004. 魔物の強さ
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拓斗は、魔力に適応してきていた。
日々、魔物の肉を食らい、血肉とする。
この草原フィールドは、もはや拓斗に切れぬものはない。
今日も拓斗は、草原を駆ける。
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:おは
「おはよう」
いつものリスナーに挨拶を返し、拓斗は寝床を片付ける。拠点は相変わらず、異空間のそばにあった。
「そろそろ、拠点を森の方に近づけるか」
:そうなん?
「うん 大分、ここにも慣れてきたし、森の方に移ろうかと」
:気をつけれ
「うい」
異空間がダンジョンの入口として作用し、ダンジョンが異空間の先の空間として存在する。ダンジョンは、大別してゲームにあるような階層型、そして一体型がある。
この新宿ダンジョンは、階層を繋ぐ階段やゲートが見当たらないため、一体型とみられている。草原フィールドに異空間があり、その周りを囲うように森フィールド、山フィールドがある。その先は対魔部すら未踏のフィールドであるかどうかもわからない。山フィールドの先には見えない壁があるとか、断崖絶壁が広がってるとか、海があるとか言われているが、確認できたものはいない。
拓斗は、次の寝床を決めるために、森フィールド付近まで探索し、一日中フィールドを観察した。魔物の動向を探るためだ。
森フィールドといっても、中には開けた場所が点在している。そういったところでは、魔物たちがテリトリーとして居座っている。ゴブリン、コボルト、フォレストウルフ、オーク、フォレストディア、ビッグラット、ワインドホーク、などなど。魔物たちは、互いに食い食われながら、生きているとみられている。
そんな魔物が、草原に出て格下の魔物を狩る。そんな光景がここ数日で、よく見られた風景であった。
拓斗は、そんな森の魔物がぎりぎり来ないラインで寝床を張ることにした。
「今日からは、ここで寝ます」
鉄の棒をいくつか、周りに刺し、そのうちの一本に寄りかかるようにして、目をつむった。
拓斗にとってはここからが本当のダンジョン生活となった。
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神経を尖らせながら寝る。やがてそれは、魔力を感じながら寝る、に変わっていった。魔力適性が低かったため、周囲の魔力の動きを捉えることが自然とできるようになったのである。
拓斗は、草原と森を生き来し、森の魔物を食べ、徐々に濃くなる魔力濃度に慣らしていった。
その行動は慎重で地味だった。オークの魔物を餌で釣り、罠に誘い込み、各個撃破。ホーンラビットの角の鏃で、遠くからフォレストディアを射る。ウルフに囲まれたら撤退し、身を潜める。正面突破を避けた。
森での生活は慣れたものだった。森の泉を比較的温厚な魔物と共同で使い、水を汲んだり、身を清めたりする。 比較的太い幹の木の枝の寝床とし、森を転々と移った。
配信を見るリスナーはほとんど来なくなり、久しぶりに見慣れたリスナーがいるくらいだ。
そんな日々を過ごすうちに、森で3年が経った。
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「そろそろちゃんと実戦に慣れておかないとか」
もはや、森で怖いのは集団戦だけであった。不意打ち、罠といったハンデありの1対1なら負けることはない。しかし、この先それがいつまで通用するかは分からない。いや、確実に通用しないだろう。
奥地には鎧化した魔物など強靭な体と高い魔力を持つ魔物が生息する。彼らを打倒するには、単純な火力と耐久が足りない。
拓斗はここらで、純粋な戦闘力を向上させることにした。
といっても、ダンジョン時代以前の人間の肉体は早々に強靭化したりしない。物理学を超える力を得るには魔力が必要となる。そのため魔力適性が高いものが、体に魔力を蓄積・定着させることで超人的な肉体を得ることができる。これがダンジョン時代の常識だった。
拓斗は、3年もこの森フィールドに体を慣らした今、はっきりと魔力適性が上がっていることを認識していた。
:ここからは俺のターンってことか
どうやら、馴染みのリスナーがいたらしい。
