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 イルミラ -父娘-


翌日


師匠に言われるがまま故郷ラドハルバへとやって来た私

ラドハルバへの移動は師匠の家にある転移魔法陣を使えば一瞬だ


師匠は元々屋敷の二階にある部屋を一つ転移魔法陣専用に使っていた

だがラドハルバへ繋がる魔法陣は無く、タナトス行きの物であればクレアさんの家に繋がっている物とファティちゃんのいるフローミクへ繋がっている物、そしてシシルさんがいつでも帰れる為にシルトゥリエへと繋がる三つだけだった

アヴァングラース内にもローリスの師匠の実家、ウェルクシュタットのマヤさんの実家、ビルさんの居る北の端て、と三つあり

色々足したり減ったりもあったみたいだが、全部で6つの魔法陣が一つの部屋に描かれていた


魔法陣は一つ辺り縦横1メートル程の円となる為、広いとはいえ一つの部屋に6つもあっては流石にスペースを取り邪魔になる

ラドハルバには王都の城と繋がる魔法陣を使えば簡単に行けたのだが

特別な力を失った師匠は「それでは緊急時に手間が増える」と考えた


そして師匠は屋敷の一部から地下を掘り、大きな地下室を造ってしまったのだ


現在転移魔法陣は全て地下室へと移されており、転移魔法陣もいくつか追加されている

そしてそれでも余裕過ぎる程余っているスペースは物置として利用され

元々転移魔法陣用だった部屋は、今ではマオ君達用の子供部屋へと変わっている






(さて・・・師匠に言われるがまま帰って来たのはいいのですが)


正直両親に、特に父に会うのは気が重い

会って何を話せばいいのかが分からないからだ


(姉さんが居れば一緒に来てもらおうと思ったのに・・・)


転移魔法陣はラドハルバ城の一室に繋がっているため、城で働いているはずの姉にすぐ会えると思っていた

父も城で働いているはずだがどうせ研究室に籠っていることだろう

なのでまず姉に会ってから父との間に入って貰おうと考えていた、のだが・・・


(まさか留守にしているとは・・・)


姉は仕事で不在なようだ


姉のイルフィスはこの国の王フローレシア様の側近をしている

正確にはフローレシア様の双子の妹であるフロール様の側近なのだが、フロール様の存在はこの国の中でも秘密とされており一部の人物しかフロール様の存在を知らない

それは国外では勿論のことで、フロール様の存在を知っている外部の者ともなれば師匠くらいしかいない


そして現在そのフロール様がお忍びの任務に出ており

ロッシュさんと一緒に姉も護衛の為にラドハルバに居ないそうだ


というのをフローレシア様が直々に教えてくださった


というのも、王都の城から繋いでいる魔法陣とは違い

師匠の家から繋いでいる魔法陣は謂わば特別な緊急用で、フローレシア様とフロール様二人の私室のすぐ隣に繋がっている

そんな転移魔法陣はフロール様の存在よりも秘密にされており、フローレシア様とフロール様、そしてロッシュさんや姉のような王が信頼する極々一部の側近しかしらない

そうでなければ王の寝室のすぐ隣に繋がる転移魔法陣なんて不安要素でしかない物をラドハルバの偉い人達が放っておかないだろう


フローレシア様達が如何に師匠の事を信頼しているのかが分かるので弟子である私にとっても特別な転移魔法陣だ


そんな転移魔法陣を利用したため、転移後すぐに私室に居たフローレシア様と偶然会ってしまい

失礼を承知で事情を説明したところ、フロール様と共に姉も居ないという事を知らされた


だが存在自体が極秘であるフロール様の任務ともなれば極秘中の極秘なはずだ

それをあっさり私に説明してくれるなんて、いいのだろうか?

それだけ私のことも信頼できる相手だと考えてくださっていると自惚れてもいいのだろうか?


