青竜のスローライフ
-ビル-
暗闇の中で目を覚ました
今日も今日とて何をするでもなくただボ~っと過ごしては眠くなったら寝る
そして小腹が空いてくると食料を調達しに行くだけのそんな一日だった
もう永遠に感じる程の時間をそんな風に生きている
少し前までは僕の後ろにある扉の先
そこにある鏡海を壊すことのできる大筒を悪意ある人間から守るという使命を持っていた
それもルシオ達が現れたことで無くなってしまったけど
竜である自分は人間のように生きることに楽しみなんて求めないし
退屈で死にそうだとは思っても、自ら死を選ぼうなんて考えたことも無い
リアンとイアンという親友を失った時は流石にちょっとだけ
いや、かなり寂しさを感じたけど
遥か昔、胸にぽっかりと空いた穴は時間が埋めてくれた
親友を失い、そして使命までも無くなった
でもその代わり友達のような物が新しくできた
それがルシオだ
ルシオは月に2・3度くらいの頻度でここへとやって来る
とは言ってもここはアヴァングラースの大陸の北の端の更に北
僕以外の生き物が住みつかない程極寒の地であり
人間が求めるような娯楽は勿論、観光になるような物も何一つない
それでもルシオは度々ここに来る
物好きな奴もいたもんだ
ここに来たって他愛もない話を少しするだけで何かをするわけでもない
グラシエールも死んでしまったそうだし暇なのだろうか?
なんて
そんなルシオを『物好きな奴だ』と思うのはもうやめよう
ルシオは僕に会いにわざわざこんな所まで来てくれる
ルシオは竜である僕のことを『友』だと思ってくれている
かつてのリアンとイアンのように
そんなルシオのことを僕も今では友だと思っているし
ルシオが来てから数日経つ頃には『そろそろ来る頃かな?』なんて考えてしまう
(前にルシオが来たのって何日前だったっけ?)
退屈過ぎる毎日が原因とはいえ
今の僕は少なからずルシオが来ることを楽しみにしていた
(う~ん・・・背中が痒い・・・)
後ろ足を使って痒い所を掻こうとしたが背中の丁度真ん中あたりなので上手く掻けない
(む~・・・)
今度は尻尾を使ってみた
(お?・・・物足りない・・・)
痒いところに届きはしたが尻尾の先は爪程尖っていない為
鱗越しの痒みには全然物足りない
(よっと)
試しに寝返りをうって背中を下にしようとしてみた
だが地面が「ゴリッ!」と鈍い音を立てる
(やっぱりか~)
背中にある大きな結晶が邪魔をして仰向けになれない
(う~!痒い!)
中途半端に尻尾で掻いたからかなんだか余計に痒く感じてしまう
だが仰向けになろうとすることで結晶が横に引っ張られ
丁度痒い所の皮膚も引っ張られるからか痒みが軽減する気がした
(お、良い感じかも?もうちょっと・・)
すると「ガキン!」と大きな音と同時に背中のつっかえが無くなり
ゴロンと一回転寝返りをうってしまった
「ん?」
背中を見ると一際大きく伸びていた結晶が折れている
そして折れた結晶は僕の横に転がっていた
(ま、いいか)
背中の痒みもましになり、邪魔だった背中の結晶も折れ軽くなった
一石二鳥、良い事しかない
(これ、丁度いいかも)
そして折れた結晶を顔の方へと運び枕にしてみる
(おお。丁度いい高さかも)
そして更に丁度いい枕にもなる
一石三鳥だ
「くぁ~~・・・むにゃ」
痒みも無くなり丁度いい枕を得たことでまた眠気が襲ってきた
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「相変わらず暗いなここは」
(ん?)
