エピローグ
「ん・・・」
目が醒めると見慣れた寝室の景色が目に入った
「ふあぁ・・・」
日の高さから既に昼頃だろうか
かなり寝たが、それでもまだ寝足りないのか横になるとすぐ二度寝できそうだ
「あ!起きた?ルシオ」
二度寝しようか迷っているとマヤが寝室に入って来た
「おはよう、マヤ」
「あ~良かった。もう起きないんじゃないかと思った」
「・・・?。俺どのくらい寝てた?」
「一日半?昨日は一度も目を覚まさなかったんだから」
「・・・・そう」
一晩寝て少し寝坊しただけかと思ったが
どうやら丸一日を超えるかなりの長時間寝続けていたらしい
「大丈夫?起きられる?」
「うん」
(・・・・・起きるか)
「皆は?」
「えっと・・・マルクとアリス以外は家に居るわよ。二人は学園に行ってる」
「俺が眠った後何か変わった事はあった?」
「変わった事?騎士がルシオに話を聞きたいって訪ねて来たけど追い返したくらいかしら・・・」
「そっか」
(自分の目で世界を見て回る方が早いかな)
本当にグラシエールが死んだのならリオーシス以外に被害は出ていないはずだ
だがやはり今でも本当にグラシエールが死んだという事実をどこか受け入れられない自分がいる
(あ、そうだ)
手軽に確かめる方法が一つあるので試してみた
強化魔法を使い黒い魔力を引き出そうとしてみた
「う・・・」
「大丈夫!?」
しかし今までのように引き出そうとしても、これっぽっちも黒い魔力は引き出せない
一瞬で魔力切れになり全身を気だるさが襲う
だるさに抗う気にもなれずそのままベッドに横になった
「ははっ・・・」
「ルシオ!?」
「大丈夫。ただの魔力切れ」
「魔力切れ?今起きたばっかでしょ!?」
「・・・・ごめん、二度寝する」
「え?ちょっと、ルシオ!?」
左手の小指に嵌めたリアンの指輪はそのままだ
今はリアンの指輪が俺に周囲の魔力を供給してくれている
黒い魔力を引き出せないということは
少なくともグラシエールが俺にかけた『命魂の友引』は解除されているということ
その事実に安心すると魔力切れのダルさと睡魔の両方に襲われ
そのまま眠りについた
グラシエールとの戦いで散々味わってきた魔力切れの感覚
それが今は心地よく感じられた
____
__
_
「ん・・・」
「あ、おはようございます旦那様」
「・・・・おはようシシル」
再び目を覚ました頃にはすっかり外は暗くなっていた
ベッドの横にはシシルが座っている
「もう夜か・・・」
「ええ、結局丸二日も眠っていましたよ」
「正直まだ寝足りないけどな・・・」
なんせ数年間分も寝ていないんだ
丸二日寝たところでまだまだ寝足りない
「そろそろ起きてください旦那様。でないと今度はサラさんが倒れてしまいます」
「サラが?」
そう言い寝室の扉を指さすシシル
気になって扉を開けてみるとそこにはサラが立っていた
「何やってんの?サラ」
「おはようございますルシオ様。もちろん主の護衛ですが?」
「・・・・・まさか俺が寝てる間ずっとそこで立ってたのか?」
「はい」
「・・・・馬鹿じゃねえの?」
「馬鹿で結構です」
「ふっ・・・眠くないか?」
「二日の徹夜程度どうという事はありません」
サラは目の下に隈を作りながらそんなことを言う
「疲れてないか?」
「このくらいルシオ様に比べればどうという事はありません」
シシルの方を見るとシシルも苦笑いしている
「起きるよ、だからサラももう休め」
「いえ、私にお構いなく。今回の件の説明を皆様に」
「それは明日の朝だ。今日はもう休め」
「それではルシオ様もお休みください。護衛は私が・・」
「俺はもう十分寝たから平気だ。あんまり頑固だと無理矢理眠らすぞ」
「・・・・」
相手の意識を失わせ無理矢理眠らせる魔法もある
王都の書庫を漁った時にそんな魔法も習得していたので
サラを無理矢理眠らせるくらい簡単なことだ
「承知しました」
「おう、明日の朝な」
「はい」
「シシルももう休みな」
「はい、それでは失礼いたします旦那様」
サラとシシルはそれぞれの部屋へと入って行った
(マヤは何処だ?)
寝室にマヤの姿が無いので一階へと足を運ぶと
食堂でテラ達と話をしているマヤを見つけた
「あ、起きた?ルシオ」
「おはよう、ってもう夜だけど」
「随分眠ってたわね」
「まだ寝足りないけど、起きないとサラが倒れちゃうから」
「ああ・・・」
サラが徹夜で寝室の警護をしているのを知っているからかマヤ達も苦笑いしていた
「明日の朝、皆が起きたら今回起こった事を説明するよ」
「うん。それはいいんだけど・・・もう大丈夫なの?」
「多分な。一応夜のうちに確認しておくつもりだけど」
「そうじゃなくて、ルシオのこと」
「俺の?」
「やっぱり雰囲気が全然違うから・・・」
「ああ・・・そんなに違うかな?」
「うん」
「それについても明日話すよ」
マヤだけでなくテラ達メイドも心配そうに俺を見ている
その様子は今までと違い何処かよそよそしい
事情を知らないテラ達には俺が不機嫌だとでも思われてるのだろうか?
