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光を求めて  作者: kotupon


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519/548

追加公演?!

翌日の昼過ぎ。

城塞都市カシウムの宿屋——アパパ宿の食堂は、昨夜の喧騒が嘘のように穏やかな空気に包まれていた。


昼の柔らかな光が窓から差し込み、木の長卓の上には温かな料理が並んでいる。

焼いたパン、野菜の煮込み、サラダ、肉の入ったスープ、果物、そして薄めた果実酒。

豪勢とは言えないが、素朴で身体に優しい昼食だった。


公園に昨夜の打ち上げの疲れがまだ残っているのか、皆どこかのんびりとした空気を纏っていた。


「昨日は騒ぎすぎたわねぇ……」

クララが肩を回しながら言う。


「でも楽しかったわ!」

メリンダが元気よく笑う。


リズも頷きながらパンをちぎっていた。

「公演も皆、すごく喜んでくれてたわ」


その言葉にサーシャも微笑む。

そんな余韻を残したまま、穏やかな昼食の時間が流れていた。


そのとき。

食堂の入口が開き、宿の主人が顔を出した。


「サーシャさん、劇場の支配人さんが来てますよ」


「支配人?」

サーシャが顔を上げる。


やがて姿を現したのは、グレイス・ルネ劇場支配人——ボニファーツだった。

きっちりとした服装だが、どこか慌てた様子で、手には分厚い書類の束を抱えている。


「皆さん!お食事中申し訳ありません!」

彼はそう言って深く頭を下げた。


サーシャたちは顔を見合わせる。


「どうしたんですか?」

ミーナが椅子から立ち上がりながら尋ねた。


するとボニファーツは、抱えていた書類の束を卓の上に置いた。


ドサッ。

かなりの量だった。


「これは……?」

ノエルが目を丸くする。


ボニファーツは真剣な顔で言った。

「領民たちからの嘆願書です」


一同が驚く「嘆願書?」


「ええ」

彼はゆっくり頷いた。

「皆さんの公演をもう一度観たい、どうか追加公演をしてほしい——そういう要望が劇場に殺到しているのです」


紙束をめくる。

どの紙にも、震えるような字で願いが書かれている。


『もう一度観たい』『家族にも見せたい』

『昨日の歌が忘れられない』『どうかもう一度だけ』


ボニファーツは深く頭を下げた。

「せめて……あと二公演だけでも開催していただけないでしょうか!」


食堂が静まり返った。


サーシャたちは顔を見合わせる。

その気持ちは嬉しい。とても嬉しい。


ミーナが静かに口を開いた。

「……結論は少し待ってください」



ボニファーツ支配人が帰ったあと。

アパパ宿の食堂には、しばし沈黙が落ちていた。


先ほどまでの穏やかな昼食の空気は、少しだけ張りつめたものに変わっている。

卓の上には食べかけのパンや皿が並んでいるが、誰もすぐには手を伸ばさなかった。


ミーナがゆっくりと息を吐く。

「……さて、簡単に決められるる話じゃないわ」


皆が頷いた。

まず一番の問題は——時間だ。


ミーナが整理する。

「明日から合同会合」


シャイン傭兵団。ブランゲル侯爵家。ホルダー男爵家。

三者による正式な会合である。


「一日で終わる保証はない」

ノエルが言う。

「二日、もしかしたら三日かかる可能性もあるわ」


初めての会合。議題も多いだろう。簡単に終わるとは思えなかった。


さらに、サーシャが言う。

「体力の問題」


サーシャやリズ、エイラたちは問題ない。

だが奥方連中やメリンダやクララは違う。


メリンダが苦笑する。

「正直言うと……昨日の舞台だけでも結構疲れたわ」


クララも頷く。

「楽しかったけど、やっぱり、それなりに緊張もしたわ」


本番の舞台は、練習とはまったく違う。


二千人もの観客。視線。期待。

それだけで精神力を削られる。


「休養日を挟まないときついわね」

エイラが言う。


さらに、マリアが指を三本立てた。

「警備、滞在費、出演料の問題もあるわ」


サーシャはしばらく考えたあと、はっきり言った。

「……今ここで決めるのは無理ね、シマにも相談しましょう」


その名前に、皆が納得したように頷いた。



石畳の通りに面した宿屋——アパーパ宿。

現在ここには、シャイン傭兵団の一部隊が滞在していた。


ルーカス隊。マックス隊。デリー隊。ジョワイユーズ隊。

さらに、ルーカスの妻 ビルギット。マックスの妻 マヌエラ も一緒に泊まっている。


昼下がりの一階食堂兼酒場は、ゆったりとした空気に包まれていた。


昨夜の打ち上げは相当な騒ぎだった。

酒も料理も山ほど出され、笑い声と歌声が夜遅くまで続いた。


その影響は、当然ながら今も残っている。