「ああ ここからようやく本格的な冒険者の仲間入りってとこかな」
最初の標的はオークの群れだ。オークの野営地に突撃を仕掛ける。
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オークの野営地。
ダンジョンが現れて以降、魔物の野営地を掃討しようとした試みは幾つもあった。なかには、対魔部による大規模な討伐隊もあったが、魔物の殲滅には至らなかったという。その原因は、逃げ延びたまたははぐれた魔物が新たに野営地を築くからだ。元の野営地は、討伐隊が陣地として維持しようとすると、決まって上位個体が現れたり、陣地を奪いに他の魔物たちが結託して襲撃しに来るからだ。果てには、魔物の数がいつの間にか増えることもあったという。
そのため冒険者たちは、野営地についてほぼ不可侵、時々間引くといった体制でいた。
拓斗は、自身の3年にも及ぶ森フィールドの観察が、自分が冒険者であるという認識を薄れさせていた。
いまは、この森フィールドの生態系の頂点にどうやって立つか。それしか頭になかった。
「オークの野営地はあそこ」
ドローンに向かって、対象を指示する。ここは、野営地から300mほど離れた木の上だ。魔力によって強化された視力が鮮明にオークの姿を捉える。魔力が網膜の解像度を飛躍的に上昇させる。
拓斗は木から降り、ゆっくり歩みを進める。精神を研ぎませながら。
途中、徘徊するオークが斧を振りかぶって向かってきたが、すれ違いざまに袈裟切りにする。直剣が滑らかにオークの体を抜ける。オークが2歩3歩と進み、崩れた。
:つっよ
:なにいまの
「こんくらいなら余裕だ」
拓斗は、森を駆け抜ける。魔力を帯びた脚力が、全身を躍動させる
。数舜で野営地にたどり着く。ドローンが負けじと追いつく。
ドローンは、野営地の外に配置する。
オークが自分たちで作った斧で切り倒したであろう木々が、簡易なテリトリーの境界線を示していた。その内側には、木を束ねて三角錐にした小屋が数十~百ほどあった。200ほどのオークがいるとみられる。
向かってきた拓斗に、オークたちは呆けた様子で棒たちしていたが、3体も切り捨てられると我に返ったオークが雄叫びを発した。
オークが斧や棍棒をもって一気に、襲い掛かる。斧持ちが左から横薙ぎに切る。それをしゃがんで避け、後ろからきた棍棒の振り下ろしを右に転んでかわす。起き上がると同時に、斧持ちの顎を直剣で貫く。斧持ちの胴体を蹴って直剣を抜き放つと、回転して剣を振り回した。
棍棒や斧をもって襲い来るオークを、その攻撃を紙一重によけながら、直剣をもって捌く。
オークの2.5mもある巨体を時に盾にし、倒れた巨体に足を取られないように注意を払う。
100ほども倒すと、あたりに散った魔力が行き場を求めて荒れ狂う。ここは、一層高い魔力濃度となっていた。魔力が不自然な風を起こす。
拓斗は風に構わず、次なる獲物を探すが、オークたちは及び腰になっていた。いくつかのグループが既に野営地を抜け出しているのを、戦闘中に視界に入っていた。
残る集団を蹂躙しようとしたとき、奥から装飾が派手なオークが集団を割って出てきた。
「ウ゛モ゛モ゛モ゛オオオオオオオオ」
そして、今までで聞いたことがない雄たけびをあげた。周囲に漂っていた魔力が彼のオークに群がっていく。魔力がオークを、オークが魔力を、互いに貪るようにして一体化していく。
筋肉が肥大と縮小を繰り返し、血管が脈打つ。濃密な魔力の霧が吹きだし、オークを覆う。
ーシュゥゥゥーッ
辺りの魔力が急にそのオークに吸い寄せられて、霧が晴れた。
「・・・オークキング」
:おいおいまじかよ
:え こんなことあるん?
拓斗はその膨大な魔力のプレッシャーに正気を保つのでいっぱいだった。だが、ここで折れれば、自分のいままでの積み重ねたものが崩れる予感がした。
なんとしても勝たねばならない。なんとしても目の前の敵をつぶさなければならない。そう目線と目線がかち合う。
オークキングは、持っていた杖を一振りすると、オークキングの魔力がそばにいたオークに降り注ぐ。オークキングの取り巻きたちだ。もともと持つ魔力から長いこと生きてきた歴戦の戦士といった圧力を受ける。それが、オークキングの魔力により、さらに増大した。オークジェネラルに格が上がったのだとみられる。
:え これ勝てんの?
