人のいない都
体験したことのない高さに、フウライの心臓は早鐘を打っていた。
「フウライ、下を見るな。」
うっかりすると下を見て怯えてしまうフウライに、ドラゴがアドバイスを送る。
「あ、そ、そうだね。」
言われるたびに上を向くが、どうにもフウライの好奇心は怯えに勝ってしまう。
どれほど昇ったのか、空都へ至る道のできる神殿も、すでに豆粒のようだ。
――あんなに小さく見えるほど昇ったのかぁ
ワクワクするフウライの心臓は、違う意味で早鐘を打っていた。
「ドラゴ、ほら、神殿があんなに小さいよ。」
顔を上に向け、見たままの景色を伝える。
「そうかもしれんが、我が下を見たら下に進んでしまうのでな。」
顔を上に向けたまま、ドラゴが答える。
「そうだった!」
肩をすくめ、自分の好奇心に負けてミスした状況の判断を、少しだけ反省する。
だが好奇心はすぐに頭をもたげる。
「降りる時って、体ごと下を向くの?」
滑り落ちたりしないかな。
鎖があるから、大丈夫かな。
でもちょっと怖いかも……
そんなことを考えながら、ドラゴに問いかける。
「…………降りる時もこの体勢だな。
…上昇気流にのるが、羽ばたきを抑えれば下りられる。」
先代に伝えられたことを思い出すように言葉を切りながら、フウライの問いに答える。
「そっか、よかった。」
ちょっとこわかったんだよねぇなどと言いながら、単純に喜んだ。
天空の島は、張り出した建物の下にぽっかりと空いた入口から入る構造になっていた。
「ドラゴは本来とても大きいんでしょ?」
「黄色いドラゴンさんは、ここから入れたのかな?」
フウライは頭をかしげながら、疑問を投げる。
入り口は小さいわけではないが、そこまで大きなものが入れるほどではないみたいだったからだ。
「黄色は我と同じぐらいで過ごしていたからな。」
壁に描かれていただろ、とドラゴはいう。
「それに、大きくなれば人間も載せてないだろうから、
上昇気流も必要ない。どこへでも好きに降りただろうよ。」
優しい上昇気流は人間のためだ、とフウライに目を向ける。
「そっか。そうだったね。」
壁に描かれた、かくれんぼする黄色いドラゴンを思い出す。
「人間が本当に好きだったんだねぇ…」
しみじみと暖かさが胸にこみあげてきたのだった。
改めて入り口を見渡すと、ウェルカムドリンクと書かれた受付カウンターのようなものが見える。
一休みするための椅子やテーブルが、所在無げにたたずんでいた。
廃墟になってもまだ美しい様子に、フウライの目が曇る。
「崩れた廃墟とは、また別の寂しさがあるっていうか…」
ただただ人がいない、という現実を突きつけられ、人間が好きだったという黄色いドラゴンに思いを馳せるのだった。
空都への出口を抜けると、白い石の敷かれた広い道が真っすぐに続いていた。空都の真ん中ぐらいだろうか、広場が見え、その中に変わった形の塔が建っている。
道の両脇には人が住んでいたと思しき住居兼店が、ぽつぽつとたたずんでいる。
反射する光が、逆にこの都に人のいないことを際立たせていた。
広い道とは別に、左右に分かれた回廊がぐるりと都を取り巻いている。
ふわりと白をまとった白ドラゴが、コホン、と一つ咳をする。
「まっすぐ行った道の先にある塔は、風の塔よ。
両脇にある建物は、ここへ来た人間をもてなすための店ね。
風の塔を超えてもっとまっすぐ行くと、宮殿。」
どうやら空都の説明をしてくれるらしかった。
「右の回廊の壁には、ドラゴンの色の歴史が書かれてるわね。
左の回廊は“まだ”何もないわ。」
「回廊はどっちも宮殿に続くけど…」
さて、どの道を行くのかしら?
とフウライの顔を覗き込む。
白ドラゴの説明に、目を輝かせていたフウライは
「右!右の回廊に行こうよ!」
右の回廊から攻めることに決めたのだった。




