炎と、燃えぬ者
ドラゴの前には、人間の色を失ったアンデッドが揺らめいていた。
「ひ、ひえ…」
フウライは腰を引きながらドラゴの陰に、頭はしっかり出しつつも身を隠す。
魔物とは何度か対峙しているとはいえ、初めて見るアンデッドはまた格別だ。
ドラゴの気配を感じたのか、アンデッドがこちらを向く。
次の瞬間、咆哮を上げドラゴに飛びかかった。
ドラゴは少しだけ体を引くと息をため、アンデッドがたどり着く前にその息を吐きだした。
吐き出された息は暗い霊廟を照らす程の火の柱となって、アンデッドを包む。
その光の中、アンデッドは影となりついには消えていった。
「ふん…
こいつではなかったようだな。」
ドラゴはアンデッドが消えていった虚空から目線を外す。
「ほんとに消えちゃうんだね…」
フウライはドラゴの後ろから、丸くなった目をのぞかせている。
「全部燃やさないとだめなのかな…」
フウライはその目を少し細め、眉根を寄せる。
「呪いの本体を燃やせば全部消える。心配するな。」
そういうと、ドラゴは顔をフウライに向けて目を細める。
「まぁ、何体かは燃やさなければならないだろうがな。」
ドラゴが顔を前に向けると、その先に何体かの影が揺らめいていた。
そのままアンデッドを倒しつつしばらく進むと、下り階段が姿を現す。
「ここは普通の階段だね…。
地下何階まであるんだろ。」
ドラゴの後ろから顔をのぞかせつつ、階段を見つめる。
「三階までだな。
…かわっていなければ、だが。」
ドラゴは霊廟だった頃の情報を思い出しつつ、耳でも階層を探る。
そして、フウライを背負うと、ふわりと階段を下った。
「ずっと背負っててくれてもいいんだけどな。」
フウライは群れで襲ってきた魔物を思い出し、少しだけ肩をすくめる。
「何を言っている。自分の足で歩かねば旅ではないのだろう!
それに、アンデッドはそこまで恐ろしい物でもないぞ。」
ドラゴにお説教され、フウライはさらに肩をすくめた。
「あ、あれ!」
何体かのアンデッドを始末した後、フウライは廊下の端に咲く花を指さした。
「幸運の花、だよね!?」
ドラゴの前に出る勢いで、咲いている花の方に足を踏み出した。
「まあ、そうだな。」
ドラゴはちらりと行く先にゆらめくアンデッドに目を向ける。
――まだ大丈夫だろう
そう判断し、一緒に花の方へ向かった。
フウライは花の前にしゃがむと、前から横から花を眺める。
「きれいだねぇ。」
ユリの花に似たそれは、虹色の花びらを持ち、香りも芳醇だった。
花粉もたっぷりと蓄えているのだろう。
この花を手折って祈れば、幸運の花だ。
「祈るか?」
ドラゴはフウライの隣に立ち、顔を覗き込む。
「祈らない!」
手折った花を持ち歩いて誰かに渡すのは億劫だな、と思ったフウライは即答する。
「ハハハ!フウライらしいな。」
ドラゴは楽し気に体を反らせた。
その時――
フウライのすぐ後ろで雄叫びが響く。
ドラゴは見る暇もなく、咄嗟に尻尾で声のするあたりを薙ぎ払った。
(距離を見誤ったか)
ドラゴは舌打ちをしつつ、アンデッドに向き直る。
そこには、体がバラバラに吹き飛んだアンデッドの一部が蠢いているのが見えた。
「ド、ドラゴ、もやさない、の?」
尻餅をついたフウライは、それだけいうと、アンデッドの一部が互いをつなげるのを見守るしかなかった。
「バラバラだと燃やせないのだ。」
ドラゴはため息をつく。
「立つんだ、フウライ。奴らから距離を取らねば。」
ドラゴがフウライを促す。
そして体勢をなんとか立て直すフウライを、その背に乗せた。
アンデッドは体の一部を引きずりながらゆらめき、少しずつ距離を詰めてくる。
ドラゴはアンデッドから目を離さず、ゆっくりと翼を広げ後ろに下がった。
アンデッドの体が完成しようという瞬間、ドラゴは目を細めて動きを止め、咆哮に備える。
次の瞬間、ドラゴの口からは迷宮全体を照らす程の火柱が吐き出された。
今にもとびかかろうとしていたアンデッドは、低い姿勢のまま影となり、消えていった。
「こ、」
あまりのことにフウライはまだ言葉を紡ぎだすことができていない。
「こ?」
ドラゴはそんなことにお構いなく先を促す。
「こわかった…。
とっても心臓に悪いね…。ごめん、僕が、」
フウライは花に気を取られてアンデッドに隙を突かれたのを、気にしているようだった。
「それは我のせいだ。
あやつが見えていたのに…」
その言葉を遮り、ドラゴは眉根を寄せた。
「んん、じゃ、おあいこってことで。」
ヘヘ、とフウライは頭を掻きながら肩をすくめる。
「ふふ。
ああ、そうだな。」
顔の力を抜いたドラゴは、行く先に目を向けた。




