湖畔の準備
朝の光を受け、きらめいた赤い鱗におおわれた大きな翼をゆっくり羽ばたかせて、フウライを乗せたドラゴが下りてくる。
フウライは慣れた様子で飛び降りると、額に手を当て辺りをぐるりと見渡した。
「わぁ、見晴らしがいいねぇ。この高さなら半日くらいかな。」
フウライは見つかるといいな、などいいながら準備運動に余念がない。
「左は森と湖、右は岩場やら洞窟やらだが…どっちへ行く?」
ドラゴは左に体を向け、次に右に体を向け、最後にフウライに体を向ける。
「ん-…左にしよっか。
おやつ用の木の実とか取りたいし、お昼用に魚を取ったり水汲んだりしたい。」
フウライは少し目線を上げて考えた後、顔を輝かせてドラゴを見つめる。
「………そうだな。」
ドラゴは宝石探しの話を一切しないフウライに、ややあきれつつも同意した。
いずれにせよ宝石を探すのはフウライの"準備"が整った後になるんだろう。
空を仰ぎつつそんなことを考えるのだった。
森に足を踏み入れると、小さな湖を渡る冷たい風が、汗ばんだフウライの顔を流れていった。
「ひゃぁー。水があると涼しいねぇ。」
フウライはさわやかな風に身をゆだねつつ伸びをする。
ついでに見渡すと、赤い木の実に目を付けた。
「あ、ドラゴ、あれ果汁がたっぷりでおいしいんだよ!」
フウライはそちらに小走りしつつ、ドラゴのほうに顔を向ける。
「うむ、我は肉汁たっぷりの肉のほうがいいんだがな…」
ドラゴは少し渋い顔をしながらも、同じように小走りでフウライに続いた。
「そっか、果物は白ドラゴだもんね。」
フウライは最近出ずっぱりだった白ドラゴを思い浮かべる。
「干し肉でももらってくればよかったかな。」
フウライは食料を持ってこなかったことを、少しだけ後悔した。
今回は現地調達するつもりで、お弁当を持ってきていなかったのだ。
「まぁ、気にするな。肉がなければ白くなればいい。」
ドラゴはなんてことはないのだ、というように翼を少し広げる。
「そっか…でもごめん。考えてなくて。」
しょんぼりと肩を落とすフウライだった。
「気にするなと言ってるんだ。
このままだと手もないし、白くなった方がいいのだ!」
ドラゴはしょんぼりしたフウライに自分の発言を後悔し、さらに翼を広げた。
同時に、自分を気にかけてくれる人間がいるということに、妙な感覚も覚えたのだった。
「うん、魚も探さないといけないしね!
そのあと、宝石探しだね。頑張ろう!」
フウライは笑顔をドラゴに向けると、ドラゴの背を使って赤い実をいくつか取った。
「ナッツ系の木の実も欲しいなぁ…」
赤い実を袋にしまったフウライは、さらに辺りを見回す。
イガにくるまれた木の実がなっている木がいくつか見える。
「うーん…あれ焼かないと食べれないんだよね。」
フウライは渋い顔をしながら、その木の実を却下した。
「我が焼いてもいいんだぞ?」
ドラゴが進み出る。
「イガごと焼けそう。」
フウライはパァっと笑うと、試しにとイガの実を1つだけ取った。
ドラゴは地面に置かれたイガの実に、フゥ、と慎重に火を吹きかける。
パチン、とイガがはじけ、中の木の実が顔をのぞかせた。
「わぁ!本当にできたね!」
フウライは目を輝かせて木の実を取り出すと、試しに、と恐る恐る口に運ぶ。
「ホクホクしてておいしい。普通に焼くよりうまみがギュッとしてる!」
驚きに目を丸くしながら、木の実を見つめ、ドラゴに視線を移した。
2粒あった木の実の1つをドラゴの口元に差し出す。
「そうだろう。」
そうなるとは知らなかったが、ドラゴはとりあえず胸を張り、差し出された木の実を口にする。
うまいことが分かった二人はいくつかイガの実を焼き、その実を袋に入れた。
「さて次は…」
魚だ。フウライは湖に目を向ける。
「僕、湖での魚とりは得意だと思うよ!」
川での失敗を覚えているフウライは、今度こそ、と意気込む。
「ほう、どうやってとるんだ?」
興味がわいたらしいドラゴが、質問を投げかける。
「岩場に追い込むんだよ!見てて!」
走り出すフウライに、ドラゴが慌てて首を左右に振り、鎖を伸ばす。
ザブン、と湖に飛び込むと魚の群れを浅瀬の岩場に追い込んでいく。
そっと近づくと、逃げられなくなった魚を手づかみで掬い上げた。
「ほら、見て!」
得意げに両手に魚を持ち、ドラゴにその手を振って見せる。
取った魚は木の枝にさし、ドラゴが焼いていった。
「よし、あとは水を汲んだら準備完了。」
フウライは満足げにうなずくと、水筒に水を汲む。
「じゃ、宝石を探そうか!」
フウライはふぅと息をつき、水筒の栓を閉めるとドラゴのバッグにしまい込んだのだった。




