002. 拓斗は準備する
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拓斗が施設に入ってから約1年、学ぶことがほとんどなくなっていた。中学1年生の終わりである。
勉強は小学校のころに塾で中学3年生まで習っていた。ダンジョンに関する知識についても習い事である程度カバーできていた。残るは、経験と実力だけである。
魔力適正が高ければ高いほど、身体能力が飛躍的に上昇する。そのため、現在の実技訓練では魔力適正で区分けされるし、実戦においても魔力適正が高い人ほどダンジョンの深いところまで行くことができる。
拓斗がいくら高い能力適正と技術をもっていても魔力適正が低いため、訓練においても実戦においても魔力適正が高い人に追いつくことはできなくなっていた。
魔力適正を向上させるには、どうすればいいのか。
(ダンジョンに潜るしかない。)
魔力適正は、魔力に順応し合うことで高まる資質である。ダンジョンが発生して50年、こちら側の世界にも魔力がある程度充満し、魔物由来の製品や魔力製品も増えた。そのため、日常生活でも魔力適正が微弱ながら上がる。それでも、より高い魔力適正に目覚めるためには、ダンジョンに潜り強制的に魔力適性を上げるのだ。
だがしかし、拓斗はまだ中学生。単独でダンジョンに潜れるのは中卒からである。現状ダンジョンに潜れているのは、対魔部の児童養護施設で引率がいるためである。
拓斗は考えた。あと2年間ここで鍛錬を続けるか、何らかの方法でダンジョンに潜るか。メリット、デメリット、リスク、リターンが頭を駆け巡る。
拓斗が出した結論は、相談することだった。
相談。拓斗がこれまでの人生で、ほとんどしてこなかった選択肢だ。この状況は、拓斗だけでは覆すことができない。幸いここは、ダンジョンのエキスパートが集う対魔部の施設。多少の融通は効くはずだ。
早速、拓斗は施設に来る対魔部の先生に相談した。
返答は、上に相談する、であった。
上からの返答は、特例で認めるとのことだった。その代わり条件が2つ付いた。1つは、ダンジョン配信をすること。これは、安否確認を含めてのことらしい。もう1つは、中卒認定試験を合格すること。
対魔部は、拓斗を対魔部訓練生とみなすことで、単独でのダンジョン探索を認めた。これなら、冒険者の規定年齢に届かなくても可能となる。
拓斗は是非もなく提案を受け入れた。
来年4月から、つまり中学2年生から適応される見込みとなった。
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そこから、拓斗は最終的な追い込み、準備をした。対魔部所属の先生からマジックバックを譲りうけ、ついでにダンジョン装備もついてきた。マジックバッグはダンジョンの入口となる異空間を魔学により解析し魔工学で再現した空間拡張機能を備えたバッグである。魔力濃度が濃くなれば、重量軽減もつく。
ダンジョン用野営用装備には、お金をかけた。拓斗は、ダンジョンから極力出ないことを決めていた。それで、大量の水をマジックバッグに入れた。ダンジョン内では、最悪魔物を食えばいいと思っていたからだ。魔力濃度によっては拒否反応が出るのを承知の上で。あとは、服はいくつかとクラフト用の道具を詰め込んだ。
クラフト、小学校で学んだ知識と経験が裏付けた拓斗の能力適正である。最先端の魔工学を学んでいるわけではないが、基礎と工作については自信があった。ダンジョン内でクラフトを行い、探索中の装備の手入れと更新を可能とする考えだ。
その他、探索と素材採取の道具を入れ、準備を終えた。
最後、得物を買いに行った。得物はとにかく頑丈で長持ちしやすく他素材と親和性のよい魔ダマスカス鋼の長剣と短剣を購入した。魔ダマスカス鋼は、魔物の魔核粉末を混ぜたダマスカス鋼をダンジョン内の魔力に長期間晒して魔力を込めたものである。魔力濃度を魔物の魔力障壁にも負けない。拓斗は、この魔ダマスカス鋼に、魔工学で培った魔導回路を表面に焼き付けた。これで、上位魔物素材の粉末をコーティングすることで剣の魔力適正をベースアップできる。
拓斗のダンジョンアタックの準備は終わった。あとはその時を待つだけとなった。
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4月2日。拓斗は新宿の第10級1番異空間の前にいた。1日はシステム更新日と対魔部への挨拶を行ったため、2日がダンジョン突入の日となった。
新宿の異空間前は、新年度に合わせて、人はまばらだった。新規冒険者は第2土曜日、日曜日に講習があるし、学生冒険者は春休みだ。ベテラン冒険者は、新年度のこの時期は、新規冒険者が増えるため、探索を控えることが多い。
対魔部協力協会、通称冒険者ギルド。拓斗は、そこで買ったミドルクラスの配信用ドローンをONにする。腕のリングデバイスで設定をいじる。
「これでいいかな」
リングデバイスから配信のコメント機能が投影される。
system:タクト(tact_0402)が配信を開始しました。
bot:ゆっくりしていってね!
「よし、行くか」
拓斗は、直径15メートルほどもある黒い異空間に足を入れる。体が異空間に飲み込まれる。
ーヌプリ
嫌な感触が全身を撫でる。1歩、いや2歩、3歩かもしれない。そう思わせるような妙な空間で、足を動かした先で、視界が広がった。
ーザワァー
一面に緑の草原が広がり、さわやかな、それでいて高い魔力を含んだ風が吹く。
この新宿異空間第10級1番は、日本最大の異空間であり、内包する魔力濃度はとても濃い。
いま、拓斗、タクトのダンジョンアタックが始まる。




