親友の変化
-ウィルフレッド-
ボクの親友は凄い男だ
名前はルシオ
小さな頃から村中の大人達より強かったし、大人は皆ルシオを神童だとよんでいた
そんなルシオをボクも尊敬していたし、将来何か凄い事をやってのけるだろうと思っていた
そしたらなんと
ルシオはボクの知らないうちに世界を救ってしまっていた
ルシオは「俺は何もやってない」と謙遜するけど
何があったのかを話してくれた時、その場にいた全員が思っただろう
『例えルシオと同じ力を持っていたとしても、ルシオと同じことはできない』と
ルシオは不思議な力を持っている
正確には“持っていた”
その力を使ってルシオは小さな頃から色んな人を助けてきた
ローリスの村を救ってくれたり、マルクとアリスを凄腕の殺し屋から守ったり
リリーやサラさん、もちろんボクだって命を助けてもらったことがある
ボク達がわざわざ聞かないと話してくれないけど
きっと気付いていないだけで他にも沢山、知らないうちに助けられたこともあるだろう
でも多分、世界中の人達はルシオの話をしても信じてはくれないだろう
気付かないうちに世界は危機に瀕していたなんて聞かされても「何言ってんだ?」と笑われるだけに違いない
ルシオは公にするつもりはないと言うけど
ボクはそれが悔しい
ルシオは命を賭して戦ってくれたのに
ルシオだけが苦労して
気付いた時にはもう助けられていた
世界中の人達は助けられたことにも気付かない
何もできなかった自分の弱さが恨めしい
頼ってもらえない自分の弱さが恨めしい
もしボクにもルシオと同じくらい力があれば
ルシオがあんな風に変わってしまうこともなかったかもしれないのに・・・
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今日は定期的に行っている鍛錬の日
ルシオの家に皆が集まり、庭で各々鍛錬をしている
来たばかりのボクとリリーとセレナさんは最初の準備運動をしていて
その横でサラさんとエルダさんは既に組手をしている
少し離れた所ではルシオはイルミラちゃんに稽古を付けていた
ボク達がルシオの家に着いた時にはもうルシオ達は稽古を始めていて
少し遅れてボク達も参加することになった
「やっぱり慣れませんわね・・・」(ボソッ)
「そうですね・・・」(ボソッ)
セレナさんとリリーが準備運動をしながらルシオの方を見てひそひそ話をしている
ルシオはイルミラちゃんに魔法を教えているみたいだが
その表情はまるで人形のように無表情だ
ルシオは「別に体調が悪い訳でも不機嫌な訳でもないから気にするな」と言うけど
いつもの自信に満ちた笑顔は見る影もなく
事情を知ってるが故にルシオの顔を見るのが辛かった
ルシオはグラシエールという化け物を倒すためにあらゆる手段を試したらしい
騎士団の隊長達を全員集めて挑んだこともあったそうだ
でも結果はどれもが失敗に終わり、それぞれが信じられない程強い力を持つ騎士団の隊長達でさえ
グラシエールとの戦いには足手纏いだったらしい
そして人の心を読む力を持つグラシエールを相手に戦うために
ルシオは考えることをやめ、感情を犠牲にしたそうだ
結果的にはそれでもグラシエールを倒すことはできなかったそうだが
神様が何とかしてくれてグラシエールを倒す事が出来たらしい
結末についてはいまいち理解できていないのだけど
それでも戦いの中でルシオの精神が壊れてしまったのは事実なのだろう
ボクは今、ルシオの壊れてしまった感情を取り戻したい
またルシオには今までみたいに笑って欲しい
それが親友であるボクの役目だと思うから
「ルシオ!ちょっとボクの相手してよ」
「ん?・・・まあ、いいけど。イルミラ、ちょっと自主練しててくれ」
「わかりました、師匠」
ルシオがボクの方を向く
「相手しろって、何か試したい技でもあるのか?」
ルシオの表情は怒るでも笑うでもなく
表情筋を全く使わずに、少し眠そうな顔をしている
喋る声にも抑揚が無いので話していても少し寂しい
「グラシエールとの戦いでルシオは前よりずっと強くなってるんでしょ?」
「まあ少しは・・・いや、黒い魔力が使えなくなったから逆に弱くなってるな」
「え!?弱くなってるの?」
「黒い魔力を使えた時の強さの片鱗くらいはお前も知ってるだろ?」
「あのジオラさん達を圧倒した時の事?」
「ああ。あれだけの魔力はもう使えないからな。あの頃と比べると今の方が弱くなってるよ」
「う~ん・・・いや、そっちの方が都合がいいや。手も足も出ないとボクがへこんじゃうし」
「それで?何をするんだ?」
「シンプルに組手。ルールは~・・・周りに被害が出ない程度になら何でもありで、戦闘不能になるか『まいった』と言うまで」
「わかった。いつでもいいぞ」
こちらを向き「いつでもいいぞ」と言うルシオは棒立ちで隙だらけに見える
だというのに何処から攻めても全て防がれてしまいそうな錯覚を覚える
ボクも「本気で行くよ」なんて野暮なことはいちいち言わない
ボクはルシオと稽古するときはいつだって本気だ
そうでもしないといつまで経ってもルシオに追いつけない
当然のように今回だって本気でぶつかるつもりだ
「すぅ~・・・はぁ~・・・・・行くよ!」
まずはフェイントも入れずに真正面から正拳突き
ルシオはボクの拳が目の前に来るまで微動だにしなかった
(あれ?当たる?)