男連中は椅子や長椅子にだらけるように座り、果実水や薄めた酒を飲みながらぼんやりしていた。


「ふぅ……」

デリーが背もたれに体を預けて天井を見上げる。

「昨日は騒ぎすぎたな……」


ルーカスが苦笑する。

「お前が一番騒いでただろ」


「うるせぇ」

とは言いつつも、男たちの顔にはまだ余裕がある。

昨夜あれだけ飲み、騒いだにもかかわらず、体力はまだ有り余っているようだった。


しかし——今日は大人しくしている。

昨夜シマから命令が出ていたからだ。

「明日は休養日、明後日の会合に備えろ」

その言葉に逆らう者はいない。


「まあシマがそう言うならな」

エッカルトが肩をすくめる。


その近くでは、ビルギットとマヌエラがゆっくりとお茶を飲んでいた。

二人の表情はどこか満足げだが、同時に少し疲れている。


ビルギットが小さく息を吐く。

「でも本当に楽しかったわね」


「ええ」

マヌエラも微笑む。


昨日は舞台。その後は盛大な打ち上げ。

普通の生活では経験できない一日だった。

だがやはり疲れは残っている。


その少し離れた席では、ジョワイユーズ隊の女性たちが集まっていた。

楽器ケースが椅子の横に置かれている。

彼女たちの表情は、安堵と達成感に満ちていた。


「昨日は最高だったわ」

ベッキーが嬉しそうに言う。

「観客の顔見た?」


「うん」

モリーが頷く。

「すごく楽しそうだった」


だが同時に——少しだけぐったりしている。

演奏の疲れなのか。それとも酒のせいなのか。本人たちにもよく分からない。


そんな穏やかな空気の中、宿の扉が開いた。

カラン、と鈴が鳴る。


「お邪魔するわよ」

入ってきたのは——エイラ。メグ。そしてマリア。


三人の姿を見て、男たちが顔を上げた。


「お?」

デリーが目を丸くする。

「エイラ嬢?!どうしたんだ?」


エイラは軽く手を上げた。

「ちょっと話があってね」


三人は食堂へ歩いてくる。


マリアが言った。

「グレイス・ルネ劇場の支配人から追加公演の依頼があったのよ」


その言葉に空気が少し変わる。


「追加公演?」

ルーカスが眉を上げる。


メグが頷いた。

「うん、それでサロモンさんたちの意思を聞きに来たの」


サロモンが首を傾げた。

「私たちの意思ですか?」


エイラが腕を組む。

「そう、もし公演することになったら、出てくれるのか確認しに来たの」


一瞬の沈黙。


サロモンは椅子から勢いよく立ち上がった。

「出ます!!もちろん出ますとも!是非ともお手伝いさせていただきます!」


ジョワイユーズ隊の女性たちも頷く。


「やりたいです!絶対出たい!嬉しいわ〜!またあの舞台で弾けるなんて!」

ベッキーが嬉しそうに手を叩く。


だがマリアは少し手を上げた。

「まだ本決まりじゃないわ、問題もあるのよ」


ルーカスが腕を組む。

「ビルギットに無理はさせたくねえ」


マックスも頷く。

「賛成だ。マヌエラもついさっき起きたばかりだ…相当疲れてたんだろう」


その言葉に後ろから声がした。

「……あなた」

振り向くと、マヌエラが立っていた。少し照れくさそうに笑っている。

夫が気遣ってくれたことが嬉しいのだろう。

マックスは少し照れたように咳払いした。


エッカルトが話を続ける。

「それに会合もある…警備の問題もあるな」


エイラが頷く。

「それだけじゃないわ、滞在費、出演料の問題も出てくる」


デリーが言う。

「滞在費は侯爵家持ちだよな?」


エイラは肩をすくめた。

「そうだけど」


メグが小さく言う。

「それに甘えていつまでも……ってわけにはいかないわよね…チョウコ町も心配だし」


その言葉にルーカスが頷いた。

「元スラムの住人たち、子供たちも早く連れて行ってやりてえ」


食堂に静かな空気が流れる。

やる気はある。だが現実の問題も多い。


その空気をマリアがまとめる。

「今、サーシャたちがシマの所へ行ってるわ、最終的な決断は——」


彼女は言った。

「シマが決める」


誰も異論はない。


シャイン傭兵団の団長。

この場にいる全員が信頼している男だ。


エイラが軽く息を吐いた。

「ジョワイユーズ隊の意思は確認できたわ」

サロモンたちを見る。


全員が力強く頷いた。


エイラは小さく笑った。

「後は待つばかりね」


アパーパ宿の食堂には、再びゆったりとした空気が戻っていた。



カシウム城——書斎室。

今この部屋では、静かな作業が続いていた。


シャイン傭兵団の団長 シマ を中心に、ジトー、クリフ、ロイド、トーマス、オスカー、ヤコブ、ユキヒョウ が机に向かっている。


さらに——ベン一家(テオは不在)、カウラス一家、オイゲン夫妻、そして少年組。

皆それぞれ席に座り、黙々と写本作業を進めていた。

