双子の卒業 アリス
-アリス-
15歳になり学園に居られる最後の年になった
“居られる”なんて言い方をすると未練があるように思われるかもしれないけど
兄さんの居ない学園に楽しみも無いし、それに学園に通うよりも兄さんとの稽古の方が実りがある
なので惰性で通っているだけだったし未練なんてこれっぽっちもない
マルクはカイルとか友達もいるから寂しいのかもしれないけど
「そういやそろそろ大会の時期じゃないのか?二人にとってこれが最後だろ?」
「「うん」」
夕食の時間
兄さんが大会のことを話題に上げてきた
「俺みたいに三部門優勝狙ったりしないのか?」
「アリスは面倒臭いからいい」
「僕はちょっと考えてたんだけど・・・アリスが出ないって言うからチーム戦どうしようかなって考えてるところ」
「ふ~ん・・・ならアリスはいつも通り年齢別部門だけか?」
「うん」
「マルクはチーム戦出るならカイル君でも誘うつもりだったのか?」
「うん」
「そのうえアリスも誘うつもりだったのか?敵うチーム無くなるだろ」
「でも他に誘えるような子居なくて・・・」
「え・・・まさか友達いないのか?」
「違うよ!でも、『僕等とは実力に差がありすぎる』って皆チーム組んでくれなくってさ・・・」
「あ~、なるほど・・・そういやアーロンはどうした?」
「兄さんみたいに三部門優勝狙ってるけどチーム組んでくれる人が居ないみたいだよ」
「ははっ、簡単に想像できる」
「僕は別にいいんだけどアーロンがチームに入ると対抗できるチームが無くなっちゃうしさ、アーロンも同じこと考えてるのか僕達のことは誘ってこないし」
「なるほどな~」
「だから僕もアリスと同じで年齢別部門だけでいいかなって思ってるところ」
「まぁこればっかりは難しいよな」
「うん」
(マルクは真面目だな~・・・)
アリスは大会なんて面倒臭いだけだからどの部門にも出場したくないくらいなのに
「ふ~ん・・・ならマルクとアリスの敵になるのは相変わらずカイル君とアーロンくらいってことか?」
「そうだね、ここ何年もベスト4はアリスも入れた僕達4人だし」
「・・・・」
アリスは本当なら一回戦でマルクとあたってわざと負けたいくらい毎年やる気が無い
でも入学してすぐの大会で優勝戦まで進んでしまったのでそれ以降シード枠に入れられている
なのでマルクやアーロンとはブロックが分かれているし、準決勝までは雑魚ばかりでわざと負けるのも馬鹿馬鹿しい
だから面倒臭いことに八百長ができない
もっともアーロンなんかにはわざとでも負けてやる気はないけど
やる気がないから会話に入ることもできず、フォークでお皿の豆を転がしながら兄さんとマルクの会話をただ聞いていた
「なら・・・これが最後なんだし、年齢別部門でどっちか優勝できたら何かご褒美やろうか?」
「「っ!?本当!?」」
兄さんの提案についテンションが上がってマルクと同時に反応してしまった
「お?食いつくな~。何か俺にやってほしい事でもあるのか?」
「「うん」」
「なら優勝した方のお願いをできる範囲で叶えてやるよ」
マルクの方を見ると目が合った
(マルクは兄さんに何をお願いするつもりなんだろう?)