声で目が覚め、目を開けると松明の灯りが目に入り眩しかった
「おーいビル。起きてるか?」
「・・・・今起きたよ」
「今起きたって、ちょっと不用心じゃないか?」
「そんな事より眩しい」
「へいへい」
ルシオは手に持つ松明を少し離れた場所に立てる
灯りを持ってくるルシオに対して僕が眩しいと文句を言うのはいつもの事なので、言うよりも先にルシオは松明を置きに歩き出していた
「そりゃこんな所に俺以外の人間が来ることは無いだろうけど、間近に来るまで寝てるとか竜としてどうなんだ・・よ」
「君以外の人間なんて来やしないよ」
「・・・おい」
「来たところで僕を見ていきなり襲い掛かってくる人間なんて居ないんじゃないかな?」
「おい」
「・・・なんだい?」
「それなんだよ?」
「ん?」
「それ!」
「それ?」
「顎の下にある物」
「ああ、これ?背中の結晶だけど?」
「え?なんで?折れたのか?」
「うん、少し前に折れちゃった」
「何やったら折れるんだよ?」
「寝返り」
「ええ?あー・・・折れる・・のか?でかいし」
松明を置いたルシオは僕の目の前までやって来る
そして枕にしている折れた結晶を確認した後、僕の横へ回り込んだ
「大丈夫か?背中怪我してないか?」
「大丈夫だよ」
ルシオは器用に魔法障壁を足場にして僕の背中を覗き込む
別に人間に、ルシオに背中を踏まれたところで痛くも痒くもないし、ルシオなら不快でもないのに
たかだか背中の結晶が折れたくらいで心配してくれることがなんだか少しだけむず痒い
「怪我とかは無さそうだな・・・にしても、真ん中の一番大きかった結晶が半分にポッキリいったんだな」
「邪魔だったから丁度良かったけどね」
「竜の象徴みたいでカッコよかったのに」
「・・・そうかな?」
そう言われるとなんだか勿体ないような気がしてきた
「よっと。・・・でもそうか、折れちゃったか」
「・・・なに?」
「折れてもその大きさなんだな」
ルシオは僕が枕にしている折れた結晶をまじまじと見ている
「結晶が枕って硬くないか?」
「床と変わらないよ」
「それもそうか・・・」
ルシオは何か考えているようだ
「やっぱり枕なんだから柔らかい方が良くないか?」
「ん?・・枕なんて今まで使ってなかったんだしよくわからないよ」
「なあなあ、俺が代わりの枕用意したらその折れた結晶貰ってもいいか?」
「こんな物が欲しいの?」
「ビルは知らないのかもしれないけど、竜種の背中にできる結晶ってドラゴライトって言ってな、俺が持ってるこれみたいに武器とか色んな物に加工できるから貴重なんだよ」
「ふ~ん」
ルシオはいつも背中にさしている真っ赤な剣を僕に見せてきた
確かにこのくらいの長さの剣を結晶から作るのなら僕が枕にしているくらいの大きさが必要になるだろう
「ビルは青竜だからブルードラゴライトって種類だな」
「別にいいよ?」
「え!?」
「別に要らないからいいよ?こんなもの」
人間にとっては貴重な物かもしれないが
僕にとってはずっと邪魔だと思っていた物が折れただけだ
それが偶々枕に丁度よかったというだけの話
別にこれが無くたって何一つ困ることは無い
「貴重だって言っただろ?」
「人間にはでしょ?僕にとっては邪魔な物だったし」
「・・・わかった。有難く貰う事にするよ」
「いいよ」
「でも!」
顎に敷いている結晶をどかそうとするとルシオがそれを止めた
「なに?」
「代わりの枕はちゃんと用意するからそれからでいいや」
「そう?ならそうしてもらおうかな?」
律儀な奴だなと思いつつも、お言葉に甘えることにした
その後は『どんな枕がいいか』とか『いかに大きなドラゴライトが貴重か』等の話をしてからルシオは帰っていった
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「どうだ?」
「・・・・さいこう」
そしてあれから数日
ルシオは約束通り枕を持ってきてくれた
それは体の大きな僕が枕にしても平気なくらい大きく丈夫で
それでいて鱗が引っ掛かりにくいような上質な布で包まれており
中には綿や羽毛や藁でもなく「ビーズ」とかいう粒々が入っているらしく
枕は僕が望むように形を変えてくれる
「何これ、人間ってこんな良い物使ってるの?」
「人間が使う物の中でもかなり最上級の枕だな。家族にも『同じの作ってくれ』って注文されたし」
「そっか・・・だけど本当にいいの?こんな良い物貰っちゃって」
「ビルが枕にしてた結晶にはそれでも足りないくらいの価値があるけどな」
「ふ~ん」
折れた結晶なんかにそこまでの価値があるものなのか
人間の考えることはよくわからない
「一応破れにくく三重にカバーを掛けてるけど、破れたりしたら言ってくれよ?外側のカバーを入れ替えてたらいつまでも使えるだろうからさ」
「へぇ~」
「・・・眠くなってきた?」
「・・・うん」
「そっか」
こんな感触を知ってしまったらもう床の感触では満足に寝られないだろう
何が何でも壊さないよう大切に使わなければ
「じゃあ約束通りドラゴライトは貰っていくぞ?」
「・・・・あ~、うん」
「ははっ、おやすみビル」
「おやすみ・・・」
「じゃあな」
邪魔だった結晶の代わりにとても良い物を貰ってしまった
この場所で何もせず、ただただ生きているだけの僕だったが
新しい友もできて、最高の寝具も手に入った
退屈で仕方ないだけの時間が、これからはそんな時間も悪くないと思えてくる
因みにルシオが結晶を使って作った剣を見せびらかしに来るのはそれから数日先のことだった