と一瞬思ったのも束の間
見えない程の速さでルシオの手が動き
ボクの拳はルシオの左手に掴まれてしまう
(う、動かない・・・)
ルシオに掴まれたボクの拳は押しても引いてもビクともしない
「だったら!」
手が駄目なら足で攻撃しようと
右のハイキックでルシオの顔を狙った
しかしボクが蹴りを繰り出すのとほとんど同時に
ルシオは掴んだボクの手を「クイッ」っと下に下げ、重心をずらされてしまった
「うっ」
急に重心をずらされることでボクの蹴りは目標からずれ
蹴りはルシオの肩あたりまでしか上がらなかった
さらに踏ん張りが効かずに蹴りには威力がのらず、ルシオは避けようともしない
ボクの蹴りはルシオの肩に命中したがダメージは全くなさそうだ
今度はルシオに掴まれたボクの手を上に引っ張り上げられ
無防備にさらされたボクの腹へとルシオの右手が伸びた
「うわっ!」
おそらく風魔法だと思う衝撃がお腹全体に広がり
ボクは後方へと激しく吹き飛ばされた
踏ん張ることでなんとか転倒は免れたけど
ボクの攻撃は何一つ通用しなかった
ルシオは元居た場所を一歩も動いていない
「む~・・・ルシオからも攻めて来てよ」
「ん?う~ん・・・大丈夫かな?」(ボソッ)
ボクが「ルシオからも攻めてよ」と言うと
ルシオは自分の手を見ながら何かブツブツ言っていた
「このくらいかな?・・・・・じゃあ行くぞ?」
(どう来る?集中しろ)
ルシオの動きを見逃さないように全身を集中させる
次の瞬間ルシオの体がぼやっとブレたように見えた
「あ・・悪い、まいった、俺の負けだ」
「・・・・」
気付くとルシオはボクの目の前に居た
そして負けを宣言した
(全く見えなかった・・・)
ボクもこの数年で結構強くなったつもりだったけど
それでもルシオはそれ以上の速度で強くなる
小さな頃からずっと一緒に居たのに
いつもいつもボクの予想を遥かに超えてくる
「って、え?ルシオの負けってどういうこと?」
「魔力切れだ・・・ちょっと休ませてくれ」
「・・・・・ええっ!?」
ボクも普段以上に強化魔法を掛けていたので消耗は早かったけど、まだまだ魔力は残っている
だというのに圧倒していたルシオの方が先に魔力切れを起こしたと言う
「加減が難しいな・・・」
「もしかして、手加減して今の速さなの?」
「ん?ああ、かなり魔力を抑えたつもりだったんだけど」
「・・・・今ので?」
一体グラシエールとの戦いはどれだけ激しい戦いだったのだろう
「自分の魔力を使う感覚に早く慣れないと・・・稽古でウィルのこと殺しちゃうかもしれないな」
「ええ・・・」
「冗談だ」
ほとんど無表情で言うので冗談に聞こえない
「親友に殺されるのは流石に嫌だから早く慣れてよね」
「わかってるよ」
魔力切れでダルそうにしながらルシオは近くに腰を下ろした
(ボクにできることなんか何もないのかな・・・)
「はぁ・・・」
「・・・ウィル、別に気ぃ使わなくてもいいんだぞ?」
「・・・・わかっちゃった?」
「お前の考えてることくらいわかるさ」
「そっか」
「前に言っただろ?感情表現の仕方も、力の使い方も、リハビリが必要なだけだって」
「うん・・・」
「もうやり直す事ができないからちょっと時間はかかるかもしれないけどな」
「その頃にはボク達の方が今のルシオに慣れちゃってるかもね」
「それならそれでいいんだけど」
「良くないよ。やっぱり前のルシオの方が良いな」
「そうか?なら頑張るよ」
「うん」
「頑張るよ」と言ったルシオの表情は
少しだけ口角が上がって、笑っているように見えた
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ルシオがグラシエールを倒して世界を救ってから早二ヵ月が過ぎた
「ほらマオ、ウィルが遊びに来てくれたぞ」
「あ~う」
「・・・・」
「おい、マオが手振ってんだから何とか言えよ」
「・・・・うん、今日も可愛いねマオ」
「いつだって可愛いよな~?マオは」
「あ~い」
ルシオの家に遊びに行くと、ルシオは赤ん坊を抱きながら出迎えてくれた
一月前に生まれたルシオとマヤさんの子供
男の子で名前は『マオ』
「おた~あん」
「聞いたかウィル!?今『お父さん』って言わなかったか!?」
