湖へ落ちる音
「大丈夫?歩きにくくない?」
白ドラゴは足元を見て顔をしかめ、フウライを覗き込む。
幹線道路から外れた石畳の道路は、そこまで整備が行き届いているわけではなく、ところどころ盛り上がったり欠けたりしている。
「あ、うん。このぐらい平気だよ。
山や川だともっと足場が悪いところあるし。」
「それに、村にも石畳あったけど、使わないところはやっぱりこんな感じだったよ。
ここもだけど、重要な道以外はあんまり整備されないんだねぇ。」
山村育ちのフウライは、この程度で響くところは何もないようだ。
「あぁ、あの村…
よく見ておけばよかったわねぇ。」
白ドラゴは自分を縛っていた森を思い出し、さほど興味がなかったことを後悔する。
「この辺はやっぱり、人がまばらだねぇ。」
フウライはきょろきょろと周りを見回すと、湖の方へ目を向けた。
華都を囲む壁にはところどころ窓があり、そこから湖を望むことができるのだ。
「いるのは湖を見るカップルぐらいかしら。」
白ドラゴはクスっと笑い、フウライを横目で観察する。
「湖を見ても魔物しかいないっていうし…。
何が面白いんだろ。向こう岸の景色?」
フウライはそんな白ドラゴに気付かず首をかしげ、飽きないのかななどとつぶやいた。
「そうねぇ…
あ、ほら行き止まり。」
白ドラゴはフウライから目をそらしてため息をつくと、有刺鉄線とそれを隠すように植えられた樹木を指さす。
「んん?」
と同時に、白ドラゴは眉を寄せる。
「うわぁ、すごいねこれ。とげとげがあるよ!」
フウライは初めて見る有刺鉄線に興味津々といった様子で、そのとげに指先で触れてみた。
「ちょっと、危ないわよ!」
白ドラゴは慌ててフウライを制止する。と同時に
「それ以上近づかないでください。」
華都を守る兵士が、二人に近づいてくる。
口調や歩調は穏やかであるが、有無を言わせない圧力があった。
「すみません!」
フウライは慌てて身を引くと、兵士のほうに目を向けた。
白ドラゴはフウライの前につい、と出る。
「この先は危険です。近づかない方がいいでしょう。
地図にもありましたね?」
兵士は口元に微笑みを浮かべているが、目の奥は冷たく光っている。
「立入禁止とはあったけど、その、近づくなとまでは…」
フウライはしどろもどろになりながらも、兵士を観察する。
「なら、近づいていいところまで立入禁止にするのね。」
白ドラゴはフン、と鼻を鳴らして腕を組む。
「それでもたまに立ち入ろうとする人がいるので。」
兵士は少し目を見開いて口元を引き締めたが、すぐに緩めてそう続けた。
体を横に向け、手は幹線道路へ誘うように向けられる。
「行こう!」
フウライは白ドラゴの背中を少し押すと、その横をすり抜けるように歩き出す。
「そうね。用があるわけじゃないし。」
白ドラゴは吐き捨てるように言うと、ちらりと兵士を見てからフウライに並んだ。
「あの人、兵士だよね?すごい豪奢だったね!」
しばらく歩いて兵士が小さくなった頃、フウライは目を輝かせて白ドラゴを覗き込んだ。
「あのおしゃれな服からチェインメイルが覗いてなかったら、貴族だろうと思ったわねぇ。
花と羽付きのベレー帽だなんて。」
フフ、と笑いながら白ドラゴは口元に手を当てる。
「さすが華都だねぇ。」
フウライは感心するとともに、興奮しながら腕を組んでうなずいた。
「だけど、あそこ何だったんだろ?」
そして、樹木で見えなかったその場所を思い出し、首をかしげる。
「あぁ、あそこは人を処刑する場所みたいね。」
真顔になった白ドラゴは、とんでもない単語をさらりと口にする。
「え!?は!?しょ!?」
フウライは目を白黒させながら、白ドラゴに体ごと目を向けた。
「湖に人を投げてる音が聞こえたわよ。
…湖の魔物に始末させてるんでしょうね。」
白ドラゴは考えるわねぇなどと言いながら、感心している様子だった。
「処刑されるほどひどいことって、どんな罪を…」
フウライは想像力を働かせるが、そこまでの罪と言えば人を殺すぐらいしか思いつかない。
「そうねぇ…罪人とは限らないんじゃない?何かの邪魔だったり、権力闘争だったりね。
こういうところにはありがちなのよ。華やかさにある暗い部分ね。」
白ドラゴはおおいやだとばかりに首を振った。
「そっか…」
フウライは興味を示したことを少しだけ後悔しながら、目を伏せる。
そしてそれ以上、何も言うことはなかった。




