イルミラ -師弟-
-イルミラ-
私はラドハルバ一の魔術師といわれるイルレダスを父に
そして、その才能はイルレダスにも劣らないと小さなころから評判だったイルフィスを姉に持つ
私は姉程の才能を持たなかったため、父の求めるレベルに応えることができず
父は姉にばかり期待するようになり、母もそんな父と同じで私には冷たい視線を向けることが多かった
そんな過去があるせいか、私は家族というものに対し苦手意識を持ったまま成長してしまっていた
因みに、両親と同じで苦手だった姉イルフィスだが
どうやら姉は両親とは違い、私の事を忌み嫌っていた訳ではなかったようで
魔法を使えるようになることが楽しいあまりそちらに没頭して、私に対してそもそも関心が無かったそうだ
師匠を介して話をしたとき謝罪されたことがある
それはそれでどうなのかと思わない事も無いが
師匠の弟子となり、魔法を覚える楽しさを知った今の私なら当時の姉の気持ちが分からないこともない
それに今ではもう両親の事も怨んではいない
素晴らしい師匠に弟子入りできたことで私の人生は文字通りひっくり返る程一辺した
最早どうでもいいことだ
「私の師匠は凄い人だ」
世界中の師匠を持つ魔術師全員に自信をもってそう言える
魔法の技術や知識は当然のことながら、剣術にも長けている
そしてなにより優しい
上達の遅い不出来な私に嫌な顔一つせず根気強く稽古を付けてくれる
これが父イルレダスなら三度目の失敗で溜息をつき、「もういい」といって稽古が終わっていた
苦手な魔法の稽古の時なんかは、何度も何度も失敗してしまうのに
謝る私に師匠は「イルミラとの稽古は楽しいぞ?」と笑顔で言ってくれる
それは作り笑いなんかではなく、マヤさんやシシルさんといった家族に向ける笑顔と同じだ
そんな表情を師匠は私にも向けてくれる
師匠は私の事を本当の家族のように接してくれる
だから私にとっての家族も今では師匠たちのことだった
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日課である夕食後の軽い稽古の最中
「なぁイルミラ」
「はい、何でしょう?師匠」
「今日ラドハルバに寄ったんだけど、その時に城でイルレダスさんに会ってな」
「父に・・ですか?」
「うん。んで、ラドハルバの魔術なんたら最高顧問?とか言うのに昇進するんだってさ」
「・・・そうなんですか」
「あんまり興味無さそうだな」
師匠の言うように正直な所興味は全然ない
それが態度に出てしまっていたのか師匠は私を見て笑っている
「まぁ要するにラドハルバにいる魔術師の中で一番偉い人になったってことらしいぞ」
「へぇ~」
「娘として鼻が高いんじゃないか?」
「・・・・う~ん」
私が産まれた頃から父はラドハルバ内では偉い人だった
なのでそこからまた偉くなったところでこれといって実感もなければそれに対する感動もない
「ははっ。それで近いうち式典もやるらしくてな、イルミラにも声を掛けてみてくれって頼まれたんだ」
「・・・・まさか父からですか?」
「ああ」
「まさか・・・」
「そのまさかだよ。イルレダスさん本人に頼まれた」
「えぇ~~・・・」
どういう風の吹き回しだろうか
まさか父が今更私を自分の祝い事の為に呼び出そうとするなんて
「師匠は父と時々会っているんですか?」
「ラドハルバに行ったときに時々会う事はあるぞ?娘を預かってる訳だからそういう時に軽く近況報告することもあるし」
「そうだったんですか」
私が家を飛び出しても探そうともしなかった父に今更何を報告することがあるのかと疑問にも思うが
師匠の事だ、きっと私の事を考えての行動なのだろう
「俺が『イルミラはもうとっくにイルレダスさんを超えてますよ』って言ったら渋い顔してたな」
笑いながら師匠は言う
その様子を見て私は安堵した
「娘を預かっているから」という師匠の言葉はきっと本当なのだろう
だがそれと同時に私の『父を見返してやりたい』という気持ちも汲んでくれている
きっと私が考えている以上に私の事を考えてくれているのかもしれない
「私が父を・・・ですか」
「鏡海が無くなってからイルレダスさんがどれくらい成長してるのか知らないけど・・・イルミラと違って『魔力が増えたな』とか感じないしな」
師匠の弟子になってかれこれ3年が経つ
確かに家を飛び出した頃の自分と比べると別人のように成長しただろう
それでもこびりついたイメージというのはなかなか変わらないもので
「普段から師匠やリリーさん、ウィルフレッドさんといった雲の上の方々を見ているので私が強くなったという実感があまり持てないです・・・」
「普段から俺達を見てるんだからその雲がどのくらいの高さにあるのかもわかってるだろ?」
「そうですね。手どころか、飛んでも跳ねても雲の形を変えることもできないくらい高い所にあるってことはわかります」
「そう悲観するなって、知らないのと知ってるのじゃ全然違うんだ。高い山の天辺に登って威張り散らしてる奴は空を見ずに下ばかり見てるものさ」
(それは父の事を揶揄しているのかな?)
