優しき院長と、黒の宝
目元に優し気な皺を刻む男性が、街はずれの廃屋の中にたたずんでいる。
きちんと止められたベストのくるみボタンには、金の鎖マークが飾られていた。
「こちらに出てくるのでしょうか?」
脇に控えた女性が、この場所に似つかわしくない、優しい声で男性に問いかける。
「ええ、この出口を指定しましたから。
…子供の様子はどうですか。」
男性の優しげな声の中には、少しだけ不穏なものが混じっているようだった。
「はい、乱暴な冒険者にすり替えられたのだと説明しておきました。
納得しているのか…いまは落ち着いています。」
気づかわし気に答える女性は、せわしなげに手をさする。
「そうですか。大変な役目を背負わせてしまいました。
ですが、これも大義のため。そのうちわかってくれるでしょう。」
男性はため息をつき、空を仰ぐ。
「私たちが導けばよいのです。
他の子供たちと一緒にいれば、すぐになじむはず。」
男性は目元の皺をさらに深く刻み、女性に顔を向ける。
「そう…そうですね。」
女性はほぅ、と息をつき同じように口元に笑みを浮かべた。
そして、孤児院にいる子供たちの夕食を考えるのだった。
――
迷宮の最奥では、二人の男性がぼんやりと壁を見つめている。
かっちりと壁にはまったそれは、見る者を吸い込むような黒い渦を刻み込んでいた。
「おい、ぼんやりしてる場合じゃねぇぞ。」
気を取り直した男性は、もう一方の男性の方を小突く。
「おっと…。なんだろうな、この感覚。」
小突かれた男性はブルリと身震いをし、持っているハンマーを振り上げる。
何度か周りを削ると、ころりとその黒い宝が転がり落ちた。
「よし。これで役目も終わりだな。」
男性はふ、と片頬を上げると、黒い宝を拾い上げて布にくるむ。
「院長、喜んでくれるといいな。」
ハンマーの男性は優し気な男性を思い出し、口元を緩ませる。
「あたりまえだろ!
さ、早く帰ってチビ達と遊んでやろうぜ。」
布にくるんだ宝を懐にしまい、ハンマーの男性の肩を再び叩いた。
そうして二人の男性は、院長の待つ出口へ向かったのだった。
後に主を失ってぽっかりと空いた穴と、安らぎを失った魂だけが残っていた。