(いやいや、“師匠”の弟子だから、ですねきっと)


私が偉い訳では無い、決してそんなことは無い

師匠が偉大すぎるのだ


師匠も言っている、「慢心は身を滅ぼす」と




フローレシア様が仰るには、目的の父は研究室に居るそうだが

フローレシア様に説明させてしまった手前行かない訳にはいかなくなってしまった


フローレシア様にお礼をした後

期待していた姉が居なかった事で更に重くなった足を動かし

父の研究室へと向かった


____

__

_



父の研究室へと到着した


「・・・・すぅ~・・・はぁ~・・・」


深呼吸をした後ノックをする

しかし返事は無い


「失礼します」


返事がないので声を掛けながらゆっくり扉を開くと

中には本にかじりつく父の後ろ姿が見えた


(家に居ても研究室に居てもやってることは同じですね・・・)


小さな頃何度か見た、家にある父の部屋の扉を開いた時と同じ光景だ

違うのは周りの物だけで、いつも父は扉に背を向け本にかじりついている

ノックしても声を掛けてもこちらを見ない

父には無視をされ、そして母には「父の邪魔をするな」と怒られる



私は小さな頃からずっと

この父の背中が嫌いだった



漏れそうになる溜息を飲み込んで、開けた扉をもう一度強めにノックしてから声を掛けた


「父様、私です。師匠から話を聞いたのでやって参りました」

「・・・ん?・・・・ああ」


私に気付き、ようやく父は面倒臭そうに本を閉じた


「ラドハルバで魔術師の最高顧問?とかいうのになったそうで、大変おめでとうございます」

「ああ」

「それで師匠が仰っていたのですが、式典の方に私も出た方がよろしいのでしょうか?」

「・・・・・・そうだな、フローレシア様がお前にも声を掛けたらどうかと仰っていた」

「フローレシア様が?」

「ああ」

「・・・そうですか」


フローレシア様が私を招待?

ならばそれは師匠も知っている事ではないのだろうか?

私に声が掛かって師匠に声が掛からない訳がない

だとすれば私と父の仲直りをさせるため師匠がわざと回りくどい言い方をしたという事だろうか?

だがそれならば先ほどフローレシア様とお話しした時にどうして言ってくれなかったのだろうか?


(それならば師匠も出席するということ?)


しかし昨日話しをした時には師匠も出席するなんてこと一言も言っていなかったはず


「その式典には師匠・・・ルシオさんも出席なさるのですか?」

「彼は出席の予定は無い・・・忙しいのだろう」


(結構暇そうにしてますけどね・・・)


師匠がグラシエールを倒した後、再び世界は平和になった

そんな平和な世界で起こる事件なんて師匠にとっては些細な事件なようで

騎士団の隊長になった現在、師匠は勤務中にもちょくちょく家に帰って来てはマオ君達の相手をしている


簡単な任務なら隊長権限で同じ隊の副隊長に任命したウィルフレッドさんに押し付けたりしているみたいで

ウィルフレッドさんもよく家に来ては師匠に文句を言っている


「そうですか・・・師匠は出席しないのですね」

「ああ」

「ですがフローレシア様からお声を掛けて頂いたというのなら断る訳にはいきませんね」

「・・・・」

「私も式典には出席しようと思います。構いませんか?」

「ああ」

「・・・・それでは日時を教えて頂きたいのですが」


父から式典の予定日を聞き

最低限の会話だけで済ませ帰ることにした


結局家には帰らなかったので母には会わなかった


____

__

_



そして式典当日


どうやら師匠は仕事が入っているらしく、本当に出席しない予定だったそうだ

私が「フローレシア様からの招待だった」と師匠に話すと「ふ~ん・・・」と反応は薄く

何やら考えているようだったが、結局「だったら尚更断れないな」と私と同じ意見を言いながら笑っていた




式典は滞りなく進み、ほぼ部外者である私にとっては非常に退屈な物となった


姉のイルフィスはロッシュさんと共にフローレシア様の少し後ろで護衛の役目を務めている


式典では父以外にも昇進する者が数名居て

簡単に説明すると、それらの者に王であるフローレシア様が有難い言葉を掛けていくだけの事

要は「これからも頑張ってくれ」というだけの物であり、『大人達はこんな事にも形式ばって、面倒くさいなぁ』と思ってしまった


だが直接面と向かってフローレシア様からお言葉を頂けるのは大変名誉なことなので少し羨ましい




最後の順番であり一応この式典の主役でもある父の番になった


だというのに『あれは私の父なんだぞ』という誇らしさも、偉くなった父に対する対抗心のような物も湧いては来ない

ただただ何度も襲ってくる欠伸を嚙み殺す事に集中するだけだった


(師匠はああ言ってくれるけど・・・やっぱり無理ですよ・・・)


多感な時期に経験してきた物が

今まで積み上げてきた物があまりにも大きくて

やはり父に対する苦手意識というものは簡単には払拭できないだろうと再認識していた




ようやく退屈な式典が終わる


(これが終わったら帰って稽古をしなければ。今日はまだ何もしていませんからね)


なんて考えていると


「へぇ~、あんたがこの国で一番強い魔術師なのか?」

「「「「っ!!??」」」」


突然フローレシア様の横に男が現れた

フローレシア様の前で片膝を付く体制の父を覗き込むように、まるでチンピラのようにしゃがみ込んでいる


(いつの間に!?声がするまで誰も居なかったはず!)


