華都の時計塔
橋の往来は、胸を弾ませて華都への道を足取りも軽やかに進んでいく人で溢れている。
華まつりに参加するのか、大小さまざまな花束を持ったり、花冠をかぶったりと色もにぎやかだった。
「ひゃぁー、華都、遠いねぇ!それに、橋、結構広いんだね!」
一般橋の前に立つフウライは、手を額に当て爪先立って華都や道行く人に目を向ける。
「ふふ、可愛らしいわねぇ。」
白ドラゴはフウライを見ながら、口に手をあてた。
可愛らしい、のはフウライの黒い癖っ毛に止められたたんぽぽの髪飾りだ。
「だって、花がいるんでしょ…」
フウライは口をとがらせる。
花束を持って歩くのは面倒、花冠はちょっと…で選ばれたのが髪飾りだった。
「そうねぇ…でもブローチもブレスレットも嫌なんでしょ?」
白ドラゴが腕を組んで、首をかしげる。
その首には鎖につけられた胡蝶蘭のチャームが揺れている。
「うん…ネックレスがあるしさぁ。」
フウライは一角ウサギの角のネックレスを指先でつまんだ。
「お待たせしました。」
橋の入り口で手続きを終えた宝石職人が、二人に声をかけた。
「華まつりでいつもより華都への人が多く、手間取りました。」
そして、にっこりと微笑むと、華都への道を歩き出した。
「そういえば、説明書きにあったけど湖には魔物がいるって。」
フウライは橋の欄干から湖を覗き込む。
「ええ、普段は姿を見せませんが、人が落ちたりすれば、たちまち引きずり込まれてしまいます。
近づくだけで引きずり込まれることもあるので、気を付けてくださいね。」
宝石職人は少し眉根を寄せる。
「ひえっ。魔物がいるんだ。」
フウライはそういいながらも、どんな魔物がいるのかと興味をそそられたように目を輝かせた。
「魔物なんか、どこにだっているでしょ。
人間だってどこにでもいるじゃない。」
面白そうに白ドラゴがまぜっかえす。
「そりゃそうだけどさ…。」
フウライは確かに、とも思うが少し頬を膨らませた。
橋の中ほどまで来た時、フウライはふと華都から突き出ている塔に目をむけた。
大理石のような材質でできた塔は色とりどりの花をらせん状にまとい、優雅にたたずんでいる。
「あれ、塔のてっぺんは時計があるんだね。」
フウライが指さす塔のてっぺんは、青の入った透明なガラス状の壁で覆われ、中に時計が見える。
「華都のシンボルなんですよ。
…あの時計はどの方向から見ても時計が見えるんです。」
宝石職人は言葉を選びながら塔について説明するが、フウライはきょとんとするばかりだった。
「懐中時計を横から見たら、時計の横しか見えないわよね?
正面の針は見えないでしょ?」
白ドラゴがかみ砕いた説明を試みる。
「あ、うん。」
フウライは懐中時計を思い出しながら、よく考えるためなのか少しだけ首をかしげた。
「でもあの時計は横から見ても正面の針に見えるのよ。」
白ドラゴは説明終わり、とばかりにパン、と両手を叩く。
「…!
つまりどの方向から見ても正面ってこと?」
その説明にハッとしたフウライは、指を立てると白ドラゴに勢いよく顔を向けた。
「そう!そうなのよ。」
白ドラゴはわが意を得たとばかりに胸を反らし、うなずく。
「中の時計自体は普通の時計なんです。
でも、あのガラスのような石が四方から正面に見せる役割を果たしているんですよ。」
隣では宝石職人がにっこりしながら、同じようにうなずいていた。
「石の力かぁ…」
フウライは感心しながらも、その石の能力が失われたらどうなるのか考えずにはいられないのだった。




