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光を求めて  作者: kotupon


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合同会合

カシウム城――大会議室。


今日ここに集まっているのは三つの勢力――

シャイン傭兵団。ブランゲル侯爵家。ホルダー男爵家。

この三者による正式な合同会合である。


さらに軍関係者として、カシウム領軍団長 アデルハイト・バウアー。

副団長 エリクソン・ブランゲルも席についていた。


また特例として、スレイニ族軍所属の ヤン と ルボシュ も参加している。

彼らは現在シャイン傭兵団と行動を共にしており、関係者としての参加がブランゲル侯爵から正式に認められていた。


会議の進行役を務めるのは、ブランゲル侯爵家執事長 フーベルト。

長年侯爵家を支えてきた老執事であり、その背筋は真っ直ぐ、動作の一つ一つに無駄がない。


会議卓の上座には――ブランゲル侯爵家当主

イーサン・デル・ブランゲル侯爵。


その隣には夫人 エリジェ・ブランゲル。

さらに息子 ジェイソン・ブランゲル が座っている。


侯爵の後ろには、筆頭側近 ネリ・シュミッツ をはじめとした側近が四名並び、さらに侯爵家書記官が二名、会議記録を取るために静かに羽ペンを準備していた。


エリジェの背後には側付き侍女が五名。

ジェイソンの背後にも三名の側近が控えている。


さらに部屋の壁際には、次席執事長 ルーファス と数名の使用人、メイドたちが控えていた。


卓の反対側には――ホルダー男爵家。

当主 デシャン・ド・ホルダー男爵 が堂々と席に座る。

その隣には側近の カールスルーエ・ヘッセン と ヘルモート・ビルング。


さらに嫡男 マリウス。

彼の背後には側近の ハインツ・ヘッセン、ビリャフ・ビルング、そして配下の モーガン・エステベス、キャシー・ネイサン が控えていた。


そして三つ目の席――シャイン傭兵団。


団長 シマ を中心に、総勢 127名 が参加している。


主要メンバーであるジトー、クリフ、ロイド、ザック、フレッド、トーマス、オスカー、ヤコブ、サーシャ、エイラ、ミーナ、ケイト、メグ、ノエルたちも席についていた。


さらに特別に、エリカの侍女たち五名も同席している。

そして会議室の一角には、尻尾を揺らしながら伏せている小さな影。


仔狼 アル だ。

周囲の匂いを興味深そうに嗅ぎながらも、きちんと大人しくしている。


ただし今回、この場にいない者たちもいる。

リズ。灰の爪隊。マリア隊。ジョワイユーズ隊。



――グレイス・ルネ劇場。


劇場支配人 ボニファーツ と劇場関係者たちと共に、追加公演に向けた打ち合わせが行われているはず。

歌の構成。出演順。舞台演出。警備体制。様々なことを詰めている最中だろう。


今日の昼頃には正式告知が行われる予定だった。

追加公演は――二日後そして 五日後。

踊りなし、歌だけの舞台。

告知が出れば――おそらく劇場はすぐに騒ぎになる。

入場料金は 二銅貨。日本円に換算すれば、およそ二千円ほどの価値だ。

さらに立ち見席として 五百席 が追加される予定で、こちらは 一銅貨。

それでも、間違いなく満席になるだろう。


そして重要なのは――入場料金売上の 六割 が、出演料および警備料として シャイン傭兵団に支払われる という契約だった。


さらに今回、警備にはもう一つ変わった点がある。


少年組。

彼らが「手伝いたい」と申し出たのだ。

最初は周囲も驚いたが、話し合いの結果――補助警備として参加することが認められた。


それに伴い、城で行っていた 写本作業は一旦休止 となった。

理由は単純だった。

ベン一家。カウラス一家。オイゲン夫妻。

カシウム城書斎室で彼らだけで作業するには、精神的負担が大きいだろうと判断する。



大会議室では、まだ会議開始前の静かなざわめきが続いている。


進行役――執事長 フーベルト。

全員の視線が彼に集まる。


フーベルトは静かに一礼した。

「皆様」

落ち着いた声が会議室に響く。

「お時間となりました。これより――」