マルクも兄さんに叶えて欲しい願いがあるからか目にやる気が籠っている
(面倒臭いことになりそうだけど、アリスだって負けないから)
アリスも兄さんにお願いしたいことがいくつもある
だけどその沢山あるお願いの殆どは普段お願いするだけで叶うような物ばかり
だから特別なお願いを考えるつもりだ
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「ねえ、アリスは兄さんに何をお願いするつもりなの?」
夜寝る前にマルクが話しかけてきた
「色々あってまだ決められてない。マルクは?」
「僕もいくつか考えてるんだけど、でももうほぼ決まってる」
「何?」
「本気の兄さんと戦ってみたい」
「・・・・」
マルクの願いはアリスも候補の一つとして考えていたことだった
「でもそれくらいなら稽古の時にお願いしたら叶うんじゃないの?」
「本気の“ふり”をした兄さんとならね」
「あ~、そうだね」
兄さんのことだ、「本気で相手をしてほしい」とお願いしたら“それなり”に相手をしてくれるだろう
でもそれはきっとアリス達の事を考えて本気のふりをしただけの手加減した兄さんになる
「稽古の時にお願いしたって兄さんの本気を見せてはくれないよきっと。だからちゃんとお願いするんだ。僕だって学園で何年も頑張って来た、兄さんを相手にどれくらい強くなれたのかを確かめたいんだ」
「・・・・」
「アリスは何をお願いするつもりなの?兄さんなら大抵のことは別に優勝しなくても叶えてくれると思うけど」
「そうなんだよね~・・・」
何かが欲しい
何処かに連れて行って欲しい
一緒に居て欲しい
大抵のお願いなら兄さんは何時でも叶えてくれるだろう
だからアリスはまだマルクのような特別なお願いを決めかねている
『兄さんにおねだりできる』ということに無条件に反応してしまったけど
兄さんは優しいし、アリスも強くなった
だから大抵の事は簡単に叶えられると思う
でも兄弟だからこそ本気の兄さんとは戦えない
兄さんは優しくて、兄さんとは家族で、そして兄さんは強すぎる
色んな理由でアリス達は兄さんの本気を知らない
見せてもらえない
だけど兄弟だからこそ、大好きな兄さんだからこそ
兄さんの領域を、兄さんの見ている景色を知りたい、兄さんと同じものを見てみたい
「アリスも同じでいいかな・・・」(ボソッ)
「え?じゃあ勝った方が兄さんと本気で戦うってことだね」
「・・・まだ決めた訳じゃないけど。それにアーロンとかもいるのにもうアリスと決勝で戦うつもりなの?」
「あ、そうだった。これは負けられないね」
兄さんは「優勝したら」と言った
準決勝とかでマルクとあたってそこで勝ったとしても、決勝戦でアーロンあたりに負けてしまったら駄目かもしれない
「どっちにしろアーロンかカイルにも勝たなきゃいけないのか・・・面倒臭い」
「今までみたいに“わざと”負けてもいいんだよアリス?」
「・・・・大会が面倒臭かっただけで稽古をサボってた訳じゃないんだからね?」
「知ってるよ」
面倒臭いことは嫌いだけど負けることはもっと嫌いだ
マルクはアリスの性格をしっているから大会であたった時わざと負けたりしてたけど
アーロンとかと戦う時にわざと負けたことはない
「今年はわざと負けてあげないから」
「アリスと本気で戦うのも久しぶりだね」
「勝ち上がってから言いなさいよ」
「負けないよ」
マルクは相当やる気みたいだ
(面倒臭い・・・でも負けない)
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そしてアリス達にとって最後の大会
結局アリスもマルクも年齢別の部門優勝一本に狙いを絞り、そして順調に勝ち上がった
例年通りベスト4はアリスとマルク、そしてカイルとアーロンだった
準決勝でマルクはカイルを倒し、アリスはアーロンを倒した
アーロンの奴もそれなりに強くなっていて面倒くさかったけど
場外に落としてやったら悔しそうにアリスを見てた、いい気味だ
そして決勝戦
「これで勝った方が兄さんにお願いを聞いてもらえるね」
「うん、アリスが勝つけど」
「僕だって負けないよ」
