなれなかった
しかしそれが違う世界ではごく普通のことでも
その世界、その時代、その国ではそれを許さない
なので両親は瓜二つな双子に同じ名前を付け
片方を家の中に閉じ込めることで世間の目を欺いた
外に出る時は交代で
双子は互いに光と影のように生きる事になる
そしてそんな綱渡りな生活にも終わりがやって来た
彼女にできた恋人
愛しているが故に、入れ替わった者が愛する者とは違う事に気が付いてしまった
もちろん片割れも気をつけていた
妹の恋人に外では会わないように細心の注意を払っていた
しかし運命は残酷に二人を引き合わせてしまう
悪魔という存在が信じられ人々に恐れられる時代
『魔女狩り』
そんな物が当たり前に行われる時代と国
いつも被害に遭うのは力の弱い女性ばかり
彼女の恋人は自分の恋人と同じ姿形の“それ”が愛する者ではないことに気付き
悪魔か何かだと信じて疑わなかった
(姉さん!)
彼女が駆け付けた時には既に広場では人だかりができており
その中心には自分と同じ見た目の女が十字架に張り付けられていた
辺りには油の臭いが充満し、十字架にも油が染み込んでいるのか黒く変色している
そして足元には藁が敷き詰められ
その前で恋人が松明を持ち、今にも火をくべようとしていた
「悪魔め!彼女を何処へやった!」
「あなたの恋人は私よ!信じて!」
「僕が気付かないとでも思っているのか!?姿は似ていても違う、お前は彼女じゃない!」
「何も違わないわ!私よ!ここから下ろして!愛する私を自分の手で殺すというの!?」
「僕がプレゼントしたイヤリングはどうした?いつも付けてくれてるじゃないか」
「それは・・・今日あなたに会ったのは偶然で、付けるのを忘れていたの!」
「・・・昨日はあった指の傷はどうした?一晩で治るような傷じゃないぞ?」
「っ!?」
「それに僕がどれだけ彼女を見つめていたと思う?お前には違和感しか感じない」
「きょ、今日は体調が悪いから・・・だからいつもと違って見えるのよ」
「・・・なら、僕の本当の名前を言ってみろ。君が本当に彼女だというのなら知っているはずだ」
「・・・・」
彼女は磔にされた姉と恋人の会話を人混みに紛れたまま聞いていた
(私のせいだ・・・姉さんに教えなかったから・・・)
それは独占欲という醜い感情
初めてできた恋人を姉と共有したくなかった
だから姉には彼から貰ったイヤリングを隠し
彼が普段偽名を使っていることを秘密にした
いつも同じ姿をして、同じ物を共有し、見聞きした情報までも擦り合わせる
姉とのそんな生活に何処か嫌気がさしていたのかもしれない
だから彼の本当の名前を私だけが知っている
その優越感が心地よかった
「ほら・・・答えられないじゃないか」
「・・・・・」
磔にされた姉は絶望の表情をしている
彼女はどうすればいいのか分からず、頭が真っ白になっていた
今すぐ恋人の前に飛び出して自分が本物だと打ち明ければよかった?
だがそうすればどの道双子である事が知られ
十字架がもう一つ増えるだけ
(嫌だ、死にたくない・・・)
そう考えたその時
姉と目が合った
「「・・・・」」
姉は口を開き
何も言わなかった
そして項垂れる姉の姿を見て、恋人が松明を藁へと放り投げた
「キャアァァァーーー!!!!!!!!」
瞬く間に炎は十字架の形に燃え上がり
磔にされた女性から人間が出す声とは思えないような悲鳴が発せられた
彼女はそれを震えながら見ることしかできなかった
目を逸らす事もできなかった
永遠にも感じる程の長い時間そうしていた気がする
そして彼女は気を失う
だがそれはほんの数秒の出来事だった
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気が付くと真っ暗な所に居た
夜になったのだろうか?
そのわりには自分の姿は鮮明に見えるし
蝋燭の灯りすら辺りに見えない
(何?私気を失っていたの?・・・っ!姉さん!?)
