色の回廊
左への緩いカーブとともに続く長い廊下へ一歩踏み出した。
壁の左はガラスの窓がはめ込まれ、外を見ることができるが、安全のためなのかはめ殺しになっている。
「ひゃぁ。すごい眺め!」
「こんなに高いところに、島があるなんて!」
フウライは窓を覗き込んでは、満面の笑みを白ドラゴに向ける。
「面白いならよかったわねぇ。」
白ドラゴは暖かいものを胸に感じながら、しみじみとつぶやく。
踊るように進むフウライと白ドラゴだったが、しばらく進むと左側の壁に絵が現れた。
「あ、絵が描いてあるね。」
フウライは走り寄ると、
「えーと…青いドラゴン…かな?」
少し首をかしげながら、壁に描かれた絵を読み解く。
青い鱗を持つドラゴンが、少女と一緒に湖を覗き込んでいる絵が描かれている。
「そうね。これは青いドラゴン。」
「水を浄化しているのね。この少女が願ったんでしょう。」
今回の見学は白ドラゴの解説付きだ。
「なんだか、優しそうだね。」
実際、線の細いドラゴンが描かれている。
ドラゴの赤い姿と比較しても、線が細い、と言ってよかった。
「人間で言うと女性的、ですものねぇ。」
白ドラゴは考えつつ、人間が理解できそうな言葉に代える。
フウライはその言葉に目を丸くする。
「的ってことは、女性ではないんだね?」
理解しようと努力をしてみる。
「性別なんてない…と言いたいんだけど…」
白ドラゴは言いよどむ。
「よくわかんないのよね。」
そして最後はあっさりと白旗を上げた。
「そっか。ドラゴンはそんな感じなんだね。」
フウライはそれでもその状況をあっさりと受け入れるのだった。
しばらく二人で歩くと、思いついた、というように白ドラゴに疑問を投げる。
「青と赤と黄がいるってわかったけど…」
「他にも色があったりするの?」
何色ぐらいに分かれているのだろう、と思ったのだ。
「そうねぇ。」
「次にあそこに見えてるのが、緑ね。」
少し先の左の壁に、生き生きとした緑のドラゴンが書かれている。
「それから、黒、紫がいるわね。」
「追々説明するから。」
ちょっと考えてから付け加えた。
「ありがとう!」
フウライは少し飛び跳ねつつ白ドラゴにお礼を言うと、次の絵の前に立つのだった。
「生きてる森、って感じだねぇ。」
やはり線の細いドラゴンが、植木鉢を持つ少女と一緒に森を見上げている。
「緑を守るドラゴンね。」
「森だけじゃなくて、畑の作物なんかも守ってたらしいわよ。」
白ドラゴは地面と思われる場所に描かれた、作物らしきものを指さす。
「やっぱりこの少女が願ったのかな。」
フウライは、植木鉢を持って嬉しそうに森を見上げる少女に目を向ける。
「そうね。だから緑になったんでしょう。」
そう言いながら目を少し伏せるが、フウライはその様子には気づかなかった。
「さ、次に行きましょうか。」
白ドラゴは歩を進め、フウライは小走りで後を追う。
どんなに素晴らしい景色でも同じだと飽きるもので、そろそろあくびをするフウライ。
はっ、と顔を上げ走り寄ったのは、そんなときに見えてきた絵だ。
たくさんの星と一緒に踊る黄色いドラゴンと少年、うずくまっているが、顔を二人に向ける少年。
「楽しそうだね。ええと、神殿とこの島の主…?」
「線が太いってことは、男性的、なのかな。」
触ったりしないように、慎重に絵を眺めるフウライ。
「黄色のドラゴンは希望。
このころは確か疫病が流行ってしまって、人類が沈み込んでしまってた時期だったはず。」
白ドラゴは幼いころに聞いた物語を思い出す。
「薬と希望を与えたのねぇ。」
説明とともに、自分も楽しんでたみたいだけど、と付け加えた。
フウライに目をやると、少し居心地が悪そうにもじもじとしている。
「どうしたの?」
お腹でも空いたのか、それとも…
切り上げて村に戻ろうか、と提案しようとしたその時、
「なんか、人間の欲が深くなっていってないかな。」
ぽつり、とフウライが漏らす。
「自分で克服するものじゃないかな、と思って。」
決まり悪そうに白ドラゴに目を向ける。
白ドラゴは少しだけ目を細め、
「克服できる人ばっかりじゃないでしょ。
人間なんて、たくさんいるし強い人ばかりじゃないんじゃない?」
「ドラゴンだって、なんだって、使えるなら使えばいいのよ。」
白ドラゴは微笑みながら、顎を上げてフウライを見下ろした。
「そっか、弱い人だっているもんね。」
自分はどうなんだろうか――
ドラゴがいなかったら?旅に出ただろうか?
