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 双子の卒業 マルク


-マルク-


アリスの行動は読んでいた

読んでいたつもりだった


いくら僕の方が力が強くなって接近戦で有利だといっても魔力はアリスの方が少し多い

だから強化魔法に使う魔力を増やせば僕ともほぼ互角に接近戦ができるはず

それなのに最後のアリスは手ごたえが無さ過ぎた


何かを狙っているのは間違いなくて、案の定アリスは不自然に舞台から離れて行った

だからアリスの誘いにかかったふりをした


アリスの戦い方から察するに場外負けを狙っているはずだ

だから僕の攻撃の隙をついて瞬間移動から不意打ちで決めるつもりだろうと読んだ

アリスも兄さんのように瞬間移動できるようになっていたのには驚いたけど


だから僕がアリスを掴んで場外へと投げ飛ばした直後、背後への転移を警戒して『エクスプロージョン』を“置いていた”


でもアリスは僕の予想を上回ってきた

ただの転移ではなく、僕とアリスの位置を入れ替える転移だった


気付いた時には既に地面は目の前で魔法障壁を張る暇も無かったけど

アリスも転移する直前に僕が発動させた『エクスプロージョン』をもろに受けて地面へと落下した




多分、多分だけど

僕の方が先に地面に足が着いた

ほんの少しだけ僕の負けだった




「決勝戦は引き分けとします」


でも審判が下した判決は引き分け


(でもこの場合兄さんはどう判断してくれるんだろう?)




「二人ともいい勝負だったぞ」

「「兄さん!?」」


審判が判決を下したすぐ後

舞台脇に兄さんがやって来た


(え?なんで兄さんがここにいるの?)


「じゃあ先生、予定通りこのままいきましょうか」

「わかった」

「「え?」」


(予定通り?)


審判をしてくれていた学園の教師に兄さんが声を掛ける


兄さんが何をするつもりなのかがわからない


「マルク、こっち来い」

「え、うん。わかった」


アリスの近くに立つ兄さんが僕を呼んだ

言われるがまま兄さんの方へと近づく

そこで気が付いた

兄さんは二本の剣を背にしている

そして手には僕とアリスの為に作ってくれたレッドドラゴライトでできた短剣を持っていた


(え?なんで?)


「二人とも結構消耗してるな」


そう言いながら僕とアリスに治癒魔法を掛けた後、兄さんは僕達に魔力を分けてくれた

僕とアリスは怪我が治り魔力も回復した


「これならいけるだろ。んじゃやるか」

「え?兄さん?」

「やるって何を?」

「俺と二人の勝負」

「「え?」」

「本当は優勝した方とやるつもりだったけど、引き分けならしょうがない。二人まとめて相手にしてやるよ」

「なんで?」

「ん?俺と本気でやりたかったんだろ?」

「なんで知ってるの!?」


僕の問いかけに兄さんは意地悪そうに笑うだけで答えてくれなかった

僕とアリスにそれぞれ短剣を手渡した後、僕達を置いて舞台へと上がっていく


「それではこれよりエキシビジョンマッチを開始します。今回の決勝戦は引き分けという形になりましたが、その決勝戦を戦ったマルク・アリス両名。対するは今大会優勝者である二人の兄であり五年前の王立学園主席卒業者、そして現騎士団参番隊隊長を務めるルシオ。この三名による二対一の試合を行います!」

「ってことだ。上がってこい二人とも」

「「ええ!?」」

「試合形式ではあるが望み通り本気で相手してやるよ」

「「っ!?」」


そう言う兄さんは、今まで僕達に向けていた優しい表情ではなく真剣な顔をしていた

何度か見たことはあったけど、その顔は横顔ではなく僕達に向けられている


決して殺気を向けられている訳じゃない

それなのに全身に鳥肌が立った


手渡された短剣は兄さんから貰ってもう何年も扱ってきた手に馴染んでいる愛剣だ

学園の大会で使うような刃を潰してあるレプリカではない

そして兄さんが背にしている二本の剣も実際にずっと兄さんが愛用している物


つまり試合形式ではあるが、まぎれもない真剣勝負


「どうした?今更ビビったのか?」

「「・・・・まさか」」


そうだ、これは武者震いだ

アリスと二人同時にではあるけど僕が望んだ展開だ


(試したい。確かめたい。僕の現在地を)