驚く私と同じようにこの場にいる全員が驚きパニックになっている


「フローレシア様!」

「お下がりください!」


いち早くロッシュさんが男に掴みかかろうとして

それとほぼ同時に姉がフローレシア様の盾になる為か間に割って入ろうとした


「おせえおせえ!」

「うおっ!?」


だが逆にロッシュさんは男にあっさりと投げ飛ばされてしまう

しかしその間に姉はフローレシア様を庇う体勢をとり、フローレシア様に危害が及ぶという最悪のケースは回避することができた


(いや、本当に?・・・フローレシア様を狙おうと思えばできたはず・・・)


男が只者でない事はすぐにわかった

きっとアヴァングラース側の人間だ

だとすればここに居る者達に勝ち目は無い

それを男も分かっているのか


「弱っえぇな~・・・側近がこれってことは、確かにこりゃ俺一人でも楽勝だわ」

「デュー・アゴニ・フィア ブレイズカノン!」


父が魔法を詠唱し、隙だらけに見える男へ向け『ブレイズカノン』を放った

アヴァングラースでは中級魔法の『ブレイズカノン』もタナトスで使える者は父を含めて数名しか居ないだろう

しかし父の放つ『ブレイズカノン』はこぶし大の物で、一瞬で人が隠れる程の大きさを造れる師匠の物と比べるとあまりにも貧弱だ


「な・・・なんだと!?」

「はっはっは!『ブレイズカノン』の詠唱なんて聞いたの何年振りだ!?それに、なんだよこの小っせぇ球は?」


男はあろうことか素手で父の『ブレイズカノン』を受け止めてしまった


「面倒くせぇのは嫌いなんだけどよ、流石にお前等手応え無さ過ぎだ」

「くっ」

「お前がこの国一番なんだろ?ガッカリだぜ・・・・・もういいから死んどけ」


(っ!?)


男が父に向って手を伸ばす

それを見て体が勝手に反応した


「っ!?」


気が付けば私は男に向かって父と同じように『ブレイズカノン』を放っていた

父とは違い無詠唱で


だが不意打ちだったにも関わらず男は私の魔法に反応して直前で避けられてしまい

避けられたことで着地点を失った『ブレイズカノン』は式場の壁を見事に破壊して外へと飛んでいき、大きな穴を空けてしまった

不幸中の幸いなことに射線上に男以外の人物は居らず他に怪我人が出なかったのが救いだったが


「なんだよ?活きが良いのもいるじゃねえか!」


(今のを避けますか・・・いや、アヴァングラースの人間なら私の魔法を不意打ちでも避けられて当たり前だと考えなければ・・・)


師匠は勿論、ウィルフレッドさんやリリアーナさん達なら当然のように防いでみせるだろう

まだまだ彼等とは住む世界が違う

それは私にとっては当たり前の事だ


だが三年

もう三年も師匠の元で修行を続けてきたのもまた事実


「お前こっち側の人間じゃないな?」

「残念でしたね。私はこっち側の人間ですよ」

「ああ?にしては魔力も多い・・・まぁそういう事もあるか」


(師匠に言われたことを思い出せ)


格上を相手に戦う際注意しなければならない事を何度も教わって来た

それをリリアーナさん達相手に実践もしてきた


だが本番はこれが初めてだ


「“こっち側”ということは、やっぱりあなたはアヴァングラースの人間という事ですか?」

「ああそうだ」

「あなたの目的はなんですか?フローレシア様の命?」

「まぁそれもあるが・・・簡単に言や、金だ」

「はぁ?」

「簡単な仕事で金を稼げるなら誰だってやるだろ?」

「お金の為に人の命を奪うというのですか!?」

「・・・・あ~、そっちの人間ね・・・はいはい、もういい、理解し合えないな」


(うっ、失敗した?)