もしかすると、僕も欲深いのかもしれないな……
うずくまる人を見ながら、フウライは自分を納得させたようだった。
先ほどとは違った、少し重い足取りで先に進む。
見えてきたのは黒いドラゴンだ。
暗闇の中、線の細い黒いドラゴンが、眠る少年に寄り添っている。
ドラゴンは、優しく淡い少し黄色みのある白い光をまとっていた。
「わぁ、なんだか優しい絵だねぇ。」
フウライはほう、とため息をつく。
その絵を見ると、自分の心も落ち着いてくるようだった。
「黒は死の恐怖を和らげてくれる、いわば安息のドラゴンね。」
白ドラゴはさらりと解説するが
「えっ!ええっ。…死?死の?」
フウライは目を丸くし、勢いよく白ドラゴに顔を向ける。
「それだけじゃなくて、禁じられた呪いを解くとか、
そんなこともしてたらしいわよ。」
「その絵は死というより、眠りを守ってるのねぇ。」
他の機能の説明も付け加える白ドラゴ。
「あ、ええと。そうか。心身を安らかにする、みたいな?」
フウライは自分なりに、白ドラゴの解説を消化する。
「まぁ、そうね。」
間違ってはいないだろう、と白ドラゴが答える。
「だんだん、物質から離れていってるんだね。」
フウライはぽん、と手を打ち今までの絵の傾向から判断する。
「そんなもんでしょ。物質が満足すればその先は…ってことね。」
その言葉に、白ドラゴはそのとおり、とうなずく。
「それじゃ、次は何が…?」
俄然面白くなったフウライは先を急ぐ。
「体現してるわよ。」
クスリと笑いながら、白ドラゴがつぶやいた。
「あった!」
紫のドラゴンがたくさんの本に囲まれ、机に向かって椅子に座る人間に何かを教えているようだ。
「ん?…んん?学校?」
フウライは意外と学校が好きだった。
本を読むのも、何かを学ぶのも好きだったが、“やんちゃな”友達や先生はそれを良しとしなかった、という苦い思い出がある。
――外に出て、元気に遊びなさい
先生には、何度そういわれただろうか。
遊ぶのだって嫌いじゃないけど、遊びたいときに遊びたいし、学びたいときは学びたいんだよな……
そんなことを考えていると
「知識と節度を教えているのね。」
「好奇心が旺盛だからねぇ、人間てやつは。」
「知識だけ暴走させたら、何するかわかんないものね。」
白ドラゴは面白そうに絵を解説する。
「節度…きちんと学べたのかな。」
フウライはぽつりと漏らすが、その後を考えるとそうはいかなかったのかなとも考えたのだった。
「ま、無理でしょうね。」
白ドラゴはそんなもんでしょ、とさらりと返しフウライをさらにがっかりさせた。
「このドラゴンの知識は帝国が独占してるわね。」
「魔法も使ってたみたいだけど、あれは紫がいないと使えないのよね。」
「……帝国にはいくらか残ってるらしいけど。」
大魔法使いとの戦いを思い出し、苦々しく付け加える。
「わぁ、魔法!」
フウライは、目を輝かせる。
「帝国かぁ…行ってみたいな。」
魔法と聞いては黙っていられない。
「それじゃ、次は帝国めざしましょうか。」
帝国の先にある“ドラゴンの火山”を思うと少し憂鬱になったが、目標としては悪くない。
白ドラゴはフウライの好奇心を受けて提案したのだった。




