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光を求めて  作者: kotupon


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合同会合8

カシウム城の会議室。

朝の光が高窓から差し込み、長卓の上に並ぶ書類の束を淡く照らしていた。

時刻は午前九時。すでに各々の席には主要人物が揃い、空気は張り詰めた実務のそれへと切り替わっている。


 「旧スニアス領――現在の王家直轄領、そして旧コンラート領――現スニアス子爵領を調査して判明した内容です」

報告するワーレン。淡々とした口調でそう締めくくると、彼は一冊の帳簿を差し出した。

 「こちらが、その裏付けとなる帳簿になります」


 受け取ったのは次席執事長ルーファス。

 重みのある革表紙を開くと、そこには明確に刻まれた印章――スニアス領主の正式な紋章が押されていた。


 ワーレンは続けた。

 「現スニアス子爵が、エスヴェリア神聖王国、およびゼルヴァリア軍閥国と繋がっている疑いは極めて濃厚です」


 ブランゲル侯爵が静かに腕を組む。誰も口を挟まない。


 「旧スニアス領では、資材、食材、日用品、そして物流――それらすべてを『ルダミック商会』が一手に担っています」


 「一極集中か……」

 ライアンが低く呟く。


 「そして、エールは領内では薄められたものが流通し、品質の良いものは領外へと販売されています」


 「……搾取に近いな」

 クリフが顔をしかめる。


 ワーレンはさらに資料をめくる。

 「加えて、エスヴェリア神聖教会へ“寄付金”“謝礼”“祈祷料”という名目で資金が流れています」


 「名目はいくらでも付けられる、か」

 アデルハイトが冷静に言う。


 「そして……」

 ワーレンは一瞬だけ言葉を切った。

 「教会の神父、牧師らは、戦闘訓練を受けた者たちである可能性が高いと判断されます」


 空気が一段と重くなる。


 「さらに、アンヘル王国とゼルヴァリア軍閥国の国境線は厳戒態勢が敷かれており――特定の商会のみが通行を許可されています。おそらくルダミック商会、あるいはその息のかかった商会と考えられます」