師匠に教わったことの一つ

格上相手と戦う時は「とにかく時間を稼げ」

冷静さを失ってすぐ戦闘に挑めばあっさり殺される

実力差があれば1秒で勝負は終わってしまう、それと同時に命も

ならば少しでも時間を稼ぎながら相手を観察、状況を打破できる方法を模索しろ


教わった通りにまずは会話に持ち込んでみたが

どうやら言葉の選択を間違ってしまったようだ

恐らく本命であろうフローレシア様の事を後回しにするような男だ

その余裕をつき、もっと長く会話で引き延ばす事はいくらでもできたはず


男は臨戦態勢に入ったのか私の方を見ながら姿勢を低くした


(後悔しても無駄、戦闘に入ってしまったのなら切り替えないと!)


男がもの凄い速度でこちらに向かって来る

私は目に強化魔法を掛けて男の動きをよく見た

そのおかげでなんとか男の動きを捉えることができ、私の顔へと伸びる男の手をギリギリで躱すことができた




当然師匠からは戦闘面でも格上相手の対処法を教わっている

師匠が言うには、「一番大事なのは目だ」だそうだ

相手の動きを捉えられなければ訳も分からないまま殺されてしまう


そしてもう一つ

「戦闘になったら出し惜しみするな」というのも教わっている

出し惜しみして殺されては意味が無い


その二つを実践することで男の初撃を躱すことができた



「あ?・・・お前そっちもいける口か?」

「はぁ・・はぁ・・」


避けられるとは思っていなかったのか男の喋るトーンが少し下がった

魔術師と思っていた私が強化魔法を使い素早く動いたのが予想外だったのだろうか


だが奇跡は二度は起こらないだろう


(どうしよう・・・もう魔力が・・・)


最初に放った『ブレイズカノン』は問題ではない

問題は男の動きを捉えるために常に全力で掛けている強化魔法だ

気を抜けば男の動きに対応できない、だが気を抜かなければ魔力がもう数秒ともたない


「ちょっと本気だすか?」

「うっ・・」


ギリギリ魔力はもっていた

だが本気を出したのか、更に速くなった男の動きを捉えることはできず

私は男に首を掴まれ持ち上げられてしまった

そしてそれと同時に魔力も切れてしまう


「くっ・・かぁっ」

「なるほどな、燃費悪い戦い方してたのか」


(苦しい・・私、死ぬのかな?)


