絵物語の終わり
柱だけの神殿の中央に周りの石とは異なる色の、少し黄色みがかった石が敷かれている。
黄色みがかった石は奥の神殿まで続いていた。
左右にはイスやテーブルだったものが、その形を崩しながら使う者が訪れるのを待っているかのようだった。
奥の神殿の入り口はがれきに阻まれ、中に人が入るのを拒否している。
「入り口も危ないけど、中も危ないわね。」
白ドラゴは中を見回すと、神殿内の探索はあきらめるようフウライを促した。
「そっか。怪我したら元も子もないもんね。」
あっさりあきらめると、何か面白いものはないかと、左右を見回す。
「確か、こっちに絵があったはず…」
白ドラゴは思い出すようにつぶやきながら、右側の壁方面に進んでいった。
ぐるりと回り込んだ先の壁に、それはあった。
「うわぁ。これ、黄色のドラゴンの話なのかな?」
フウライは目を輝かせ、壁いっぱいに描かれた絵物語に驚嘆する。
入り口側から始まって、奥に続いているようだった。
白い小さなドラゴンが、人間と出会うところから、この物語が始まったようだった。
「ドラゴ、もともとは白、って言ってたけどこれのこと?」
フウライはドラゴが白ドラゴになった時に聞いた話を思い出した。
「まぁそうね。これはこの白ドラゴンが初めてあった人間のことなんでしょうね。」
人間が希うようなシルエット、それに答えるかのように、白いドラゴンは黄色のドラゴンへと変身している。
「人間がドラゴンに何かお願いしたのかな。それで……黄色く変身した?」
フウライが絵物語を読み解く。
「そうよ。初めて接触した人間が何を望むか、ってところね。」
「この人間は希望を願ったのねぇ。だから、黄色になった。
ドラゴンが何色をまとうかは、人間次第だものねぇ。」
白ドラゴは後半は半ばため息をつき、独白のようにつぶやく。
やくさい、と呼ばれるドラゴが最初に接触した人間が望んだことってなんだろう?
フウライはふとそんな疑問が浮かんだが、言葉に出すことはできなかった。
白ドラゴは少し暗い目になったフウライを覗き込み
「まぁ、取り返しなんて、いくらでもつくわよ。」
元気づけるように、ぽんと肩を叩いた。
フウライは少し伏せていた目を上げると、絵物語の続きを読む。
黄色となったドラゴンは、人間を背に乗せて石材を運び、おそらくこの神殿を作っているのだろう。
たくさんの人間が道具や石材を楽し気に操っている。
「人間とドラゴンが一緒に神殿を作ってるんだね!」
嬉しそうにフウライが白ドラゴに目を移す。
「そうね。神殿――
彼にとっては人間との遊び場だったんでしょうね。」
嬉しそうな黄色いドラゴンを見ながら、目を細めた。
「あ、ほんとだ!」
柱に隠れる黄色いドラゴンや、それを追いかけるような人間が描かれた壁を見て、フウライも笑う。
そして、小さな星に変身するドラゴン、たくさんの星の花のついた草の描かれた壁の前に立つ。
「これ、最後は黄色いドラゴンは星になったってこと?」
ドラゴンは最後は星になるのかな、と思いながら白ドラゴに訊ねる。
「これは比喩ね。
薬草と一緒に、小さな星を人間に与えたのよ。」
決してドラゴンが星になったわけじゃないわよ、と付け加えて説明する。
そして、その壁が終わり、奥の神殿のさらに奥に崩れかけた像が建てられている。
翼を広げて空を見るドラゴンと、向かい合うように立つ、おそらくは人間の像だ。
人間らしき像は上半身、胸のあたりから上が崩れてしまっている。
「これも崩れちゃったのかぁ…」
フウライは残念そうに首をかしげた。
ふと、台座の毒々しい赤が目に入った。
「ドラゴンと人間の…うーん、これ以上読めないな……」
そのあとは崩れてしまっている。その文字を消すように――
希望など無益
と赤い文字で書かれているのだった。
ここでも人間の悪意にふれたフウライは、がっかりしながら白ドラゴに目を向ける。
「さ、もう帰りましょうか。」
視線を受け取った白ドラゴは、それ以上用はないとばかりに帰り支度を始める。
赤い鱗をまとったドラゴは、周りを調べるように見回すと、力をためる。
「あっ、なんか川の漁を思い出したよ!」
フウライは、ドラゴのありえない尻尾を見てはしゃぐ。
次の瞬間、尻尾は轟音をとどろかせながら、周りの木々を浚っていく。
ぽっかりと大きな穴が開き、青い空がのぞく。
「ちょっと!あれ!あれ!なにあれ!」
フウライがその青い空を指さし、他方の手を振りながら驚愕したように叫ぶ。
――上空に、ふわりと浮かぶ島
そんなものが目に飛び込んできたのだ。
「ほう、あれは空都だな。」
ドラゴが感心したように答える。
「くう、と?」
続きを促すように、フウライが問いかける。
「黄色いドラゴンが、人間と住むために空に浮かべた村だ。」
「ここから行き来したんだろう。
ドラゴンと人間が一緒だと見えると聞いたが…」
初めて見たな、とどこか懐かしそうに村を見つめていた。
「ドラゴも、あそこまで行けるの?」
「もし行けるなら、次はあそこがいいんだけど…」
フウライがドラゴを見る目が、少し上目遣いになる。
「もちろんだ!あのような場所、なんてことはない!」
ばさりと翼を広げ、胸を張る。
「決まりだね!」
嬉しそうに言うと、ドラゴの背に乗り込んだ。