 報告が終わると、室内はしばし沈黙に包まれた。


 「……判断が難しいですね」

 静かに口を開いたのはジェイソンだった。


 「どういうことだ?」

 ジトーが眉を寄せる。


 ジェイソンは言葉を選びながら続ける。

 「確かに怪しい点は多い。だけど……決定的な“反逆の証拠”があるわけではない」


 それを引き取るように、ブランゲル侯爵が口を開いた。

 「領主には自治権がある」


 重く、だが明確な声。

 「領内を富ませ、民の生活を安定させるためであれば、特定の商会を優遇することも珍しくはない。御用達の商会など、どの領にも存在する」


 「教会も同様だ。民の要望があれば設立することは自然な流れと言える」

 アデルハイトが補足するように頷く。


 侯爵は続けた。

 「国境線の厳戒態勢も、領を守るためであれば責められるものではない」


 クリフが腕を組みながら問う。

 「つまり……王家に反旗を翻したって明確な証拠がなければ、詰問もできないってことか?」


 「うむ」

 短く、しかし重い肯定。


 ロイドが苦い顔をする。

 「それに今は王家直轄領になってる。旧スニアス領と現スニアス子爵領が分かれているのも、この問題をややこしくしてる」


 ザックが顎をしゃくる。

 「俺は“神父や牧師が戦闘訓練を受けてる”って話が気になる」


 フレッドが鼻で笑う。

 「ただの神父じゃねえってことか」


 ノエルが腕を組み、目を細めた。

 「……リーガム街のこと、思い出すわね」


 「リーガム街?」

 シャロンが首を傾げる。


 マリウスが静かに説明した。

 「教会を隠れ蓑に、違法な奴隷売買が行われていた場所なんだ」


 空気がぴりりと張る。

 「助祭ズークという男がいて、あれも戦闘訓練を受けていたことが分かっている…夜中に街から逃げ出そうとしたところを捕らえたんだ」


 メグが軽く手を挙げる。

 「そのズーク、私とノエルとリズで捕まえたのよ」


 デチモが吹き出した。

 「おいおい、そりゃあ逃げ場ねえな!」


 コルネリウスも肩をすくめる。

 「ご愁傷様です、としか言いようがねえな」


 シャロンがため息混じりに言う。

 「最初から詰んでたようなものね」


 メグは静かに頷くだけだが、その表情には“当然の結果”という色が浮かんでいる。


 そして――どっと笑いが起きた。


 緊迫した会議の中での、束の間の緩み。

 しかし、それは決して無駄ではない。


 笑いの裏で、全員が同じことを理解していた。


 ――教会が関与している可能性。

 ――外部勢力との繋がり。

 ――そして、証拠がなければ動けないという現実。


 単純な敵ではない。露骨な反逆でもない。

 だが、確実に“何か”が動いている。


 「……気になる点があります」

 静かに口を開いたのはコルネリウスだった。

 先ほどまでの報告とは別に、付け加えるような声音。しかしその目は鋭い。


 「ルダミック商会の会頭に護衛として付いている男ですが……」

 全員の視線が自然と彼に集まる。

 「遠目で確認した程度ではありますが――中堅級の実力者と見ています」


 ――ざわッ。


 一瞬で、会議室の空気が揺れた。

 それは単なる驚きではない。

 この場にいる者たちにとって“中堅級”という言葉が持つ意味が、あまりにも重いからだ。


 デシャンが聞く。

 「お前らの言う中堅級って……どれくらいのもんなんだ?」


 その問いに答えたのは、ユキヒョウだった。

 「そうですね……ベガやワーレンと同等の実力、と言えば分かりやすいでしょう」


 「おいおい!マジかよ?!」

 モーガンが思わず声を上げる。


 ルーカスも低く唸るように言った。

 「……かなりの手練れだな」


 マックスが腕を組み、冷静に続ける。

 「迂闊に近づくのは危険だろう。少なくとも単独で相手にするのは得策ではないな」


 場の空気が一気に引き締まる。

 誰もが“戦力としての危険度”を即座に計算し始めていた。


 その緊張を、真っ向から叩き割る声があった。


 「中堅級……?」

 ザックが鼻で笑う。

 「なんだ、『鼻くそ』じゃねえか」


 そしてすぐに、フレッドが続いた。

 「瞬殺だな」


 デシンスが思い切り顔をしかめた。

 「お前らから見ればそうだろうよ!」


 エッケハルトもすかさず怒鳴る。

 「お前らがオカシイってことを忘れるな!」


 マリウスが、やや拗ねたような表情でぽつりと漏らす。

 「……そうなると、私たちは“鼻くそ以下”ということになるね?」


 その言葉に、ロイドが慌てて身を乗り出した。

 「マリウス様!言葉の綾です!ザックたちの発言は気にしないでください!」


 「そうそう、こいつらは口が悪いだけで――いや、悪いのは口だけじゃねえけど」

 トーマスがぼそっと挟み、さらに空気が揺れる。


 ケイトがぴしりと指を立てた。

 「あなたたち、思ったことを何でもかんでも口に出すんじゃないわよ!」


 ザックは肩をすくめる。

 「俺は正直者だからな」


 横でフレッドがうんうんと頷く。


 ケイトのこめかみに青筋が浮かんだ。


 そこへサーシャがすかさず一歩前に出る。

 「“正直”と“無遠慮”は違うって言ってるのよ。場をわきまえなさい」


