青い炎
「ひゃー。近くで見るとまたでっかいねぇ!」
フウライが2,3人いればようやく抱えられるであろう幹、大きく張り出した枝には無数の白い花が誇らしげに咲いている。
いつの間にか戻ってきた風にゆらゆらと揺れ、得も言われぬ芳香を放っていた。
「わぁ、とってもいい匂い!花まで大きいんだねぇ…」
フウライは、先ほどの臭いをかき消すような白い花をうっとりとながめる。
「花はハクモクレンに似てるけど、こっちのほうが大きいね。
僕の手ぐらいあるんじゃないかな。」
フウライは一番上の兄から教えてもらった木の名前を披露し、手のひらを広げ風に揺れる花に向ける。
「ああ、この花は一年中咲いている。
…そういう意味でも普通ではないな。」
ドラゴは言葉少ないが、木に関する情報を記憶の底から引きずり出した。
「多分この花に秘密があるんだろうね。
花と言えば青い花はつぼみだったけれど…。」
フウライは、これにはどんな秘密がなどとぶつぶつつぶやきながらも、花を見て回る。
「上の方だったら見えないよねぇ…」
手を額にかざし、背伸びをするがフウライには木のてっぺんを見ることはできない。
「ふふ。木に登ってみたらいいんじゃないか?
…なんなら鎖は伸ばしてやろう。」
ドラゴは鎖を伸ばすため、首を振る準備をし始めた。
「わ、久しぶりだな。登ってみてくる!」
そういうとフウライは念入りに準備体操をした後、木の幹に飛びつく。
スルスルと登ると左に右にと移動し、何か変わったものがないかと目を凝らす。
てっぺんまで登ってしばらくきょろきょろと見回した後、ため息とともにスルスルと下りてきた。
「何もないみたい。」
フウライはドラゴのそばに戻ると、がっくりと肩を落とす。
「はぁ~。せっかく登ったのに…」
そばにある石に腰を掛けたフウライは、静かにたたずむ大木を見上げた。
久しぶりに木に登った疲労のせいか、瞼が下り開いた眼は半分ほどの細さになっている。
「あっ!んんん?」
その目をぱっちりと見開き、フウライは驚きの声を上げる。
目を細めたり開いたりと動きはいそがしかった。
「どうした?」
白をまとって水やおやつでも出すべきかと思案していたドラゴは、フウライの見ている方に顔を向ける。
「あそこなんだけど、目を細めてみるとピンクの花があるんだ!」
フウライは目を細めて指をさす。
そのさきには色の違いがわかるかわからないほどのピンクの花が、楽し気に揺れている。
「ほう、見つけたか。」
ドラゴはにやりと笑うと、その花の方へ向かう。
「我は木には登れんのでな。…来るか?」
ドラゴは翼を広げると、フウライに背を向ける。
「うん、もちろん!」
フウライはいそいそとドラゴの背に乗り込んだ。
ドラゴはゆっくりと翼を動かすと、件の花のもとへと近づいていく。
「この花は普通の炎では石の姿を現さないのだ。」
そういうと、大きく息を吸い込み青い炎をピンクの花に吹きかけた。
青と混ざったピンクの花は紫に姿を変えながらくるくると根元まで縮まっていき、しまいには石になって根元から外れ、ころり、と転げ落ちていった。
「わぁ…複雑なんだね。」
フウライはドラゴの背から飛び降りると、湿原に落ちた小さな紫の塊を指でつまむ。
ふわり、とかすかな芳香がフウライの鼻をかすめて行った。
「紫の石はなかなか取れないのだ。
あのガマガエルもだが、青い炎を作るのも魔法がなければ人間には無理だろう。」
ドラゴはフウライの指に挟まれた紫の塊に、満足そうな顔を近づける。
「あの宝石職人さんは、とっても幸運だったねぇ。」
フウライは肩をすくめると、僕もだけど、と付け足した。
「そうだな。さ、石もそろったし帰るか。」
ドラゴは紫の塊を仕舞うフウライを促し、背を向ける。
フウライはその背に乗り込むと、ドラゴは大きく翼を羽ばたかせるのだった。




