飴玉みたいな宝石
「宝石ってどこにあるんだろう。岩石の中にはないって言ってたよね。」
フウライはぐるりと見渡すと、首をかしげる。
周りに散らばる岩は、そんなフウライに対して何も語りかけてこなかった。
「川や湖の近くに転がっているのかもしれんな。」
ドラゴは湖の近くの砂利に目を向けるが、それらしきものは見当たらない。
二人はしばらく湖の周りを歩いたが、太陽に温められて生ぬるくなった風を浴びる以外の収穫を得ることはできなかった。
フウライはフゥと一息つき、大きめの岩に腰を掛ける。
「色は関係あるのかな。5色だし、もしかしてドラゴンとも関係があったり?」
フウライは食堂での白ドラゴの言葉を思い出し、かすかな望みとともに、ドラゴの顔を覗き込んだ。
「……聞いたことはないな。」
ドラゴは少しだけ考えたが、ドラゴンとの関係を否定する。
「うーん…本当に雲をつかむような……んん?」
フウライはいささかがっかりしつつも湖のそばで咲き乱れる、青い花に目を向けた。
「どうした?」
ドラゴはフウライの目線の先に顔を向けるが、そこには青い花が咲いているだけだ。
「あそこ、花が咲いているでしょ?」
フウライが指をさしたのは、青い花が咲いている場所の一角だった。
「そうだな。だが、特に何も感じないが…」
ドラゴは注意深くそれらを見るが、魔物の気配もないし、ドラゴンが何かしたという痕跡もないようだった。
「一つだけ、つぼみがあるんだよ。」
フウライは静かに立ち上がると、指さしたほうに足を進める。
そのまま一つの花の前で立ち止まると、そう言ってつぼみを指さし、ドラゴに顔を向けた。
ドラゴがその指の先を覗き込むと、青い花が咲き乱れる中のつぼみがポツンと所在無げに揺れている。
「なんでかな。」
フウライはつぼみを右から左から眺めるが、他の花と違うようなところは見つけられなかった。
「……温度が足りないのかもしれん。」
ドラゴはしばし頭をかしげると、ふと思いついたように顔を上げる。
「温度?」
フウライは同じ条件なのに、そんなことあるのかなと腕を組んでつぼみを見つめる。
「まぁやってみるさ。」
ドラゴはそういうと少し息を吸い込み、フゥ、とつぼみの上空に優し気な炎を送る。
「あっ!あああぁっ!」
フウライは目を丸くし、つぼみだったその花を見つめる。
「ほんとに温度だったなんて!」
フウライは開いた花と胸を反らすドラゴと、交互にまなざしを送る。
「それに!見て!ここ!こんなとこにほうせ…き…」
開いたその花の中に、指先程の青い宝石がちょこん、と乗っているのだ。
だが、フウライの語尾はなぜか消えていった。
「んん?どうした?」
ドラゴはその宝石を覗き込む。
「んん、あ、えと…思ったよりキラキラしてないなって…」
キラキラ好きなフウライは、見つけた喜びはあるものの、少しだけ肩を落とす。
花から生まれた宝石だからなのか、固さはあるが透明感はあまり感じられない。
「なんか飴みたい。」
フウライは、指に挟んだ宝石を眺めながら、フウ、とちいさくため息を漏らした。
「食えないぞ。」
ドラゴは顔をしかめ、フウライが食べるのを阻止する。
「そんなに食いしん坊じゃないよぉ。
宝石だと思ったけど、これでいいのかな。」
プゥと頬を膨らませ、宝石職人から預かった保存用の袋にしまう。
「岩にないならそれなんだろう。見つからないはずだな。
…違ったら違ったときのことよ。」
ドラゴはそういうとにやりと笑った。
「ふふ。そうだね!じゃあ次は緑の花かな。」
宝石を見つけて気をよくしたフウライは、次の花を探すためこじんまりとした森へ足を向ける。
「花とは限らないのではないか。」
ドラゴは少しだけ眉を顰める。
「えーそれじゃ困るよねぇ。
…花であることを祈るよ。とにかく探してみよう。」
フウライはいささか肩を落としたが、すぐに気を取り直し顔を上げた。
風の通りにくい湿った森をしばらく歩いたが、緑の花どころか花自体見つけることができなかった。
「ないねぇ…花じゃないのかな。
それとも、森の中じゃないのかも。」
フウライは切り株に腰かけ、頬に手をあてる。
「フウライ、あの木の影なのだがな。」
ドラゴはその木のほうに顎をしゃくる。
「ん、なんかあった?」
フウライはパァっと顔を輝かせ、木のほうに足を進める。
「きのこ。」
緑のキノコがいくつか生えている。フウライは少しあきれたようにドラゴに視線を送った。
「そうだ。キノコだ。一つだけ、つやがあるだろう。」
ドラゴはそのキノコに顔を近づけ、フウライに顔を向ける。
「あ、本当だ。湿気を保つためかな?
でも、他のはつやがないね。」
フウライはキノコを見比べ、ドラゴに不思議そうな目を向ける。
「そこで、だ。」
ドラゴは少しだけ息を吸い込むと、そのキノコの上に優し気な炎を送った。
つやを作っていた粘膜が一か所に集まっていくのを、フウライは目を丸くして見つめる。
そうして集まったそれは、緑の宝石を形作った。
「ね、これって宝石…?」
フウライは眉根を寄せ、つまみ上げた緑の宝石を手のひらに転がすのだった。




