278 一人で・・・
世界最強といわれる騎士団の隊長達
このメンバーが揃ったら流石のグラシエールも少しは苦戦するだろうと淡い期待を持っていたが
早々にザルトイが殺され、ジオラとアルスパーダは負傷したうえかなり遠くまで吹き飛ばされてしまった
(騎士団最強のアルスパーダがあんなにあっさりやられるか・・・いや、それも想定内だ)
黒い魔力を使えば俺でも同じことができる
だからアルスパーダがグラシエールに敵わないのは予想通りの結果だった
『おや?先ほどのどちらかが一番強い者だったのかな?』
『お前にとっては羽虫と変わらないみたいだけどな・・・』
『言ったろう?脅威となるのは君だけだと』
『・・・・』
(これだけの戦力を揃えておいて、結局誰にも頼れないっていうのか?)
やはり自分一人で戦うか、と考え
更に黒い魔力を引きずり出し強化魔法を強くした
「ルシオや」
「何ですか?マホンさん」
「儂等の事は気にせんでいい、巻き込まれても文句は言わんから。全力でやるがよい」
「・・・・」
「儂等に遠慮せず思い切りやりなさい」
戦闘に巻き込むのが怖いのなら最初から一人で来ている
マホン達を連れてきたのは戦力を期待してではない
『ふっ、笑わせる。お前達を巻き込むことを気にしているのではなくてお前達の不甲斐なさに失望しているだけだというのにね』
『適当なこと言ってんじゃねえよ。ってかやっぱり俺以外の奴の心も読んでるんじゃねえか』
グラシエールの言う事は半分事実だ
最強と謳われる騎士団の隊長達ですらこうも歯が立たないかと、正直不甲斐なさも感じていた
だがグラシエールを相手にすれば誰だってこうなるだろう
現に俺だってグラシエールの持つ膨大な魔力を使えるというのに触れる事すらできていない
だから『失望した』という程最初から期待はしていなかった
何か小さな変化でもいい
何か新しい情報を得たかった
だから塔を覆う結界がグラシエールの作った物だという事が知れただけでも皆を連れて来た意味がある
「せっかくルシオが儂等を頼ってくれたとゆうのに、悔しいが儂の刃はあ奴には届かぬじゃろう。ならばせめて、ルシオの邪魔にだけはなりとうない」
「・・・・マホンさん」
「すまんのうルシオ。情けない隊長を許しておくれ」
「情けないなんて思ってません。今まで一度も。出会ってからずっと俺はマホンさんのことを尊敬してきました」
「そりゃ嬉しいのう。本当はルシオの役に立ちたかったんじゃが・・・あれが相手では捨て駒になることもできんじゃろう」
「はい、奴は人の心を読めます。だから下手に『囮になろう』とか思わないで下さいね」
「そうじゃろうな・・・無駄死にするつもりはないから安心せい」
「はい」
「じゃが戦闘の足手纏いになると判断したら躊躇なく切り捨てよ」
「・・・・・・・はい」
「うむ」
足手纏いなら見捨てろと言われ、それに肯定したというのに
マホンは俺に対し笑顔を見せる
マホンは本当に戦闘の邪魔になるくらいなら死を選ぶ覚悟ができているのだろう
(だからこそ死なせたくないんだけどな・・・)
直属の隊長であるマホンにそこまで言わせておいて出し惜しみしている場合ではない
マホンの言葉に甘えよう
どうせ今回もやり直すことになる
更に引きずり出せるだけ黒い魔力を引きずり出し全身を強化した
「皆さん好きに動いてください。巻き込まれて死ぬのが嫌なら逃げても構いません」
「あいよ、邪魔はせんように頑張ってみるわい」
「心配しなくても大丈夫です。邪魔になるとかそういう次元の戦いじゃなくなると思いますから」
「「「・・・・」」」
俺の言葉に隊長達は何も言わない
だが実際、隊長達が俺とグラシエールの戦闘の余波に巻き込まれることはあっても
俺とグラシエールの戦闘に割って入られたところで誤爆してしまうような事はないだろう
漫画のように攻撃の間に割り込まれ誤って死なせてしまうようなこと、レベルが違い過ぎて起こるとは思えない
マホン達の攻撃が割り込んできても遅すぎるから躱すのは余裕だろう
「・・・・・あと何回、こうやってお前と対峙することになるのかな?」(ボソッ)
「ん?なんじゃ?ルシオ」
『君にとっては無限でも、私にとっては初めてだ』
『・・・・』
『嫌ならば諦めて楽になればいい』
『・・・・』
『そうだな・・・君と君の大事な人間数人くらいなら見逃してやってもいい』
『・・・・それは魅力的な提案だけど、その提案に乗れるほどお前の事を信用してないんだよ』
『それは残念だ』
確かに俺の大事に思っている人が助かるのならグラシエールの提案に乗ってもいい
世界中の名前も顔も知らない他人の為にまで辛い思いをしようとまでは思わないから
だがグラシエールの事だ
一時的に生かしていてくれても、世界への復讐が終わったら全員あっさり殺されてもおかしくはない
やっぱりやり直しがきくうちに、元凶であるグラシエールを排除する以外の道は無い
「行きます!」
隊長達へ声を掛けると同時にグラシエールへと突っ込んだ
瞬間移動かと思う程の速さでグラシエールとの距離が縮まる
右拳を突き出しながら魔法障壁を警戒していた
予想通り結界があったので拳の衝突と同時にレジストし、左拳で殴りかかる
『本当に君には驚かされる。もうそこまで引き出せるのか』
左拳は空を切り、グラシエールの声は後方から聞こえた
斜め上を向いている俺の背後という事は地上、それも隊長達の傍という事だ
後ろを振り向くことなく声のする大体の位置に瞬間移動し、グラシエールへ追撃しようとした