立ち上がり・・・
いや、既に立っている
気を失っていたはずなのに
だが今はそんなことどうでもいい
辺りに姉の姿を探した
しかし自分の姿以外は何も見えない
夜の闇なら手元すらよく見えないはず
だが見上げても星も月も出ていない
それどころか立っているはずなのに足の裏に何の感触もない
此処が何処なのかがわからない
「あ~もぅ!やっちゃった~」
「っ!?」
突然背後から声が聞こえた
振り返ると見たことのない服装の男が立っていた
真っ暗なはずなのに男の姿は良く見える
「だ、だれ?」
「僕かい?僕は~・・・君達のいう所の『死神』ってやつかな?」
「・・・死神?」
という事は自分は死んだのだろうか?
此処は死後の世界?
「・・・・そうか、私は気を失って・・・それで周りの人達に顔を見られたんだ・・・それで姉さんと同じ顔だからってそのまま殺されて・・」
「違うよ?」
「へ?」
てっきりあの後姿を見られ
双子という事がバレ
そのまま姉と同じように殺されたのかと思ったのだが
「君が死んだのは~・・・その~・・・なんというか・・・」
「・・?」
「僕のミスなんだ」
「・・・はぁ?」
こいつのミス?
それで私は死んだというの?
「あなたがどういうミスをしたら私が死ぬって言うのよ?」
「さっき自己紹介したでしょ?僕は死神なんだ」
「・・・だからどういうミスなのよ?」
「あ~・・・回収する魂を間違えた」
「・・・?」
こいつが何を言っているのか理解できない
回収?魂を?
「だってこの世界では珍しいというか、初めての出来事だったからさ~」
「何がよ?」
「君双子なんでしょ?」
「・・・・」
「別に僕に隠したって意味ないよ?」
「・・・だったら何だって言うの?」
「君双子で、しかも君達は同じ名前なんでしょ?」
「っ!?なんでそんなことまで!?」
「いやだから僕死神だって、一応神様なんだってば」
「あぁ・・・」
神様なら当然そのくらい分かっているのだろう
「いや、でも、紛らわしいよ~」
「・・・・」
「やっちゃったな~・・・どうしよ」
「あの、わかるように説明してくれない?」
「えっと~、本当は君のお姉さんの魂を回収する予定だったんだ」
「姉さんの?」
「そう。人間火で焼かれたら死んじゃうでしょ?」
「そうよ!姉さんは!?何処に居るの!?」
「魂を回収してないからまだ死んでいないよ」
なら姉さんは今もまだ炎で焼かれているということ?
「いや、ここと君の住む世界とでは時間軸が違うから」
「っ!?」
今私声に出していた?
「ん?あ~君の考えていることくらい僕にはわかるから」
・・・・死神って本当なの?
「だからそう言ってるじゃん」
「考えてることがわかるの?」
「うん」
あまりの出来事に考えが追い付かない
「つまりね、君のお姉さんが死ぬから魂を回収に行ったのに、間違えて君の魂を回収しちゃったってわけ」
「・・・なんでそんなことになるのよ」
「だって君双子で、しかも同じ名前なんだよ?僕は人間の魂を回収するときは生まれた日と名前を見て回収するんだ、だからすぐ近くに居た同じ誕生日と同じ名前の君を間違えて回収しちゃったってわけ」
「はあ?ふざけないで、そんなことで私は死ななければならなかったというの?」
「だからごめんて」
死神からの謝罪は誠意を感じられない
「そう言われても」
「何も言ってない!」
「ああ」
未だにこのふざけた状況を理解できない
でも
「死んで良かったのかもしれない・・・」
「あれ?そう?そう言ってもらえると助かるよ」
「ちっ・・・」
別に死神を擁護してそう考えている訳では無いのに
いちいち癇に障る
姉さんは私に気付いていた
それなのに私に助けを求めなかった
それは助けを求めることで私を巻き込んでしまうと考えたからだろう
あの局面で姉さんは私の身を案じてくれていた
それに比べて私は・・・
「僕さ、死神になってからまだそんなに経ってないんだ。と言っても人間の時間軸で考えたら途方もない時間かもしれないけど。それに君が初めての失敗なんだよ?」
「ちっ・・・黙っててくれる?」
「は~い、少し黙りま~す」
とにかく
私は姉さんを見捨てた
そもそも私が隠し事をしたせいで姉さんは犠牲にならなければならなくなった
でも姉さんは私を守ろうとしてくれた
ならやはり死ぬべきは私のほうだろう
「まだ姉さんの魂を回収していないってことは、姉さんはまだ生きているってこと?」
「生きてはいるけど、死んだ方がマシだと思うよ?だって炎で全身焼かれてるんだし」
「・・・・」
「お姉さんの事を想うなら予定通り死なせてあげた方がいいんじゃないかな?」
それもそうか
だがあれが姉さんとの別れになると思うと寂しい
最後に一言謝りたい
でも姉さんとはもう会えないだろう
姉さんは天国へ行き
私は地獄に落ちるだろうから
「そんな物ないよ?」
「・・・・」
「そんなもの人間が勝手に考えただけ」
「・・・・」
台無しだ・・・
本当に鬱陶しいこの死神
「ひどいな~」
「はぁ・・・・姉さんの魂はちゃんと回収してよね?」
「わかってるって」
「早く楽にしてあげて」
「心配しなくても大丈夫だって」
「ならいいわ」
ところで、死んだ後はどうなるのだろう?