今日は兄さんも見に来てくれている
本気でマルクと戦う以上負けたくない
お願いも大事だけど、マルクよりもアリスの方が強いってことを兄さんに見てもらいたい
「それでは年齢別部門年長の部、決勝戦を始めます。両選手位置へ」
舞台でマルクと対峙する
「決勝戦。マルク対アリス・・・・・・始め!」
審判の合図と同時にマルクが突っ込んでくる
お互いの手の内は知っている
様子見なんてしない
距離を詰めてくるマルクを魔法で牽制して近づけないよう試みる
だけどマルクはレジストしてきたり、レジストできなかった魔法を避けながら
いくつか命中しても怯まず強引にどんどん突っ込んでくる
「ぷはっ!よし、僕の間合いだ!」
「くっ・・ウザイ!」
アリスとマルクは双子だ
だけど二卵性でそれほど似てはいない、そしてアリスは女でマルクは男
昔はアリスの方が体も少し大きかったのに、今ではマルクの方がずっと大きい
身長が伸びるのと同時に力もマルクの方が強くなった
筋トレなんか疲れるだけだからアリスはやらないけど、マルクはちゃんとやっている
だから単純な力の差だけなら今では圧倒的にマルクに分がある
それを分かっているからマルクは無理にでも接近戦に持ち込みたくて、アリスはマルクを近づけたくなかった
強化魔法はレジストできない
それを分かっているからマルクは全力を使って強引に勝負を仕掛けてきた
(マルクの狙いは分かってたのに、どうしよう)
「勝たせてもらうよアリス!」
「うるさい!」
強化魔法を掛けてマルクの攻撃に対処する
だけどやっぱり肉弾戦になるとマルクに分がある
「うっ!・・・女の子殴るなんてマルク最低!!」
「手加減してアリスに勝てる訳ないんだから仕方ないだろ!」
(マルクのくせにムカつく!)
ムカつくけどマルクの強さは本物だ
どんどん舞台の端まで追い詰められていく
(あー!もう!)
マルクがパンチを繰り出そうと腕を引いた溜めの瞬間
二人の間に魔法障壁を展開する
マルクにレジストされないように最速で張った
「嘘!?速っ!?」
成長と共に体を強化していったマルクとは違い、アリスは魔法を伸ばしていった
その気になればマルクにレジストさせる暇なんて与えない
(兄さんと戦う時の為に取っておこうと思ったのに!)
やっぱりマルクは双子で実力も拮抗している
対兄さんの時まで温存するつもりだった奥の手を使わざるを得ないみたいだ
(魔法障壁でマルクの攻撃を防げる今のうちに)
まだ集中しなければ上手く使えない奥の手
でも相手がマルクということで集中力はバッチリだ
今なら使えるはず
「なっ!?」
マルクの目の前から一瞬で姿を消した
マルクは驚きの声を漏らしている
アリスはマルクの後ろ斜め上方に居た
兄さんが得意とする瞬間移動
ウィル兄もリリアーナも未だに使えないこの技を
兄さんとノワールとの戦いのあの日から今まで、何年もかけて練習し続けていた
そしてようやく時々成功するようになったアリスの奥の手
(兄さんを驚かそうと思ってたのに・・・お返し!)
そこから怒涛の魔法攻撃を繰り出す
「うわっ!?」
舞台端に立つマルクを襲う数多の岩球や氷球
当たり所が悪ければ死んでしまうかもしれない程の大きさと威力
だけど相手はマルクだ
強化魔法だって使っているし、そもそもまともに当たるとは思っていない
大怪我はするかもしれないけどその時はアリスが治してあげればいい
「驚いた・・・でも、このくらい!」
マルクは飛んでくる礫を躱し、殴って弾き落とす
そして魔法障壁を足場にして縦横無尽に舞台上を駆け巡る
(さっきより速い!?・・・だけど)
魔法を放つ手は止めず、目を強化してマルクの動きを捉える
「そこ!」
「うわっ!?」
マルクが足場にしようと魔法障壁を張る瞬間を狙ってレジストする
「魔法ならマルクには負けない!」
足場にするつもりだった魔法障壁が張れず、マルクはそのまま場外へと飛んでいく
もう一度足場を作るために魔法障壁を張ろうとしてもまたレジストしてやる
他の魔法を使って復帰しようとしても同じ
マルクに舞台へと復帰する手段は与えない
強化魔法を使ったマルクのスピードだ、あっという間に舞台の外へと飛び出た
(勝った!)
