華まつりまであと三日
柔らかい太陽の光が窓から差し込み、フウライの顔を照らしだす。
宿ではすでに多くの客が動き出している時間だ。
食堂から漂ってくるのか、宿全体を朝食の香りが包んでいた。
「んんん…。」
フウライは窓から差し込む光から逃れるように寝がえりを打つ。
「ちょっと、いい加減起きなさいよ。」
カーテンを開けて太陽の光をフウライに誘導していた白ドラゴは、呆れたように眉尻を下げる。
「ふあ…もう朝なんだ。」
華都を照らす華々しい光に興奮し、なかなか寝付けなかったフウライはあくびをしながらのろのろと体を起こした。
「大丈夫なの?疲れてるなら、今日一日宿で休んでからでも…」
そんなフウライの様子に、白ドラゴは今度は眉根を寄せる。
「いや、大丈夫!元気だから!」
活動する方が好きなフウライは、慌ててベッドから飛び降りた。
ぐぅ~
とたんにフウライの腹も活動を開始した。
「ふふふ。大丈夫そうね!じゃあ食堂に行きましょうか。
さっき宝石職人さんが来て、食堂で待ってるって言ってたわよ。」
白ドラゴはその華奢な手を口に当てると、そのままドアの方へ顔を向ける。
「わかった!」
フウライは支度を整えつつ、今日起きるであろうことに胸を弾ませた。
――
「私たちが渡るのは、一般橋です。」
宝石職人は、華都への橋を説明しつつ、食後のコーヒーを手に取る。
「あ…そうなんですね。」
自動で動く歩道に乗ってみたいと思っていたフウライは、いささか肩を落とした。
「運搬橋も使えますが、危険なので立ち止まっていないといけないし、すぐ飽きますよ。」
宝石職人はフウライの心を読み取ったかのように微笑む。
「旅ってのは自分の足で歩くものだしね。」
白ドラゴは、フウライにウインクしてみせた。
「む……そっか…。そうだよね!」
フウライはじっと立っている自分を想像してブルリと身震いすると、残念な感情を振り払った。
「そうだよなぁ…立ち止まったり、あっちに行ったりいろいろ見たいし。」
フウライはそんなことをブツブツといいつつ、朝食のスープを掬いあげる。
「あと三日で華まつりが開催されます。私はそれまでに五色連鎖装を完成させなければなりません。」
宝石職人は、緊張した面持ちで宝石の入った袋を見つめる。
「ご、ごし…?」
フウライは聞いたことのない言葉に、目を白黒させる。
「ごしきれんさそう、ね。手につける装飾品よ。
5つの指輪と腕輪が繊細な鎖で繋がってるの。」
その言葉を受け取った白ドラゴが答えた。
「難しいのよ。正しい石をはめないと崩れるし、
正しくても1つはめたら制限時間内に全部はめないと石もろとも全部崩れるし。」
白ドラゴは顔をしかめながら、新鮮なマンゴーをつまんだ片手を振る。
「石もなの?」
フウライはさらに目を丸くする。
「そう。それがその装飾品の難しいところなのよ。
ま、宝石職人の腕の見せ所ってところなんでしょうね。」
白ドラゴは手に持ったマンゴーを口に運びながらも、なぜか少し胸を反らした。
「そうなんです。有機物からできた石は100年ももちませんから、所有するのも難しいんですよ。
……私がそれを作れるのは、とても名誉なことなんです。」
宝石職人は宝石を仕舞うと、決意をにじませて顔を上げる。
「100年しないうちに、崩れてしまうってこと?」
そもそも崩れるとは?と考えるフウライは肉を切る手が止まる。
「そうね。石が崩れたり違う石をはめると土台まで崩れてしまう…
不思議な装飾品よねぇ。」
白ドラゴはフフ、と笑いながら白いナプキンで口を拭った。
「だからこそ、追い求めるんでしょうねぇ。」
そして白ドラゴは小さなため息をつく。
「ぼくにはわかんないや。」
そんなことをいいながら、フウライはいささか乱暴に肉を口に放り込んだ。




