呪いの終わりと、目覚め
「扉の中から何か聞こえたら外なのでは?」
フウライはいいことを思いついた、とばかりに目を輝かせてドラゴに顔を向ける。
「扉から出るまでは何も聞こえんな。」
ドラゴはにべもなく返すと、フウライに扉を開けるよう促した。
「そっか、出口ならかえって聞こえないのか…」
がっくりと肩を落としたフウライは、いくつ目かの扉を開く。
暖かい空気と緑の匂いが流れ込んでくる。鳥のさえずりが耳に心地いい。
「ふわぁー!やったー!出たね!」
その空気に身も心も緩んだフウライは、両手を上に体を伸ばす。
「そうだな。だがまだ領主の館に行かねばなるまい。」
ドラゴは、まだまつわりついている澱んだ空気を振り払うように翼を広げた。
フウライはその背にいそいそと乗り込むと、ドラゴはゆっくりと翼を動かし、領主の館へ向かったのだった。
領主の館では、半ばあきらめ気味な執事が窓辺から門を覗き込んでは首を振っている。
――やはり今回もだめだったか
もしくは、厄介とばかりに逃げてしまったかもしれない。
依頼したのは何日も前になるのだ。
がっくりとうなだれる執事に、門番をしていた兵があわただしく駆け寄ってきた。
「も、戻ってきました!」
番兵も信じられないのか、目を丸くして唾を飛ばさんばかりだ。
執事はその言葉にはじかれたように、門へ向かう。
門番が拝まんばかりに頭を下げ、二人を迎え入れているのが見える。
「あ、執事さん!持ってきました!」
フウライは走り寄る執事を見ると、満面の笑みを浮かべる。
「お二人ともご無事で…
すでに数日たっているので、まさか…と…」
執事は涙を浮かべんばかり、額に当てた手が少し震えている。
「え!?数日!?」
フウライは目をむいてのけぞる。
「そ、そういえば明るい…ね…。」
彼の感覚では、出かけてせいぜい半日といったところだからだ。
迷宮での腹ごしらえも一度したぐらいだった。順当にいっても夜のはず。
「ドラゴ、なんでかな。」
フウライはドラゴに目を向ける。
その言葉を受けてふわりと白をまとった。
「あのねぇ、なんでも知ってると思わないでよね。」
少し顎をあげ、フンと鼻を鳴らす。
「うーん…最初に階段を登ったでしょ。
あれ時間のトラップもあったんじゃないかしら。」
白ドラゴは小さな手を組んで、首をかしげて考えた。
「予想でしかないけどね。」
そういいつつ、バッグから赦しの灰の入った袋を取り出す。
フウライはなるほどうなづいている。
「あんたねぇ、入れ物ぐらいよこしなさいよね。」
その袋を執事に渡しながら、白ドラゴがクレームをつける。
「あぁっ、も、申し訳ありません…。
ありがとうございます。これで…」
心労なのか、執事はミスにうなだれつつ小袋を受け取る。
それでも主人を救う灰の入った小袋を見つめ、ほおを緩めた。
「申し訳ないのですが、立ち会って頂けますか。」
少しだけ不安の色を浮かべ、二人を見つめる。
「仕方ないわねぇ…」
白ドラゴはフウライを見ると、フウライもうなづいたのだった。
「では」
領主の寝室で、執事が小袋を開け、その手に灰を掬いとる。
そばでは医者が見守っていた。
細かな白いその灰を、慎重に領主の顔の上からまんべんなくいきわたるように落とす。
す、と吸い込まれるように領主の体に入るとすぐに、領主の瞼がピクリと動くのが分かった。
執事は慌てて医者に小袋を渡し、妻と娘にも灰を落とすよう命じる。
「旦那様!」
領主の瞼が開くと、執事は感極まったように領主の手を取った。
「うむ、よく働いてくれた…」
眠っていても意識があったのか、かすれた声で領主が答える。
「ドラゴ、よかったねぇ。」
フウライは白ドラゴの手を取り、自分のことのように喜んでいる。
「うわぁあん!
う、動けないぃ…!怖いいぃ!」
起きるなり泣き出した娘に、領主とその妻がよろよろと駆け寄った。
抱き合う三人を見て、執事はもちろんのこと、フウライも少し目を潤ませる。
「よかったわね。
それじゃ、我々はお礼を頂いて退散しましょうか。」
白ドラゴがその感動を断ち切り、執事に報酬を要求した。
「お、お待ちください。
恩人をそのまま行かせるわけには…
どうか2,3日だけでも屋敷にご滞在ください。」
執事は慌てて二人を引き留める。
「ドラゴぉ、少しゆっくりしていこうよ…」
迷宮の後遺症なのか、少し疲れた様子のフウライもしばらくの滞在を望んでいるようだった。
「あら、気づかなかったわ。
そうね、少し休んだ方がよさそう。」
白ドラゴは、慌てたようにフウライの肩に手を乗せ顔を覗き込む。
「顔色もよくないわね。
何か食べたほうがいいかしら…」
そういうと、執事のほうに顔を向ける。
「こちらへ!」
執事は二人を食堂へ案内するべく、慌てて扉の方へ足を踏み出したのだった。