「シャイン傭兵団、ブランゲル侯爵家、ホルダー男爵家による合同会合を開始いたします」


カシウム城大会議室で、重要な話し合いが今まさに始まろうとしていた。



進行役であるブランゲル侯爵家執事長フーベルトが議事の流れを整え

現在は侯爵家筆頭側近 ネリ・シュミッツ が情勢報告を行っているところだった。


ネリは静かに一礼し、用意された書類を手に取る。

その顔には普段通りの冷静さがあったが、語られる内容は決して軽いものではない。


「まず――アンヘル王国の現状についてご報告いたします」

会議卓の空気が少しだけ張り詰める。


ネリは続けた。

「アンヘル王国は、今回の騒乱によって発生した内戦の危機を脱しました」


そして付け加える。

「もっとも……一時的に、というのがブランゲル様のお考えです」


その言葉に何人かが眉を動かした。


ネリは淡々と続ける。

「水面下では未だ多くの勢力が蠢いており、火種は消えたわけではなく、燻り続けている――そのような状況であると」


ブランゲル侯爵は腕を組んだまま黙って聞いている。


ネリは次の書類をめくった。

「今回の混乱の主犯、元王家特別監察官長官カーロッタ・デ・マッケンゼン伯爵」

「そして外務政務官オーギュスト・ド・スタール男爵」


ネリははっきりと言った。

「両名は二親等を含めた連座処刑となりました」


会議室の空気が重くなる。

処刑という言葉は、この世界では珍しいものではない。

だが二親等までとなれば話は別だ。かなり厳しい処分だった。


ネリはさらに続ける。

「また、元ケリガン・デル・スニアス侯爵。こちらは二階級降爵」

「現在はスニアス子爵となっております」


資料をめくる音。

「さらに領地替えを命じられました」


続いて別の名が出る。

「元ヨーナス・デ・コンラート伯爵。こちらは領地没収の上、子爵へ降爵」

「今後は法衣貴族として王都に居住することとなりました」


ネリは最後にまとめた。

「その他、元スニアス侯爵家一派の貴族たちは一部財産没収の処分」

「これにより――スニアス侯爵家派閥は瓦解いたしました」


話が一段落する。


そこでフーベルトが一歩前に出た。

「ここまでで、何かご質問はございますでしょうか?」


会議卓のあちこちで思案する空気が流れる。

その中で、ひとつ手が挙がった。

エイラだった。


フーベルトが視線を向ける。

「どうぞ」


エイラは確認するように言った。

「領地替えを命じられたスニアス子爵の領地は旧コンラート領へ移った……ということでしょうか?」


ネリが頷く。

「はい、その通りでございます」


会議卓の数名が資料を見直す。


すると今度は別の手が挙がった。

ホルダー男爵家の嫡男 マリウス だった。

「質問よろしいでしょうか」


フーベルトが頷く。

「どうぞ」


マリウスは言った。

「今後、旧スニアス領を治めるのは誰になりますか?」


ネリは即答した。

「王家直轄領となります」


今度はブランゲル侯爵家側から手が挙がる。

ジェイソンだった。

「ルーファス、皆に報告を」


「ハ!」

次席執事長ルーファスが一歩前に出る。

「昨夜、王都に詰めている諜報部隊から連絡がありました」


会議室の空気がさらに引き締まる。


「カルバド帝国の住人。かなりの数が王都に移住していることが判明しました」

ざわめきが起きる。


ルーファスは続けた。

「ただし、諜報部隊は少数。すべてを把握するには至っておりません」


そのとき、シャイン傭兵団の席から手が挙がった。

シマだった。


フーベルトが頷く。

「どうぞ」


シマは少し椅子に寄りかかりながら言った。

「こいつらはな、いわゆる――パン、草、華僑。そう呼ばれる連中だ」


聞き慣れない言葉に何人かが眉をひそめる。


シマは説明を続ける。

「血縁、地縁。それを軸にしたコミュニティを作る。異国に住みながら、互いに助け合い、守り合いながら生きる連中だ」


クリフが言う。

「つまり移民の集団か」


シマは頷く。

「表向きは商人、職人、一般人。だが、時間が経つと経済的な影響力を持つようになる」


クリフが腕を組む。

「そいつらが多くいるってことか」


今度はベガが口を挟む。