 ザックとフレッドがわずかに口を閉じる――が、表情はまったく反省していない。


 そんなやり取りの中で「……くくっ」誰かが、小さく笑った。


 それが合図だったかのように


 「ははっ……!」

 「やれやれだな」

 「全く……」


 笑いが波紋のように広がっていく。


 シマは腕を組み、静かに口を開いた。

 「……まあ、俺たち基準で語るなって話だな」

 苦笑混じりの声。

 「普通に考えりゃ、“中堅級”は厄介だ。数が揃えばなおさらな」


 コルネリウスも頷く。

 「ああ。単体であのレベルが付いている以上、商会そのものの警戒度も上げるべきだろう」


 ユキヒョウが淡々と付け加える。

 「表に出ているのが一人とは限らないよ?」


 その一言で、再び空気が引き締まる。


各々の思考が静かに動く中――口火を切ったのはエイラだった。

 「現在のルダミック商会の状況を確認したいわね」

 その声は落ち着いていたが、どこか芯の硬さを感じさせる。


 「うむ、それと領主代行となった者についてもじゃな」

 ヤコブが顎に手を当てながら続ける。


 ブランゲル侯爵がゆっくりと口を開いた。

 「領主代行はドロテア男爵だ。王妃様の生家に連なる家系だな」


 エリジェがすぐに補足する。

 「元は法衣貴族で、王都では典礼事務官を務めていた方よ」


 「事務官、ですか……」

 オスカーが眉をひそめる。

 「……つまり、名ばかりの領主代行というわけですね?」


 「ええ、その通りよ」

 エリジェは頷いた。

 「その代わり、優秀な官吏たちが大勢出向していると聞いているわ。実務は彼らが担っているのでしょう」


 その説明に、何人かが納得したように頷く。

 だが同時に、“誰が本当に領を動かしているのか”という疑念が、静かに場に残った。


 その空気を切るように、シマが口を開いた。

 「……ベガ、ワーレン」


 名を呼ばれた二人が顔を上げる。

 「今日の会合が終わったら、情報屋を走らせろ。王家直轄領の現状と、ルダミック商会の動きを洗え」


 「了解!」

 即答だった。


 ベガの口元にはわずかな笑み。

 ワーレンはすでに段取りを組み始めている様子だ。


 エイラが腕を組み、少し考えるように言う。

 「くれぐれも慎重にと伝えて。相手はただの商会じゃないわ……報酬はどうする?」


 フレッドが軽く手を振る。

 「そんなもん、ベガに任せときゃいいだろ」


 ベガは肩をすくめた。

 「任せておきな。適正に評価して払ってやるよ」

 その言葉には、長年にわたり情報屋として生きていた自信が滲んでいた。


 「シマ様」

 ルーファスが静かに口を開く。

 「その情報は、我々にも共有されるのでしょうか?」


 シマは即座に頷いた。

 「もちろんです。隠す理由がない」


 その一言に、ブランゲル侯爵家、ホルダー男爵家の面々も安心したように表情を緩める。


 「……少し、いいかな?」

 ジェイソンが手を挙げた。


 全員の視線が集まる。


 「ルダミック商会が怪しいのは理解できる。けれど……そこまで拘る理由は何だい?」

 その問いは冷静で、責める意図はない。

 純粋に“判断材料”を求めるものだった。


 エイラが、ゆっくりと顔を上げる。

 「……ルダミック商会は、私の仇なんです」


 その一言で、場の空気が変わった。

 軽さは消え、重く、静かな緊張が落ちる。


 「私の家は……そこそこ大きな商会でした。スニアス領で」


 「お前、スニアス領出身だったのか?」

 フレッドが思わず口を挟む。


 「ええ、そうよ」

 短く答え、エイラは視線を落とす。


 そして、淡々と――しかし一切の揺らぎなく語り始めた。

 「ルダミック商会に嵌められました…取引を装って、不利な契約を結ばされ……気づいた時には、多額の借財を背負わされていて…」


 誰も口を挟まない。


 「父も母も、必死になって昼も夜も関係なく働いて、返済のために全てを費やして……」

 ほんの一瞬、言葉が途切れる。


 だが、すぐに続けた。

 「――疲労で、亡くなりました」


 静寂。


 「残された私は……奴隷商人に売られました」

 その言葉は、あまりにも簡潔で、あまりにも重かった。


 サーシャが一歩前に出る。

 「エイラの仇は、私たちの仇でもあるんです」

 その声には、揺るぎない決意があった。


 ジトーが低く言う。

 「殺すのは簡単だ」

 一瞬、空気が鋭くなる。


 ジトーは続けた。

 「だが、それじゃエイラの矜持が許さねえ」


 拳を軽く握る。

 「商人として――ルダミック商会は、ぶっ潰す」

 その言葉に、シャイン傭兵団の面々が静かに頷く。


 最後に、シマが口を開いた。

 「それが――俺たち家族の“在り方”だ」


 短い一言。

 だが、その重みは何よりも強かった。

 感情に任せた破壊でもない。誇りを持って、正面から叩き潰す。

 それが彼らの選んだ道。


 大会議室の空気は、再び張り詰める。

 だがそれは、先ほどまでとは違う。


 怒りでも恐怖でもなく――明確な意志を持った静かな熱だった。

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