迷宮の果てと、白い灰
フウライは大きく息を吸い込み、残った恐怖と一緒にゆっくりと吐き出した。
「さ、いこっか!」
まだぎこちなくはあるものの、笑顔を作ってドラゴに向ける。
「少し休んでもいいんだぞ。」
ドラゴは、フウライの足にまだ少しだけ震えが残っていることに気が付いていた。
「平気だよ!遅くなっちゃうし。」
フウライは大丈夫、とばかりに両足で飛び跳ねる。
「いいか、無理するんじゃないぞ。
無理をすれば、それは自分に跳ね返ってくるものだ。
ダメだと思ったらすぐに――」
白ドラゴかと思うほど饒舌なドラゴに、フウライは目を丸くする。
「うんうん、わかった!わかったよ!」
フウライは両手をばたつかせ、それ以上の小言を遮る。
ドラゴは一つ小さくため息をつくと、フウライを背に乗せ、次の階へ降りて行った。
「前の階にはいなかったから、ここなのかな。」
地下三階に降り立ったフウライは手を額に当て、背伸びしつつ廊下の奥に目を向ける。
「うむ、部屋の中にはいないだろうからな。」
そういうと、ドラゴは歩き出そうと足を前に出す。
「え、なんで?」
フウライが素朴な疑問を投げかける。
扉は確かに全部閉まっていたが、もしかすると誰かが命を懸けて閉じ込めたかもしれないのだ。
「アンデッドがいる音が聞こえないからな。」
ドラゴは何でもないことのように、さらりと返す。
……そうだった
ドラゴは地獄耳だったんだっけ…
そんなことをフウライは思い出したのだった。
何体かのアンデッドを片付け、先に進むと広間のような空間が広がっていた。
向かってくるアンデッドを燃やしたその時、奥の方で何かがキラリと光ったが、フウライはそのことに気づかなかった。
それよりも、残っているアンデッドたちが影を残して消えていくのを、体を前後左右に向けて見ているばかりだった。
全てのアンデッドが消え去ると、最後に燃やしたアンデッドのいた場所に目を止めた。
そこには、一握りほどの白い灰が姿を現していた。
「あ、あれかな。」
フウライは息で吹き飛ばしてしまわないよう、小声でドラゴにささやく。
ドラゴもその意思を受けたのか、ゆっくりとうなづいた。
そこでフウライは重大な問題に気づく。
「ドラゴ…
あれ…何に入れる…?」
執事は慌てていたのか、容器を渡してくることがなかったのを思い出したのだ。
ドラゴはしばらく考えると眉間にしわを寄せ、ふわりと白をまとう。
「宿場町で買った飴の袋があるはずよ。
そこに入れれば…まったくあの執事…!」
白ドラゴは自分も忘れていたことを棚に上げ、執事だけを責めて舌打ちをする。
ぶつくさいいつつもバッグから小袋を取り出し、フウライより繊細な手を持つ白ドラゴは慎重に灰を掬い上げる。
「ふぅ。これでいいわね。」
満足げにうなづくと、赦しの灰の入った小袋をバッグにしまった。
「よかったぁ…」
フウライは盛大にため息をつき、顔をほころばせる。
「早く帰ろー…
迷宮はもういいや。」
珍しい宝はもうどうでもよくなったらしいフウライは、帰宅を宣言する。
「残念だけど、珍しい宝はなさそうねぇ…。」
白ドラゴは奥の壁に眠る、黒い宝から目をそらす。
「そういえば、出口は入口じゃないんだよね?」
フウライは入口から出られないことを思い出す。
「そうね。
この階のどこかの扉を開ければそれが出口なんだけど…
出るところによっては屋敷から遠くなるわね。」
大した問題でもない、というように白ドラゴが答えつつ赤をまとう。
「我が飛べばどこへ出ようと大した問題でもなかろう。」
ドラゴはそういうと、翼をゆっくりとばたつかせる。
「それじゃ、出口探しをしますか…」
いささかうんざりしたように、フウライは肩を落とすのだった。




