存在しない書庫
「で?探し物って?
大したものじゃなければどうなるか、わかってるわよね?」
白ドラゴはぎろりと青年をにらみつける。カジノを邪魔された恨みもあってか、少々言葉もきつい。
「あ、あの、実は…」
青年はぐっと身を乗り出すと、声をひそめた。
「存在しないはずの書庫、というのがあるのです。」
青年は重要な機密を話す如くさらに声をひそめる。
「えっ!えええっ。」
存在しないはず、などという聞きなれない言葉を聞いたフウライは目をむいて体をのけぞらせる。
「なにそれ…
面白そうじゃない。詳しく話してみなさいよ。」
白ドラゴはにやりと口元を上げると、顎をしゃくって話の先を促した。
青年はひとつうなずくと、水を口に含み、ごくりと喉を鳴らす。
「帝都にある図書館をご存じでしょうか。
それはそれは大きくて、全部回ろうとすると数か月かかります。」
青年は少しだけ自慢げに、眼鏡を直し胸を反らせた。
「知ってるわよ。見た目円形のでっかい図書館でしょ。
何度燃やしてやろうかと思ったか、わからないわ。」
その心を叩き潰すように、白ドラゴは鼻を鳴らす。
「ちょ、ちょっと、ドラゴ。」
フウライは物騒なことを言いだした白ドラゴを手で制した。
「……見た目?」
そして白ドラゴの言葉の中のおかしな点に気づいて、首をかしげる。
「最初は真ん中の部屋から、放射状に作っていったんです。
それ以上伸ばせなくなると、横に増築を繰り返して、見た目が円形になってしまったんです。」
白ドラゴの言葉にギョッとしていた青年は、少しだけほっとしながら、白ドラゴの言葉について補足の言葉を追加した。
「そこに隠し部屋があるってわけ?」
白ドラゴは続きを促す。
「いえ、隠し部屋ではないんです。そういうのはたくさんありますが、把握されています。
そうではなく、存在しない部屋がある、という話なんです。」
青年は説明しづらいのか、もどかしげな顔で手を握りしめた。
「そこには何か重要なものでもあるんですか?」
フウライは首を傾げたまま、存在しない部屋を探してどうするのか、という疑問を投げかける。
「これ以上は…引き受けて頂けるのでしたら…」
青年はそれ以上は秘密だと、口元に指をあてた。
「いいわよ。もともと帝都に入ろうとしていたんだもの。
ねえ、フウライ?」
白ドラゴはあっさり承諾すると、フウライに顔を向ける。
「うん!そうしよう。
あ、急ぎだったのはなぜなんですか?」
フウライも同意するが、最後の疑問を青年に投げた。
「帝都によそ者が入れるのは、1年のうち決まった月の5日間だけなんです。
その期限が迫っていまして…」
青年はほっとするのと同時に、再び水を口に含んだ。
「わぁ!じゃあ急がないと!」
フウライは運ばれてきた料理を急いで口にかきこむ。
「そんなに急がなくても大丈夫よ!」
白ドラゴはあわててフウライを制止するのだった。