「聞き込みをするにしても、慎重にやらなきゃならねえ、目をつけられた意味がねえ」


ジェイソンが静かに言う。

「シマ、君の懸念が当たっていたよ」


ブランゲル侯爵が腕を組んだまま聞いた。

「今できる手立ては?」


シマは少し考え、答える。

「…あいつらは横のつながりが強い、そこから見つけていくしかねえ」

「そして、きちんと把握しておくことだ。いつでも鎮圧できるように」


少し間を置き。

「…これは俺の考えだが、今いる“違和感のある連中”は第一世代だと思う」

「アンヘル王国のためにって意識は、ほぼ無いだろうな」

「だが、完全に排除するのは現実的じゃねえ」


そして静かに言った。

「気の遠くなるような話だが、徐々に同化させるしかない」


部屋の全員がシマを見ている。

「この国はいい国だ。安心できる。守ってくれる。そう思わせる」


そして結論を言う。

「愛国心を植え付けるんだ」


静寂が落ちる、カシウム城大会議室。

その場にいる全員が、これが短期の問題ではないことを理解していた。


やがて、その沈黙を破ったのはフレッドだった。


「……ってことはよ」

腕を組みながら眉をしかめる。

「カルバド帝国は何年……いや、何十年も前から仕込んでたってわけか?」


その言葉に、数人が静かに頷いた。


隣でザックが頭を掻く。

「面倒くせぇ奴らだな……」


戦場の敵なら話は早い。

剣を抜き、戦い、決着をつければいい。


だがこれは違う。


町の中にいる。市場にいる。

商人として、職人として、普通の住人として暮らしている。

敵なのかどうかすら、簡単には分からない。


デシンスが低く言った。

「……俺はゾッとしたぜ」


会議卓の上で指を組む。

「国を盗るってのは、何も力だけじゃねえってことにな」


何人かがゆっくり頷く。


軍人であるアデルハイトも、腕を組みながら静かに聞いていた。

戦争とは、剣や兵だけではない。

経済。人の流れ。文化。思想。

それらが長い年月をかけて絡み合い、やがて国の形を変える。


ヤコブが髭を撫でながらシマを見た。


「シマよ」

柔らかい声で言う。

「お主、王都に行っておらんのに、よう気付いたのう?」


その問いに、シマは肩をすくめた。

「気付いたのは俺じゃねえ、ユキヒョウなんだ」


視線が一斉にユキヒョウへ向く。

ユキヒョウはいつもの調子で軽く笑った。

「いやぁ、大したことじゃないですよ」


だがフーベルトもネリも、真剣な顔で彼を見ている。


ユキヒョウは少し照れくさそうに言った。

「ただ……ちょっとした違和感を感じたんです」

それだけだ、と言わんばかりの言い方だった。


しかしロイドが補足する。

「ユキヒョウさんたちは、いろいろな国を訪れてきたそうですから、僕たちとは経験が違います」


ヤコブはゆっくり頷いた。

「……なるほどのう」


しかし彼の心の中では、別の考えが浮かんでいた。

(ユキヒョウ殿の経験……観察眼……それも見事なものじゃ…じゃが……)


ヤコブはちらりとシマを見る。

(その違和感を聞いただけで、すぐにその謀略の形にまで気付くとは…やはり頼りになる男じゃの)


彼は小さく笑った。

「ほっほっ」


その後ろの席では、エリカが静かに微笑んでいた。

「ふふ……やっぱりシマね」


隣のサーシャが小声で返す。

「でしょ?」


二人は顔を見合わせ、少しだけ誇らしそうに笑う。

その声は周囲にはほとんど聞こえない。

だがその表情には、はっきりとした信頼があった。


この場にいる者たちも、改めて理解していた。


もし――ユキヒョウの違和感がなければ。


もし――シマがそれを真剣に考えなければ。


そしてその情報がブランゲル侯爵家へ届かなければ。


アンヘル王国は――気付かぬまま、ゆっくりと内部から侵食されていた可能性がある。


十年。二十年。あるいはもっと先。

気付いた時には、経済も人も握られ、国の主導権を奪われていたかもしれない。

大会議室にいる誰もが、その可能性を想像していた。


――アンヘル王国は。

今、ぎりぎりのところで手遅れになる未来を回避したのかもしれない。

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