師匠に教わったように時間を稼ぐ事もできなかった

師匠のように格上相手に生き延びることもできなかった


師匠は最後まで不出来だった私を許してくれるだろうか


「私の娘を離せーー!!!」


薄れゆく意識の中

父の叫び声が聞こえた




次の瞬間

首を絞めつける力がフッと消え

誰かが私を受け止めてくれた


「父・・様?」


視界が霞むせいでそれが誰なのかが分からない


だが私の体を包むように暖かい魔力が流れ込んで来て、それが誰なのかを理解した



「へあ?お、俺の腕!?俺の手がー!!!」


覚醒していく意識の中、男の情けない叫び声が辺りに響く


「・・・・師匠」

「大丈夫か?イルミラ?」

「はい・・なんとか生きてます」

「よかった」


師匠は私の無事を喜び優しく抱きしめてくれる


全身を包む魔力は師匠の物

何度も魔力を分けてもらったり治癒魔法を掛けてもらった私にはすぐにわかった

文字通り師匠の一部を分けてもらう、そんな万能感を感じることができる

そして何より暖かい、私が大好きな感覚だ


「いでぇー!ありえねー!」

「少し待っててくれイルミラ、黙らせる」

「はい」


師匠が男を黙らせるのは本当に一瞬だった


____

__

_



なぜ式典に出席する予定の無い師匠がこの場に駆けつけてくれたのか

それは今日の師匠の予定と、フロール様の任務が関係していた


フロール様の任務というのはタナトスの、ある小国の動きを調査するものだった


そして男の正体は私の予想通りアヴァングラースの人間

それもバブレス出身の人間だった


どうやら世界が繋がってからというもの、ラドハルバだけが好待遇を受けていると勘違いした国があるようで

その国がアヴァングラースの人間の力を借りてラドハルバを襲撃しクーデターのような事を起こそうと計画していたらしい


そして小銭に釣られたのがよりにもよってバブレスの生き残りだった


当然そのクーデターを企てた小国にも王都からの援助はある

だが当然ラドハルバの方が大きい国な以上支援の量も比例して増える訳だというのに

贅沢を知れば人は欲をかくものだと改めて感じた


支援物資を配給している騎士団の人がそれを察知し、不穏な動きがあると報告してくれていたようで

その確認の為にフロール様がお忍びで調査しており、その手伝いを師匠もしていたそうだ


フロール様自らやることは無いだろうと文句も言いたいが

師匠が付いているのならばこれ以上安全な場所はないだろうと思い文句は飲み込んだ



そして元々式典への襲撃も警戒していたため

男の登場に気付いたラドハルバの兵が転移魔法陣を使い、フロール様と一緒に小国の調査をしている師匠の元へと裏で向かってくれていた


男が現れてから師匠が助けに来てくれるまで5分もかかっていないと思うが

どうやら私のほんの少しの時間稼ぎは無駄では無かったようだ

その事を師匠は凄く褒めてくれた

私自身満足はしていないが




(はぁ~・・・疲れた)


師匠に「休んでいろ」と言われ椅子に座る私

少し離れた所で師匠と父が話をしているのが目に入った


式典はほぼ終わっていた事もあり、現在は皆事後処理に走り回っている


(何を話しているのでしょう?・・・・なっ!?)


気になってチラチラと様子を見ていると

師匠と話す父が少し微笑んでいるのが見えた


微笑む父の表情なんて初めて見た

いつも不愛想な顔をしている父なので、微笑んだといってもほんの少し口角が上がった程度のことではあるが

それでも確かに笑った


その瞬間、胸のあたりがモヤッとした感覚を覚えた


(あれ?・・・今のは、なんでしょうか?)


嫉妬?

でも何に?

師匠に?父に?どちらに?


私が嫌いな父と談笑する師匠に『そんな奴放っておいてくださいよ!』という嫉妬?

それとも、あり得ないと思うけど、私には向けたこともない表情を師匠には向ける父に対する嫉妬?


自分で自分の感情が分からない


なんて悩んでいると師匠が私の方へと歩いてきた

父はこちらをチラリと見ただけで何処かへ行ってしまう


「今日はよく頑張ったなイルミラ」

「いえ・・・大したことはできませんでした」

「そんなことないさ」

「師匠が来てくれなければ私は殺されてたでしょうし、師匠が来てくれたので結局皆無事でした。全部師匠のおかげですよ」

「そんなことない。俺が駆け付けた時にお前は首を絞められてたんだから・・・間に合わなかったかってゾッとしたよ」

「・・・もう駄目かとは思いましたけど」

「とにかくお前が無事でよかった。それにイルミラのおかげで死人どころか怪我人も出なかったんだからな、お前以外は」

「そうですか、それは良かったです」

「?・・・どうした?」

「・・・何でもありませんよ」


私の様子がおかしいのなんて師匠にはお見通しなのだろう

ジッと私の顔を見ながら私が何か言うのを待っているようだ


「・・・・・・・・さっき父と何を話していたんですか?」

「ああ、お前の事だよ」

「私の事?」

「『成長したでしょ?』って言ったら『そうだな』って言ってたぞ」

「父が?」

「他に誰か居たか?」

「・・・いえ」


私の成長を喜んで父は微笑んでいた?

まさか・・・


「俺が助ける直前、あの人の声聞こえたか?」

「・・・・はい」

「そうか」


それ以上師匠は何も言わなかった


確かにあの時父の叫び声を聞いた

まるで私を助けようとするような悲痛な叫びが




「やっぱり師匠の言う通りにして良かったです」

「そっか・・・何か変わったか?」

「はい・・・多分」


今すぐはまだまだ無理かもしれない

でも師匠の言うように少しずつなら


「私、師匠の弟子になれたことを本当に誇りに思います」

「・・・・どした?急に?」

「あれ?照れてるんですか?師匠?」

「いや、イルミラこそ。あ、わかった!命のやり取りしてハイになってるんだろ?」

「そうかもしれません。なので今なら日頃師匠に思っている事を何でも言えちゃうかもしれませんよ?」

「別にいいよ」

「照れないでくださいよ。本当に大好きですからね師匠!」

「わ~ったわ~った。帰るぞ。腹減った」

「奥様だけでなく私の言葉でも顔赤くしてくれるんですね師匠」

「・・・今日は休もうと思ったけどやっぱり帰ったら稽古するか」

「ええ!?・・・別にいいですよ!大好きな師匠との稽古なので!」

「あ~もう悪かったって俺の負けでいいから!」

「あはは。初めて師匠に勝てました!」


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