第3章 その10 エルフの里・5
「何にか考えがあるようじゃな」
こちらを値踏む様な視線で長老はレオンに訊ねた。
「状況が状況ですからね」
レオンは肩を竦めた。
「まず第一に、ゴブリンを撃退で期待できなければあなた達は『ユーゴの森』を捨てることになる。そうなってしまえば、この地域全体の安定が失われる。それだけは絶対に避けなければならない」
レオンは理路整然と順序立てて説明をはじめた。
「第二に、ギルドを含めた冒険者達とエルフ族との関係に亀裂が入るのを防ぎたい。今回の討伐依頼に失敗すれば冒険者ギルドは面子を失い、ひいてはモルドールを中心とした経済活動に大きな痛手が生まれてしまう」
「随分と大風呂敷を広げる」
長老はまたしても片方だけ口角を吊り上げてみせた。
「第三に、今回の依頼を妨害するような輩が冒険者にいたとすれば、それはエルフ族が森の外の種族を一切信用しなくなる危機的な状況が生まれる。そうなってしまえば、エルフ族と他種族の全面的な争いの火種が生まれる。これに関しては、冒険者ギルドの責任においてそういった輩は『排除』しなければならない」
長老は微かに眉を動かしたが、真剣に話を聞き入っていないマリーはその評定の変化に気がつけなかった。
「それに、俺は元々が商家の出身でね。他人様の財を掠め取ろうなんて考える輩がダイッキライなんだ。其奴らを排除する必要があるなら、俺は喜んで手を貸すね」
「そうか。盗人の類は大嫌いか」
長老は初めて好意的な笑みをニタリと浮かべた。
「ですが今は、冒険者の中に依頼を妨害する輩がいるというのは『状況から推測される要因の一つ』に過ぎない。証拠を集め、対象が特定されるまでは絶対にこの件は外部に漏らすわけにはいかない。漏れれば即、冒険者側との戦争になりかねないからです」
「儂らエルフ側にも大きな傷跡を残すか」
ざわつく他の里長達を尻目に、長老は暫し目を閉じて思案してみせた。
「具体的にはどうする」
「まだ何も。ただし、必要な『小道具』は用意してます」
レオンは荷袋の中から羊皮紙を取り出して広げて見せた。
「これは冒険者ギルドが発行する『正式な契約書』の用紙です。これは、ギルド長を説き伏せて貰って来た一種の『白紙委任状』ですね」
羊皮紙にはモルドール冒険者ギルドの印章が押され、ギルド長の直筆サインのみが書かれていた。
「これが有れば、現在のゴブリン討伐の契約内容を変更可能ですし、排除すべき冒険者パーティーを解約することもできます」
「随分と手が込んでおるな」
この手際の良さには流石の長老も呆れ返った様だ。
「此処からモルドールまでは距離が有り過ぎます。即断即決が求められる事態に陥っていた場合、果断に力を振るう根拠が必要になりますからね」
レオンは、エルフの里に着いてから何度目なかも分からないまま肩を竦めた。
「今のところ、状況は悪いですが膠着していて策を練る時間は取れるでしょう。他の冒険者に悟られる事無く妨害者特定し、一纏めに取り除ける手段を一緒に考えていきませんか?」