アリスと共に舞台へと再び上がる



予想外のエキシビジョンマッチに会場は優勝戦の時より盛り上がっている

だけど観客の熱狂が耳に入らない程僕は今集中している

きっとアリスも同じだろう



稽古の時とは違う兄さんと対峙する

その圧に足が竦む

冷や汗が垂れる


「俺が一番強かった頃はグラシエールと戦っていたあの頃だ、その頃と比べると全然弱くなったけど・・・今の俺の本気を見せてやるよ」


僕達はグラシエールって奴と戦っていた頃の兄さんを知らない

話で聞いただけに過ぎない

だから人外の力を持っていた頃の兄さんを殆ど知らない

でもそんな物無くてもずっと兄さんは強かった




「それではエキシビジョンマッチ・・・・・始め!」


審判の合図と同時に舞台上に一筋の稲妻が走る


「一つ」

「「っ!?」」


兄さんの声が斜め後ろから聞こえた

気が付くと僕の首筋に真っ赤な剣が突き付けられている

隣では青い剣がアリスの首へと突き付けられていた


「九回だ、九回までは許してやる。十回目で終わりだからな」

「「・・・・」」


(これが・・・)



『紫電』


参番隊隊長である兄さんにはそんな二つ名があるらしい


兄さんはレッドドラゴライトで作った物とブルードラゴライトで作った物の二つの剣を愛用している

その二つの愛剣を振るい、目にも止まらぬ速さで戦場を駆ける

赤と青が交わり紫色の残像となるその姿から、いつしか周りの人は兄さんの事を『紫電』と呼ぶようになった



(噂では聞いていたけど・・・これが・・・)


話で聞くのと実際に見るのとでは全然違う

これが戦場に生きる兄さんの姿


油断なんてしていなかった

それなのに反応もできなかった



「どうした?呆けてるだけか?」

「「くっ・・・」」

「なら訳も分からず九回死ぬか?」

「「嫌だ!」」


全力を出すだけじゃ足りない

今の自分を超えなければいけない


アリスと戦った時以上に

本気なんて表現では生ぬるい

死ぬ気で力を振り絞った



「二つ」



「三つ」



それなのに

アリスも僕と戦った時以上に頑張っている

それなのに兄さん相手には二人掛かりで手も足も出なかった



「四つ」



「五つ」



無情に死が増えていく



(やっぱ凄いな、兄さんは・・・)


自分の現在地を知りたいなんておこがましい

兄さん相手にどれだけやれるのかを知りたがった自分が間違っていた


絶望的な程僕達と兄さんには差がある



「六つ」



「七つ」



力、速さ、知識、魔力総量、技術

全てが兄さんの次元に届かない

兄さんは僕達と比べて全てが圧倒的だった



「八つ」



「九つ。どうした二人とも、次で終わりだぞ?」



どのくらい経ったのだろう

僕達が九回死ぬまでに


何分?

もしかしたら一分も経っていないのかもしれない


でも長く感じた

それでいてあっという間だった


(だけど・・・まだ終わりたくない!)


ほんの少しだけど兄さんの速さに慣れてきた


「これで終わりだ」

「嫌だ!」


稲妻が自分の背後へと走ったその瞬間

瞬間移動で自分の居た場所から少し後方へ転移した


兄さんの後ろ姿が目の前に飛び込む


(とった!)


「おっ?」


兄さんが驚いた声を漏らした


必死で、必死過ぎて、あまりにも夢中で

レプリカでもない短剣を兄さんへと突き立てていた


でも僕の短剣は兄さんに刺さることはなかった


「アリスだけじゃなくマルクもできるようになったのか。偉いぞ」

「へっ?」


目の前に居たはずの兄さんの後姿は気が付けば消え

隣からいつもの優しい兄さんの声が聞こえてきた


声に反応して左を見るとアリスが膝から崩れ落ちているのが見えた


「ぐっ」


そして左の頬に衝撃が走り

僕は場外まで吹っ飛んだ


そこで意識が途切れる



____

__

_




「「はぁ~・・・」」


晩御飯の時間

僕とアリスのダブル優勝を祝っていつもより豪華な夕食を用意してくれた

だというのに僕達は大きな溜息をついていた


エキシビジョンマッチで兄さんの攻撃を受けて気を失い、その後目が覚めてからもう何度目だろうか?

