第3章 その9 エルフの里・4
予想に違わずと言うべきか、ドワーフ連れのレオン達にエルフ達はあからさまな嫌悪の視線を向けてきた。
冒険者パーティー『獅子の心臓』の先導によってエルフの里にたどり着いたレオン達だったが、里の入口で入れる入れないで一悶着が起こった。
レオンにとっては織り込み済みの事態だが、これはボッシュの仲裁で事なきを得た。入口を守っていたエルフの一人が先触れとして走るのを見守りつつ、ゆっくりと歩いて里の中心にある広場に向かった。
「あぁー、仁義の無い連中で済まないな」
ボッシュは頭を掻きつつ独り言ちた。
「エルフがドワーフの村に現れたら、同じ反応をするわいさ」
肩を竦めつつファーレンが応じた。
「どうしようもなく相性の悪い組み合わせは何処の世界でも在るさ」
だから気にするな、という気軽さでレオンはボッシュに言葉を掛けた。
待つまでもなく、里の広場には高齢と見える幾人かと、それに倍するその護衛らしき屈強そうなエルフの集団が並んでいた。
「モルドールの冒険者ギルドが新しく送ってきた人員か?」
護衛の中でもエルフにしては逞しい身体つきの、壮年と見える人物が誰何してきた。
「そうだ。ただし、討伐要員としてではない。うちのパーティーには治療のできる『武装僧侶』がいるから、他のパーティーの回復要員として派遣されてきた」
レオンは背負った荷物を地面に下ろし、封蝋付きの丸められた羊皮紙を取り出して示してみせた。
「それは後で検めさせてもらおう」
壮年の男は鷹揚に頷いてみせた。
「早速だが、今この里にいる冒険者の治療と診察を始めたい。詳しい話は、俺とこっちのマリーで進めたいが?」
親指で女剣士であるマリーゴールドを指し示した。
男は指導者らしき高齢の男性と小声でひとしきり会話をした後、そちらの提案を受け入れると宣言した。
「治療には、こっちの武装僧侶のバランに鍛冶師のファーレンを帯同させる。あと、案内役に『獅子の心臓』の人員も借りたい」
「分かった、こちらからも人員を付ける。貴様と、その娘は長老達に付いて来い」
レオン達は二手に分かれ、エルフの里での行動を開始した。
レオンとマリーは里の広場から奥に進んだ立派と言って良い建物に通された。大きさも他の建物を圧し、使われている建材も太く立派なものがふんだんに使われている。
「この建物は、里長達が合議の為に使う館だ」
口外に、余所者が立ち入って良い場所ではないと壮年のが釘を差してきた。
それこそ、言わずもながの事だとレオンは軽く肩を竦めて受け流す。
一旦脇の小部屋に連れられて、荷改を受けた。荷物の大半と武器の類はここで預けられ、書類の類を入れた荷袋だけにされてから奥に案内された。
レオン達が通されたのは、中心に囲炉裏が据えられた部屋だった。十人も入れば手狭に感じるの広さの部屋に、長老らしき人物と壮年のエルフが合わせて七人。彼等に正対する形でレオンが座に案内されてマリーが少し後ろに控えた。
「リッテルに手紙を託したのはお前達か?」
かなりの老齢と見られる長老の一人が口を開いた。
里の広場には居なかった顔なので、もしかしたら最高責任者なのかもしれない。
「その前に、手紙については何処まで情報が伝わっている?」
レオンは片手を上げて制し、逆に質問を投げかける。
「慎重な奴よな」
長老は意味ありげに片方の口角を吊り上げた。
「手紙を持ってきたリッテルにそこの護衛。里長達でもこの場に居ない者には話は伝わっておらん」
「完璧な処置ですね」
レオンは頷くと、封蝋付きの羊皮紙を荷袋から取り出し護衛役の男経由で長老に手渡した。
「それは、モルドールの冒険者ギルド長が発行した『表向き』の依頼に関する正式な書類です」
長老は封蝋を割って書面を一瞥すると、放り投げるように隣の里長に渡して中身を検めさせる。
「で、こっちが『裏向き』の話が書かれたギルド長からの『私信』ですね」
こちらは別の印章で封蝋された羊皮紙を護衛役の男に渡した。
受け取った長老は、今度は何度も読み返しながら内容を検めた。
「にわかには信じられない話だな」
「ギルド長はなんと?」
長老のつぶやきに、護衛役の男が焦れたように聞いていた。
「送ってきた冒険者の中に、契約を履行していない者が混じっている可能性があるので、その見聞役としてレオンなる冒険者を筆頭とした四人組のパーティーを送ったと書かれてある」
「俺達は、この里に来るまでにゴーシュの森の中を時間を掛けて探索をしてきた。最後の方にリッテルという青年に見つかったので同行してさらに探索を続けた。彼に託した手紙にも書いてあるとおり、数は少ないがゴブリンを逃がすような戦い方をした痕跡を発見した。だから、ギルド長の『私信』を今渡すことになった」
姿勢をただし、レオンは真っ直ぐな視線で長老を見据えていた。




