第3章 その14 策謀・2
「わしの腕前を餌にするのは感心せんぞ」
前夜、ゴブリン討伐に参加している冒険者の得物を調べるのに鍛冶師としての力を借りたいと頼まれた時、ファーレンは鼻白んでそう答えた。
だが、借り受けたエルフの里に在る鍛冶場に立てば久しぶりに槌を振るう事に心踊らぬ筈がない。
先ずは腕試しにとエルフ側から依頼されたのは『剣鉈』と呼ばれる得物であった。
名前が示す通り道具としての『鉈』ではあるのだが先端が尖っており剣のような形状をしている。
武器にも道具にもなる、一種の万能刃物ではあるが何を用途の主目的に据えるかで細部の造りに差異が出る。
「コイツは誰が使う。誰かの専用か?それとも共有で使うのか?」
見本として示された剣鉈を一瞥したファーレンはそれを持ってきたエルフ、リーファンと名乗った長老の護衛役である男に問いただした。
「その剣鉈は共用の品だが、今回は私の専用としてもらおう」
尊大な態度でリーファンは言い放つ。
「軽く振ってみろ」
ファーレンもドワーフらしくぶっきらぼうに言い放つ。
「用途は伐採が主目的でいいか?」
二、三度振り回した様子を観察すると、今度は使い方の注文を確認する。
「いや。狩猟の解体にも使える様にしたい」
「分かった。少しだけ利き手を見せてみろ」
ファーレンは右手を出させて大きさや形を観察する。
「今日を入れて三日で仕上げる。四日後の朝に取りに来い」
そう言い置くと、ファーレンは早速用意された素材の吟味に取り掛かった。
二人のやり取りを黙って見届けていたレオンは、後は邪魔になるとばかりにリーファンと共に鍛冶場を後にする。
「あの爺は頑固者だが、それなりに腕が立つ。要求が有れば出来るだけ受け入れてくれ」
レオンは鍛冶場での微妙な空気を取り繕う様に先を歩くエルフの男に話しかけた。
「三日で仕上げると言うが、そんなに早く出来るものなのか?」
振り返りつつ、リーファンが疑問を呈する。
「丁寧に作るからな。早造りするなら一昼夜で刀身は打ち終わるが、当人はロクな仕上がりにしか成らないとそういった事はしたがらない」
レオンは今まで見てきたファーレンの鍛冶仕事を思い出しながら返答をする。
「今回は特別な素材を使うでもないし、大業物に仕上げるつもりも無いようですから。三日というのは妥当な処でしょう」
大業物の一振りの剣に十日を掛けたのに比べれば、柄も含めて前腕程の長さの剣鉈なら十分な時間だろう。
「ドワーフの鍛冶師は鉄を打つ際の力強さと器用さを兼ね備えていますからね。人種の自分から見ても驚くほどの早さで仕上げてくれますよ」
鍛冶仕事ならばファーレンに任せておけば間違いないと、レオンは太鼓判を押してみせた。