あと少しで場外に落ちる
その手前でマルクは足場を張ろうと思ったのか進行方向に右手を伸ばした
「無駄!」
レジストしようと魔力を飛ばす
「なっ!?」
その瞬間マルクは左手をアリスの方へ向け広範囲に魔力をばら撒くように放った
その魔力にレジストしようとしたアリスの魔力は相殺される
そしてマルクはギリギリのところで魔法障壁を張り場外への落下を免れた
「あっぶな~」
兄さんがブランを殺すときに使ったという荒業
「僕だって魔法の稽古をサボってた訳じゃないよ」
「マルクのくせに生意気・・・」
アリスとマルクが本気で相手を戦闘不能にするために戦えばお互い無事では済まない
だからマルクも場外へ落とす方法を考えている
でなければ最初の肉弾戦で勝負は決まっていたはず
(やりにくい・・・)
勝つ方法が限定されているせいで攻め方が制限される
でもそれはマルクも同じ
こういう試合形式の戦いでないのならいくらでもやりようはある
だけど試合でないのなら戦う理由が無い
アリスとマルクは双子だ
憎くて戦っている訳じゃない、お互いの腕を試しているだけ
だから理想は怪我をさせずに場外へ落として勝つ
(かといってまともに場外に落とそうとしても今のように防がれる・・・だったら、この方法がベストかな?)
怪我をさせずに勝つ方法はある
だけど上手くいくかどうかは賭けになる
「来なよマルク、もう決着を付けよう」
「そうだね」
マルクが爆発的に魔力を高めた
さっきまでのは本気ではなかったみたいだ
でもそれはアリスも同じ
より強く強化魔法を掛けたマルクが真っ直ぐこちらへ飛んでくる
(はっや!?)
不利なのは分かっているがこちらも強化魔法で対抗する
ある程度は抵抗しなければ策を使う前に負けてしまう
あっという間にマルクは上空にいるアリスの目の前までやって来た
「くっ・・・」
マルクに気圧されたふりをしながら舞台外上空へ後退する
下には足場が無い、この状況なら
(マルクならきっと・・・)
マルクの攻撃をなんとか受け流していると腕を掴まれた
(やっぱり)
「強化魔法解かないでねアリス!」
そしてマルクは力任せにアリスを地面目掛けてぶん投げる
斜めに角度が付いているのはマルクの優しさだろう、垂直に落とされると受け身をとれなかった場合最悪死んでしまう
(ここまでは予想通り!)
あとはこの速度の中狙い通りにできるかどうか
(今だ!)
地面まであと数メートルといった所で転移魔法を使う
そしてマルクとアリスの位置を入れ替えた
「えっ!?」
マルクは突然地面が迫ったからか驚いた表情で落下している
上手くいった!
(勝った!)
そう確信したと同時
頭上で激しい爆発が起こる
「きゃあ!」
せっかく転移で場所を入れ替えたのに
頭上の爆発でアリスは地面へと叩き落とされる
「うわっ!?」
「うっ・・」
そしてほぼ同時に場外へと落下した
(な、何が起こったの?)
転移は上手くいったはず
なら頭上で起こった爆発はマルクが起こした魔法?
アリスがマルクと入れ替わるのを読んでた?まさか!?
でもならどうして落下を防げずマルクも場外に落ちているの?
「じょ、場外!両者場外!・・・しょ、勝者・・・え~・・」
審判も何が起こったのか理解できていないようだ
どちらが先に場外へ落ちたのかを判断できないのかオロオロしている
転移で入れ替わったため落下の勢いは殺されていた
だが位置的にはマルクの方が先に落ちるはずだった
だけどアリスは爆発の威力で素早く落下した
どちらが先に地面に着いたのかは本当に微妙な差だ
おまけに爆発のせいで審判からの視界は悪く、そのせいで余計に判断を付けられないのだろう
「マルクが先に場外に落ちた!」
「ええ!?アリスじゃないの?」
「え、え~・・・ドロー!同時に場外へと落下したため決勝戦は引き分けとします!」
「「ええ!?」」
(そんな・・・)
引き分け
だが再戦できるほどコンディションは良くない、それくらいお互い消耗している
「この場合・・・」
「兄さんとの約束どうなるんだろう?」
顔を見合わせるとマルクも同じことを考えていた