「テラ、明日の朝ウィル達も呼んで説明するから準備を頼む」
「畏まりました」
「メリアムは何か言ってたか?」
「『目が覚めたらすぐに来い』と仰っておりました」
(・・・・・明日でいいか)
夜でもメリアムは城に居るだろうから今すぐ向かっても問題はないだろうが
それよりも先に世界の状況を自分の目で確かめておきたい
「俺はちょっと外に出てくる。朝まで帰らないと思うから皆好きに休んでてくれ」
「「「はい」」」
「お城に行くの?」
「・・・まあそんなところだ」
「嘘でしょ?」
「・・・わかるか?」
「なんとなく。手伝えることは?」
「ない」
「ん。わかった。いってらっしゃい」
もう無表情の俺に慣れたのか
それとも無表情の中にある些細な変化に気付けるのか
マヤの俺に対する態度はいつも通りで
それがとても嬉しかった
____
__
_
アヴァングラースとタナトスの国々を全て見て回ったが
リオーシス以外に被害が出ている国は無かった
グラシエールの居た塔にも足を運んだが
そこにあったのは燃えカスだけだった
あの出来事は本当に夢ではなく現実だったみたいだ
『って事があってさ、もうグラシエールは死んだよ』
『・・・・・』
世界を飛び回った後グラシエールの居た塔へ向かい
最後にそのままビルの元へとやってきた
そしてありのままを包み隠さず全て話した
『本当に?』
『千年以上生きてる竜でも信じられないか?』
『そこは関係ないよ、僕にだって知らないことは沢山あるさ』
ビルは俺の話すことを疑う様子も無く素直に聞いてくれた
なんとなくそんな気がしたからビルには全て話したのだが
『でもそうか・・・リアンとイアンの言っていた意味がようやく理解できたよ』
『リアンとイアンが?何て言ってたんだ?』
『一度だけ「グラシエールはこの世界の人間じゃない」って話してくれたことがあったんだ。僕にはその意味が分からなくてすっかり忘れていたんだけど』
『輪廻転生とでも言えばいいのかな?俺もこの世界でルシオとして生まれる前の記憶があるんだ』
『不思議な事もあるものだね』
『そうだな』
『それで?君一人であの化け物を倒しちゃったわけだ』
『まさか。俺一人じゃグラシエールに傷一つつけることもできなかったよ』
『死神か、僕も死んだら会うのかな?』
『竜でも会うのかな?その辺は俺も分からないけど』
『奴の最後はどんなだった?』
『グラシエールも力を失えばただの老い耄れだったよ。俺が止めを刺さなくてもすぐに死んだだろうな』
『そっか・・・世界の半分を犠牲にしなければならなかった程の化け物も最後はあっけないものだね』
『最後だけはな・・・もう二度と御免だ』
『ってことは今は君が世界最強って事になるのかな?』
『・・・・・どうだろうな、グラシエールを知ってるからどんな奴が出て来ても驚かないだろうけど』
『君も神の力は失っちゃったのかい?』
『そうだよ。晴れて俺も普通の人間だ』
『どんな感じ?』
『・・・・不安だな』
『不安か~。それは何に対しての?』
『先が見えないことがこんなに怖いことだって改めて実感した』
『それが普通なんだよ』
『勿論わかってるさ。でも今までは失敗してもやり直せたからな。そんな当たり前のことが怖くてしょうがないんだよ』
『贅沢な悩みだね』
『言っとくけどな~、ビルにグラシエールの居場所話したら後先考えず突っ込んで返り討ちにあった事もあったんだからな!』
『・・・・まさか』
『平気そうな顔して、俺が居なくなったら一目散にグラシエールの所に向かいやがって・・・だからお前には事後報告にしたんだよ。お前の失敗の尻ぬぐいだってやってたんだからな俺は!』
『それは~・・・うん、そうなりそうな気もする・・・ありがとう』
『もう無理だからな。命は大事にしてくれよ』
『千年以上生きてる僕に言う?』
『千年以上生きてたグラシエールが最後に命乞いしたけど?』
『僕は別にこの世に未練なんか無いよ』
『そんなの、死ぬその瞬間までわからないもんさ』
『・・・それもそうかもしれないね』
人間普通に生きていても病気や事故でいつその命を落とすか分からない
死に方を選べる人間なんて極少数だろう
『あ~・・・帰ったら皆にも説明しなくちゃいけないのか・・・』
『がんばれ~』
『他人事だと思って・・・』
グラシエールという存在に、俺のオプションの力や死神のこと
はたしてどのくらいの人が信じてくれるだろうか?
何も素直に全てを話す必要はないのだが
身近な大切な人には正直に話しておきたい
信じてくれなかったとしてもどうせ俺にはもうオプションは使えない
だから信じようが信じまいが大差は無いのだが
信じてもらえなかった場合、俺は法螺吹きという汚名を着なければならない
今までならそれを、やり直した後
信じてくれた人にだけ話して、信じてくれなかった人には話さないという手段がとれたものを
今の俺にはもう無理だ
『でもそれが普通なんだよな』
死神に振り回されるのもこれで終わりだと願いたい
『それじゃ帰るよ』
『うん』
『またな』
俺の別れの言葉に対し機嫌良さそうに尻尾を揺らすビル
外に出るとすっかり外は明るくなっていた
「さて・・と」
これからはこの世界で改めてもう一度
普通の人生をやり直そう
「帰りますか」
俺の人生はまだまだ途中だ
本当の死を迎えるその時まで
精々精一杯生きることにしよう
メインストーリーに関してはこれにて終了となります
アフターストーリーをいくつか書く予定なのでもう少しだけ更新は続きます