もしかしてずっとこの鬱陶しい死神の相手をし続けなければならないのだろうか?
「魂が消滅したら何も残らないよ」
「あっそ。なら早く消滅させてよ」
「まぁそう焦んないでよ・・・って、ようやく許可が下りた」
「許可?」
「うん」
なんだろう?
消滅するというのならさっさと全て消し去ってほしい
さっきからずっと、姉さんに対する罪悪感と、行き場のないあの不条理な世界に対しての怒りが込み上げてくる
「神様からの許可が下りてさ」
「神様?あんた以外にもいるの?」
「そう。僕よりずっとずっと偉くてすっごい神様」
「ふ~ん、それで?」
「うん、もう一度人生やり直してみない?」
「は?」
「君が死んじゃったのは僕のミスだからさ、だからお詫びにもう一度人生やり直させてあげるよ」
「・・・・・・・・必要ない、あんな人生もう一度味わいたくない」
「心配しなくても同じ人生じゃないさ」
「?」
「君の生きた世界とは違う世界で、もう一度赤ん坊からやり直してみないかってこと」
「・・・・そんなことできるの?」
「うん。それに今ならお詫びの大サービスとして何でも願事を三つ叶えてあげよう!」
「願事・・・」
私の今の願いはただ一つ
姉を救ってあげたい
「それは無理」
「なんでもって言ったじゃない!」
「あ~、救うって意味では魂の回収がそれにあたるかも。それならすぐにお姉さんを楽にしてあげられるよ」
「・・・・なら早くして」
「だから時間軸が違うから焦らなくても大丈夫だって。そうじゃなくて生まれ変わる際に何か希望とかないの?生まれ変わったら絶世の美女になりたいとかさ」
「双子に生まれなければなんでもいい」
「心配しなくても君一人を生まれ変わらせるだけだから双子には生まれないよ」
「そう・・・・・・・なら男にして」
「そんなのでいいの?じゃああと二つは?」
「男に生まれるなら別に要らない」
「え~・・・せっかくなんだしさ~。例えば・・・魔術が使える世界があるんだけど、魔術を使う為の魔力が使い放題!とかさ」
「じゃあそれでいいわ」
「やりがい無いな~。ならあと一つは?」
「適当にあなたが決めて」
「え~・・・何か後悔していることはない?二度とそんな思いをしないための力とかさ」
「・・・・」
後悔はただ一つ
姉さんを信じてあげられなかった事
人の考えてる事が分かればいいのに・・・
そうすれば姉さんの気持ちに気付けた
ならばあの時一緒に死んであげられたかもしれない
「できるよ」
「・・・・本当?」
「人の思考が読めるようになりたいってことでしょ?」
「ええ」
「んじゃ決まりだね。『男に生まれる』『無限の魔力』『人の心を読む力』この三つをオプションに付けて、第二の人生満喫してよ」
「え?もう?」
「うん。こう見えて僕忙しいから」
「え?今から?」
「それじゃいくよ?第二の人生楽しんでね?」
「ちょっと待って心の準備が・・」
「じゃあね~」
そして再び私の意識は遠退いていった
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