そう思うと可笑しかった
「まぁイルミラの好きにしたらいいさ。行きたくなければ行かなくていい。『稽古で忙しいので』とか適当に理由付けてさ」
「・・・・」
「でも、まぁ、その~、なんだ。喧嘩別れしたとしても血の繋がった家族なんだし。イルレダスさんの方が考えを改めたのかもしれない。理由は何にせよ招待したいってことはイルミラに直接会いたいって事だ、それをイルミラがどう思うかだな」
「今更調子の良い事を言ってるなと思います」
「ははっ。ならそれでもいいじゃないか。実際に会って『あなたの娘はこれくらい強くなりましたが何か?』って言ってやればいい」
「それはとても魅力的な提案なのですが・・・」
今の私が父を超えているのならばそれを見せつけてやりたい
それが家を飛び出した理由でもあるし目標でもあった
ただ今の私はそれ以前に、今更父とどんな顔で会えばいいのかがわからない
正直なところ会いたくなかった
「・・・・」
「イルミラ」
「・・・はい」
「俺はイルミラと出会うまでのお前等親子の関係を話で聞いただけだから、イルミラがどんな気持ちだったのかまでは正確には分かってあげられない」
「・・・・」
「でも意外とな、この世の中ってのは“取り返しのつかないこと”って少ないんだ」
「・・・はい」
「命くらいだな、取り返しがつかないのは。それ以外なら・・問題が大きすぎて諦めることはあっても、諦めなければ少しずつは状況が変わる。勿論大変だぞ?でも行動を起こせば“何かは変わる”少しずつでもな」
「・・・師匠は、父と仲直りした方が良いという考えでしょうか?」
「そりゃあ仲が悪いよか良い方がいいだろ?」
「それはそうですが・・・」
「リオーシスの半分が消滅したあの時な・・・俺はリオーシスに知り合いがいなかったからよかったが、メイドのテラさんはリオーシスに家族が居たんだ」
「はい、私もそう聞きました」
「詳しいことは知らないが、複雑な事情があるみたいでテラさんは家族の無事を確認しても会おうとはしなかったよ。でも無事を確認した時のテラさんは傍から見てわかるくらい安堵してた」
「・・・・」
「喧嘩別れしてようが、血の繋がった家族はそれでも家族なんだよ。イルミラだってイルレダスさんを『死んでもいい』とまでは思わないだろ?」
「それは・・・はい」
師匠は少し屈んで私と目線を合わせる
そして私の頭に「ぽんっ」と手を置いた
ここ数年で私も背が伸び、今ではリリアーナさんより背が高くなった
そのことでリリアーナさんに時々睨まれることもあるが、それは今は置いておこう
師匠の手は大きくて暖かく、もう子供じゃないと自分では思っているが
やはり師匠に頭を撫でられるのは嬉しい
「昔の俺だったら今のイルミラと同じで渋ってただろうな。でも今はな、人との繋がりがどれだけ大事なのかよくわかってるつもりだ」
「・・・・」
世界を股に掛ける師匠だからこそ言葉の重みが違う
「ま、正直な所俺もイルレダスさんのことあんまり好きじゃないんだけどさ」
「ぷっ、なんですかそれ」
「でもあのイルレダスさんがお前に声を掛けてくれって頼んできたんだ。向こうも何か思う所があるんだろう」
「師匠が挑発したからじゃないんですか?」
「それもあるかもな。でもきっかけをくれたのならそれに乗ってやればいいじゃないか」
「うぅ~・・・」
「んで実力を見せつけて『修行が足りませんね父様』くらい言ってやればいい」
「・・・わかりました」
師匠の言う事はいつだって正しい
きっと私の我儘を通すよりも師匠の言う通り動いた方が良い結果になるはず
これは考えを放棄している訳ではなく、3年間弟子として師匠を見て来た私の直感だ
「明日にでも一度、久しぶりに帰省してみることにします」
「ん。頑張れ」
師匠はいつだって私の道標になってくれる
そのおかげで私は道に迷わずに進んでいけるから