僕もアリスも溜息が止まらなかった


「もう少し粘れると思ってたんだけどな~・・・」

「アリスも・・・兄さん強すぎ~・・・」

「二人ともいいやられっぷりだったわね」

「傷口に塩を塗るようなこと言うなよマヤ」

「ならもうちょっと手加減してあげたら?」

「ありがとうマヤ姉」

「でもそれがアリス達の望みだったから」

「ふ~ん。あ、でもでも決勝戦の二人の戦いは凄かったわよ!」

「「ありがとう」」


マヤ姉が居ると空気が明るくなる

少しだけ気が紛れてきた


「それより兄さん、なんで僕達が本気の兄さんと戦いたいって知ってたの?」

「ん?二人で夜中話してただろ?それでちょっと考えてな、決勝戦前に先生にお願いしたら許可くれてさ」

「「あの時聞いてたの?」」

「俺は部屋で眠ろうとしてたところだったけどな。皆が寝静まった状況で家の中の音なら耳を強化すればなんでも聞き取れるし」

「いやいや・・・」

「無理だって・・・」

「あ~・・・まぁ癖みたいなもんだ。お前達も稽古したらできるようになるって」


どんな癖だよ、とも思ったが

数年前クライトとかいう人にこの家が襲われたのは皆が寝静まった夜中だった

きっと兄さんは皆が寝静まってからも、危険がないかどうか警戒してくれているのかもしれない

それこそ毎日のように


「・・・うん。僕頑張る」

「・・・アリスも」

「そんなに深刻にならなくても・・・まぁ五感の強化はできた方が何かと便利だからな」

「でもやっぱり、兄さんは凄いや。僕じゃ手も足も出なかったもん」

「最初はあれだけ歓声が凄かったのに、始まったら皆シーンとしてたものね。アタシなんか何が起こってるのか全然分からなかったわ」

「大丈夫マヤ、アリスもわからなかったから・・・」

「ルシオってやっぱりそんなに強いのね」

「うん。『そんな人が兄さんなんだ』っていう誇らしさもあるけど・・・やっぱり凹むよ・・・」

「そだね、『兄さんと同じ血が流れてるのに』ってアリスも情けなくなった・・・」

「いや・・・瞬間移動なんかウィルとリリーも未だにできないんだぞ?それをお前達二人ともやってみせたんだ。十分凄い事じゃないか」

「「それはそうかもしれないけど・・・」」

「それに俺はお前達より五年も長く生きてるんだぞ?それなのにお前達に負けてたら俺の立場がないだろ」

「五年で追いつける実力差だと思えないんだけど」

「あ~、まぁ俺の場合はやり直しっていう反則技も使ってたし・・・」


数年前、兄さんがグラシエールって奴を倒した後

急に様子が変わってしまった兄さんが淡々と説明してくれた

それまで兄さんは少し過去からやり直すことができる力を持っていて

その力を使って色々な問題を解決してきたという話


僕達がノワールに襲われたときもその力で僕達を助けてくれた


『凄いな』と思いこそしても

『ズルいな』とは思わない


人形のように感情が薄れてしまう程の途方もない時間と回数、そしてそれに比例する苦労を兄さんはしてくれていたのだろう


「いつか、兄さんに追いつけるといいな・・・」(ボソッ)

「追いつけるさ」

「気休めならいらないよ?」

「気休めで言ってるんじゃない。お前達は今十五歳だろ?俺がノワールと戦ったのもそれくらいだった。あの頃の俺と比べるなら殆ど互角だよ」

「「・・・・本当?」」


ノワールと戦った頃の兄さんと今の僕達が同じくらいの強さ?

ノワールを倒したり、マホンさんから一本とったりと兄さんはあの頃から十分強かった

でも今の僕には同じことをできると思えない

だから実感が湧かない


「お世辞?」

「いいや」

「本当に?」

「ああ」

「「・・・・」」

「マルクとアリスには俺が相当大きく見えてるんだな」

「「そりゃそうだよ!」」

「そうかそうか、そりゃ兄として嬉しいな」


兄さんはそれだけで嬉しそうに笑う

尊敬するだけで兄さんが喜んでくれるのならいくらだってするのに


でも尊敬や憧れだけじゃ駄目なんだろう

なんとなくだけど、その方が兄さんはもっと喜んでくれそうな気がする


「ねぇ兄さん、学園を卒業したら僕も騎士団に入りたい!」

「おう、マルクなら簡単に入れると思うぞ?入団テストならいつでも受けさせてやる」

「やった!」

「アリスはどうする?」

「アリスは卒業したら兄さんに養ってもらう~」

「可愛い妹だからそうしてやってもいいんだけど・・・兄として心を鬼にするぞ。働け」

「うぇ~・・・」




物心ついた頃から憧れていて

ずっと目標にしている兄さん

これからもそんな僕の理想に追いつくために

兄さんの近くで走り続けたい


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