「あ~、うん・・・言った言った」
「一ヵ月で言葉覚えるとか天才じゃないか!?」
「そうだね~・・・」
「天才だなマオ!」
「きゃっきゃっ」
抱っこしているマオに頬を擦り付けるルシオは
つい一月前までは考えられなかった程に満面の笑みを浮かべている
「・・・・子供の力って凄いなぁ」
「あ?どうしたウィル?」
「なんでもない」
マオが居る時のルシオはすっかり以前のルシオに戻っていた
マオが居ない時はまだ少しだけ感情の起伏が弱いけど
そんなルシオを見てセレナさんやリリーは「これはこれであり」と言っている
セレナさん曰く「クールなルシオ様も堪らない」だそうだ
戦闘面でも加減を覚えたのか、魔力切れになるようなことは減って来た
きっとボクの知らないところでも努力しているのだろう
見慣れた笑顔を見たくて
ボク達があれこれとルシオを楽しませようと頑張ってもなかなかできなかったことを
産まれたばかりのマオはあっという間に成し遂げてしまった
確かにマオは凄く可愛い
ボクがそう思うのだから実の父親であるルシオはもっとそう感じるのだろう
(ちょっとだけ悔しいけど・・・)
出来ることなら今までの恩返しという意味も籠めて
親友であるボクがその役目を果たしたかった
それでもやっぱり・・・
「生まれてきてくれてありがとうマオ」
「なっ!ウィルもそう思うよな?」
「うん」
「存在自体が奇跡だよな!」
「大袈裟だって」
「いやマジで!マオの顔見るだけで仕事の疲れなんて吹っ飛ぶもん。まぁ大して仕事も疲れないけど」
「真面目に働いてよ?」
「ちゃんとやってるって。情けない父親になんてなりたくないからな」
「だ~」
以前と同じように笑うルシオを取り戻してくれたマオには感謝している
「やっぱり凄いなルシオは」
「ん?何が?」
「色々とだよ」
「・・・?」
キョトンとするルシオを見て可笑しくなってしまった
「マオもきっと凄い子になるんだろうな~」
「10歳までにウィルを負かせるくらいにしたいな」
「それはマジで勘弁して・・・」
皆を救い、世界を救い
小さな命に救われたルシオ
「うかうかしてられないや」
「あ!そうだウィル。お前も騎士団入れよ。俺が推薦しておくからさ」
「え!?」
「もうじきマホンさんが引退するらしいんだけどな?その際俺を隊長に推薦してくれるんだって」
「凄いじゃん!超スピード出世だよ」
「おう。だからウィルお前も入れ。んで副隊長やってくれよ」
「ええ!?」
「お前の実力なら副隊長くらい簡単になれるはずだからさ」
「・・・まさか~」
「いや今のお前なら間違いなくエリオニックさんより強いぞ?」
「エリオニックさんって参番隊の副隊長だよね?・・・・そうかな?」
黒竜と戦った時には足を引っ張ってしまった記憶しかないのだけど
「まぁ『どうしても嫌だ』っていうなら無理にとは言わないけどさ。実力に自信が無いだけなら一回挑戦してみてくれよ」
「う~ん・・・」
「ウィルが隣に居る方が安心できるしな」
「・・・え?」
ルシオの言葉に驚いてしまった
「それに俺の隊の副隊長になったら一緒に派遣で色んな所に行けるぞ?」
「あ~・・・」
「元々は一緒に冒険者になろうって言ってたんだし、一石二鳥だろ?」
「・・・うん」
「どうした?」
何にもしてあげられていないと思っていたけど
ボクでもルシオの力になれているのだろうか?
時々『ルシオはボクなんて必要としていないんじゃないか』って不安になることもある
ルシオはいつだって一人で何でもできちゃう奴だから
でも
「ボクももっと頑張ってみようかな」
「あん?稽古の時とか手抜いてたのか?」
「違うよ!」
「騎士団になったら俺がビシバシしごいてやるからな!覚悟しとけよ」
「今までと変わんないじゃん!」
「隊長が自分の部下をしごくのは当たり前だろ?」
「っていうかもうボクも入る事決定みたいな言い方だし」
「ウィルに入る気があるのなら入れるって」
「・・・・わかったよ」
「よし!決まりだな。入団試験の日取りが決まったら伝えるよ」
「は~い」
照れ臭いからちょっと面倒くさそうにしてしまったが
内心ワクワクしている自分がいる
友達で、それでいて一番尊敬する人物でもあるルシオ
ボクはこれからもそんな親友と一緒に歩いていきたい