:密かな推しがなくなるのはつらいんだが
「ぅぉぉぉおおおおおおお」
拓斗は、オークキング1体、オークジェネラル3体のプレッシャーに打ち勝つために、咆哮を放った。
ここで終わってはならない。拓斗は、全身の魔力を活性化させ耐久を上げる。一発は耐えられるだろう。それ以降はたぶん駄目だ。
オークジェネラルが荒ぶる魔力を静め、疾走する。拓斗は、後の先を制するため、待ちに徹し自分の精神を統一した。
鉈持ちが最初に会敵する。拓斗の頭上に鉈がせまる。棍棒持ちが鉈持ちに隠れるように、拓斗は体をずらす。鉈を直剣の腹で滑らせて、直撃をかわす。
横から、斧持ちが突進を仕掛ける。拓斗は紙一重で後ろに下がる。視界に、オークキングが移る。何かしようとしているのか。注意を割こうとしたとき。鉈持ちの水平斬りが拓斗の髪を数本持っていく。
棍棒持ちが攻撃できないように、位置をずらしながら、斧と鉈の攻撃を流す。
20合いしたころ、棍棒持ちが焦れて、大きく回り込んで拓斗に迫る。棍棒が足を狙う。棍棒持ちが無理な体勢で振り回したところを逃さず、拓斗が間合いの内側に入り、直剣で棍棒持ちの腕を切り砕く。肉を断ち、骨を砕いたせいで、棍棒が地面に突っ込む。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーッ」
斧持ちが仕返しとばかりに、突撃してくるが、拓斗は見切りすれ違いざまに胴に一閃。斧持ちが膝をつく。
オークキング、オークジェネラル3体に周囲を囲まれ、拓斗は次の攻撃を見計らった。
腕を砕かれた棍棒持ちが突撃し、斧持ちが最後の力で斧を振りかぶる。鉈持ちが後の先を制するつもりらしい。拓斗は鉈持ちに標的を絞り、間合いに進んで入った。鉈持ちの不意を衝く一撃をくりだそうとしたところで、膨大な魔力が迫ってるのに気づいた。
ーボッゥ!!!
拓斗の後ろから、魔力を共に高温が迫った。右は斧持ち。左は棍棒持ち。その胴体が壁となって立ちはだかる。
(回避!できないっ!)
ーバァァァッン!!!
拓斗の背中に大きな衝撃が襲った。拓斗の体が鉈持ちの腹に衝突する。
「グハッー」
拓斗の意識が遠のく。拓斗は鉈持ちと一緒に前方にはじき出された。
数舜ののち、体が意識を呼び覚ます。拓斗は、体が打ち身だらけになっているのを認識した。
(魔力を循環させてなかったらアウトだった)
リングデバイスがコメントを投影する。
:死んだ?
:生きてる?
:まじかよ
:ファイヤーボールか
:あ うごいた
:生きてるか
:はーーーー
いままでにないほど、コメントが走る。馴染みのリスナーのほかにもいるらしい。
拓斗は、オークキングとオークジェネラルを探す。
(油断した)
手負いの獣ほど怖いものはないと言うが、はたして。
鉈持ちは吹き飛ばされた衝撃でまだ昏倒中らしい。爆発の衝撃で、棍棒持ちと斧持ちは尻もちをついて、前面がやけどを負っているように見えた。
自分の体を見下ろす。砂だらけだが、装備は問題なさそうだ。直剣は手元にある。背中が若干ひりひりするが確認しようがない。
(仕切り直しだ。今の内に体勢を整え、オークキングを倒す)
拓斗は立ち上がり、直剣を握りなおす。オークキングに向かって走り出す。
「うおぉおおおお」
雄たけびを上げ、鼓舞する。同時に、オークキングから火の玉が撃ち放たれる。
連続して火の玉が撃たれ、避けた火の玉が爆発し拓斗の身を揺らす。
火の玉の一つが目の前に迫る。拓斗は、火の玉にある魔力の核を直剣で打ち払う。火の玉が拓斗を襲うが、魔力が散った火の玉はただの火だ。そこまでのダメージにはならない。
オークキングに拓斗が肉薄する。直剣を心臓部に突き刺す。だが、この程度では、致命傷にはならないと察する。直剣をそのままに腰の短剣を取り、オークキングの首筋に突き刺し割く。返しで、残り半分も無理やり斬った。オークキングの首は残るところ脊椎と4分の1であった。
拓斗は直剣をつかんで、オークキングの胴を蹴って退く。
オークキングの体が倒れ、膨大な魔力のプレッシャーがなくなった。