グラシエールに攻撃を避けられるのも想定内
避けると同時に隊長達の誰かを狙うのも想定内
少しだけ予想外だったのは俺がこれだけ強化魔法を施していても更に速さで上を行かれること
「ちっ・・・」
転移した先で見たものは
さっきまで居たはずのクレルティアが居なくなっていることと
クレルティアが居たはずの場所にグラシエールが居ること
「クレルティアさんは!?」
「「「・・・・」」」
この場に残った隊長はクラウス、マホン、マルヴェール、ブラマンシュの四人だ
だが四人共が何が起こったのか分かっていないようで、クレルティアが居なくなったことに気付いたのも俺より後だった
クレルティアは俺の張った魔法障壁の中から出ていないはず
という事はほんの一瞬でグラシエールは俺の魔法障壁を破壊しクレルティアをどうにかしてしまったということ
『さて問題だ。あの女性は何処に消えたかわかるかな?』
『知るか!』
隊長達には『自分の身は自分で守れ』と事前に言ってある
そしてそれを全員が承諾している
できればクレルティアには生きていてもらい、グラシエールを見ていてもらいたかった
そうすれば何かわかることもあるかもしれないと
だが死んでしまったなら守れなかったことを後悔しても仕方ない
『薄情だな。「どうせやり直せる」・・・か?』
『そうだよ!』
先程と同じようにグラシエールに殴りかかる
グラシエールは不敵な笑みを浮かべたまま避けようともしない
(魔法障壁があればまたレジストすればいいだけだ)
同じように右拳をグラシエールへ突き伸ばす
だが右拳に伝わって来た感触は先ほどの物とは違った
「なっ!?」
『おやおや』
俺の右拳はグラシエールの魔法障壁に阻まれグラシエールへ届くことはなかった
それはいい、予想通りだ
だが問題は俺の右拳と魔法障壁の間にある物
正確には俺の拳とグラシエールの魔法障壁の間で潰れてしまった者
『まだ死んではいなかったのだがね』
『くっ・・・』
『君が殺した』
さっきまで居なかったクレルティアが
いつの間にか俺とグラシエールの間に居て
その美しい顔を俺の拳が跡形もなく潰していた
グラシエールが浮かしているのかクレルティアは力なく手足をだらりと垂らして動かない
当たり前だ
黒い魔力で強化魔法を施した俺のパンチと、それをも防いでしまう程強固なグラシエールの魔法障壁
その二つに挟まれた人間が無事で済むはずはない
何で?いつの間に?幻覚?リアンの指輪は?幻覚じゃない?
幻覚魔法ならリアンの指輪が防いでくれる
それに右手に伝わる感触は生々しく、真っ赤に染まった右拳は生暖かい
『君も使えるだろう?』
『何を・・・』
『これだよ』
『うっ・・・』
グラシエールが「これ」と言った瞬間、目を開けていられない程の眩い光に包まれた
目も強化魔法で強化しているからこそ強い光が余計に眩しい
『光の性質に気付いたのは何百年前だったか・・・流石に私も光の速度にはついていけなくてね。それは君もだろう?眩しいと思った瞬間にはもう手遅れ、光魔法というのはとても便利だ』
『く・・そ・・・』
(光魔法でああも綺麗に姿を消したってことか?)
俺もある程度は光魔法で人の見える物を操作できる
だが光魔法での迷彩はもの凄く繊細な魔力の操作が必要となり、俺では空間が少し歪んで見えてしまう
しかし俺の目にはそんなもの全く見えなかった
気絶しそうな程の強い閃光で視界を殺され目を開けられない
(何処からくる?)
視界の確保は諦めて魔力を探り、目を瞑ったままグラシエールの動きを警戒した
だが一向にグラシエールは動かない
『心配するな。君に危害を加えたりしないさ』
言葉の通りグラシエールは動かない
だが残った四人の隊長達の魔力が消えた
『マホンさん達に何をした!?』
『心配しなくても大丈夫だ。まだ生きているよ。“まだ”ね』
『・・・・』
ようやく目が見えるようになると
さっきまで居たはずのマホン達の姿は無くなっていた
「マホンさん!クラウスさん!どこですか!?」
俺の問いかけに返事はない
『心配しなくてもまだ生きているさ、そして・・・君の近くに居るよ?』
『・・・・』
目を凝らして見ても空間の歪みは無い
グラシエールに気絶でもさせられたのかマホン達の魔力も感じない
つまり何処にいるのかがわからない
下手に攻撃してしまうと盾にされ、俺の攻撃で殺しかねない
『はて?邪魔になるようなことは無いのではなかったのかな?』
『てめぇ・・・』
『邪魔なら切り捨てるのではなかったのかな?』
『・・・・』
『君は本当に優しいね。いや・・・甘いのかな?』
やはり一人の方が良い
誰かが居ても邪魔になるだけだ
誰かの力を借りる事なんてできない
『おや、諦めるのかい?』
『・・・・ああ』
『そうか、次は一人で来るのかい?それとも軍隊を引き連れてかな?』
『・・・うるせえよ』
『やり直したとしても、君が仲間を殺した事実は消えないがね』
『・・・・』
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Loadしますか?
►はい/いいえ
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「どうしたの?ルシオ」
「・・・・なんでもない」
グラシエールの言うように
やり直したはずなのに
右手の感触とクレルティアの亡骸を鮮明に脳が覚えていた