他の隊はすべて休んでいるが、この面々は、資料の写本作りを手伝っていた。


「……ふむ」

ヤコブが文字を追う。

「この字は読みにくいのう」


「古い文書ですからね」

ロイドが苦笑する。


ユキヒョウが軽い調子で言う。

「でもこういうのって意外と面白いよ」


クリフが顔をしかめる。

「どこがだよ」


そんなやり取りをしながらも、作業は順調に進んでいた。


その時、コンコン。

書斎の扉がノックされた。


「失礼いたします」

扉が静かに開き、姿を見せたのはカシウム城の 次席執事長ルーファス だった。


背筋の伸びた老紳士で、落ち着いた声で告げる。

「サーシャ様、ミーナ様、リズ様がお越しになられております」


シマが顔を上げた。

「ん?…ああ、ありがとう、ルーファスさん。通して下さい」


ルーファスは丁寧に一礼する。

「かしこまりました」

静かに退室した。


クリフが眉を上げる。

「……手伝いに来たのか?」


ジトーが肩をすくめる。

「来れば分かるだろ」


オスカーは少し楽しそうだ。

「なんだろうね、三人そろって」


扉が再び開いた。


「邪魔してゴメンね」

入ってきたのは——サーシャ。ミーナ。そしてリズ。

三人とも少し急いで来たようだった。


シマは羽ペンを置く。

「どうした?」


ミーナが言った。

「相談があって来たの」


その言葉にシマは周囲を見る。

「……一旦、手を休めよう」

写本作業が止まる。


全員が三人の方を向いた。


ミーナは事情を説明する。

グレイス・ルネ劇場支配人ボニファーツが来たこと。

領民たちから嘆願書が山のように届いていること。

そして——追加公演の依頼。


話を聞き終えると、部屋の空気が少し変わった。


リズが静かに言う。

「一人でも多くの人たちに、笑顔と感動を与えられたら嬉しい」

そして少し微笑んだ。

「……私は出演したいわ」


オスカーが優しく頷く。

「それがリズの夢でもあるしね」


リズの夢——歌と踊りで人々を笑顔にすること。


トーマスが腕を組む。

「やるしかねえ一択だな、問題は……」


ミーナがすぐに答える。

「警備、滞在費、出演料、何も決まってない状況よ」


ユキヒョウが顎に手を当てる。

「今からそれを交渉するとなると、滞在時間も伸びるね」


クリフが頷く。

「チョウコ町も気がかりだしな」


ロイドが口を開く。

「別動隊として動けば解決できるよ」


全員の視線が集まる。


ロイドは落ち着いて言う。

「舞台組と移動準備組を分ける。それなら問題は小さくなる」


ヤコブがシマを見る。

「……シマよ、どうするのじゃ?」


部屋が静かになる、団長の判断を待つ空気。


シマは少し考え——ゆっくり口を開いた。

「……演目は歌だけ」


全員が耳を傾ける。


「その分、出演料は安くてもいい」


ミーナが小さく頷く。


「出演するのは」

シマは指を折りながら言う。

「リズ、マリア、奥方連中……シャロンさんは除く、メリンダ、クララ、ヒルダ以上だ」


シマはさらに言った。

「期間は五日、その間に二公演終える」


ユキヒョウが頷く。

「無理のない日程だね」


シマは最後に言う。

「警備は灰の爪隊、マリア隊を出す。この条件で交渉してくれ」


ミーナがすぐに頷く。


その時クリフが聞いた。

「滞在費の交渉はいいのか?」


シマは肩をすくめた。

「そこはブランゲルたちに甘えよう」


ジトーが笑う。

「侯爵家からしたら大した負担じゃねえだろうしな」


ユキヒョウが軽く言う。

「別に僕たちでも払えるけどね」


クリフが吹き出す。

「金ならあるってか!」


部屋に笑いが広がる。


ただし——ベン一家。カウラス一家。オイゲン夫妻。少年組。

この面々は、きょとんとしていた。


シマは話を戻す。

「先ずは、リズの夢を優先する。今日中に話を纏めてきてくれ」


ミーナは力強く答えた。

「了解よ!」


その時サーシャが言う。

「会合が終わったら、私たちも出ていいんじゃない?」


だがシマは首を振った。

「いや、やってもらうことがある。調達だ。食糧、飲料、布生地、薬草その他いろいろ」


ヤコブが頷いた。

「そうじゃの。三百五十人超の移動じゃからな大量の物資が必要になるのう」


ロイドが言う。

「手分けして集めないといけないね」


オスカーが微笑む。

「みんな一緒でチョウコ町に帰りたいよね」


その言葉に多くの者が頷いた。


「会合が終わったら、すぐにベガ隊、リットウ隊に動いてもらう宿の手配その他諸々とな」


書斎室の空気が再び動き出す。決断は下された後は動くだけだった。

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