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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第2.5章 ザ・フードバトル
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【2.5章 最終話】 女王の誕生

 フードバトル四天王戦4試合目はミリアナさんの敗北で幕を閉じた。


 実況の声が聞こえないほどの拍手と声援の中、ミリアナさんと粕谷は立ち上がると握手を交わした。


「俺がここまで追いつめられるとは想像していなかった。見事だ。負ける可能性もあった」


「ありがとうございます。しかし粕谷様は本気ではなかった様子でしたから、私の完敗です」


「やはり見ていたか。何度も目が合ったのは気のせいではなかったか」


 粕谷はそう言うと、店内の奥に設置している金額を知らせるモニターを一瞥する。

 お互いは背中合わせだったから目を合わせられる筈がない。そう思ってモニターを見ると、モニターの縁がガラスのように風景を映していことに気が付いた。


 なるほど。前の3試合と違って今回のフードバトル中、2人は言葉を交わさなかったけど、俺の知らないところで目を使った戦いが繰り広げられていたようだ。

 

「確かに俺は30分の全てで本気を出していなかったのは事実だが、50円差で終わったのも事実だ。負けた時の言い訳にもならんさ。それにだ、最後は本気だった」


「それは光栄です」


「俺が本気ではなかったのには理由がある。前3試合で俺の中で浮かんだものに、確信を得るためだ」


「お分かりになりましたか?」


「ああ。貴様自身のフードバトル理論を確立していない。

 つまりは初心者だ。だからこそ貴様は相手に合わせて自身のフードバトルを変えていた。視聴者には分からんだろうがな。


 未だに自身のフードバトルに迷っている証拠だ。だからこそ俺は、貴様を脅威に感じる。いつか自身のフードバトルを得た貴様がどれほどのファイターになるのか。今から昂らされる」


「私はこの先……」


 ミリアナさんの言葉を粕谷は遮る。


「フードバトルを続けろ。いつか迷いを消し去り、俺と戦うその時まで。自身の才能をここで止めるな。

迷った先に後悔があるかもしれないが、先に進まなければ成功もない。まずは俺を乗り越えろ」


「そこまで言っていただけるのなら、粕谷様を倒して見せましょう」


「待っているぞ。それとセコンドの、名前は何という」


「相山です」


「そうか。貴様はクイーンを連れてきた。礼を言う。これを渡しておく」


 粕谷はジーンズのポケットから革生地の財布を取り出して、その中から1枚の名刺を差し出した。


「この街で何かあれば連絡をよこせ。力になってやる」


 粕谷は俺の肩に手を置くと、腰を上げていた古宮に「インタビューは戻ってからだ」と言ってから店内から出ていった。




 ミリアナさんが敗者インタビューを受けている間、少し離れた場所で立っていると予想外の人物に話しかけられた。


「やあ委員長。奇遇だねえ」


 声の主はクラスメイトの【品川】だ。着物姿の品川はどうやら大食い大会を見に来ていたようで、人混みの中から姿を見せた。


「楽しそうなことをやっているじゃあねえか。いつからやっているんだい?」


「ここ数日だ。俺としても進んで参加しているわけじゃないんだ」


「そうかい。この町は楽しいことばかりだねぇ。委員長も楽しまなくっちゃあ勿体ない。これほどの町は他にはない。

 ずっと住んでいたいと思えちまうなあ」


「楽しそうで良かったよ。品川の出身はどこなんだ?」


「それは教えられねえ。悪いねえ、委員長」


「いいよ。無理をして聞くものでもなし」


「それは良かった。おっと、委員長の相方が来たようだ。あたしはここいらで、おさらばさせていただくよ」


 品川が楽しそうに人混みに戻っていくと、ミリアナさんがインタビュアーから解放されたようで、観客の視線を集めながら俺の方へ向かってくる。


「申し訳ありません。お待たせしました。では行きましょうか」




 喧騒が遠く離れ、人が殆ど通っていない住宅街を歩いていても、フードバトルでの歓声が耳に残っている。それだけの音圧があった。


 俺は静かな方が好きだから、この3日間は本当に疲れた。


「相山様、お付き合いしていただき、ありがとうございました」


 ミリアナさんは立ち止まると深々と頭を下げた。


「構わないよ。ところでフードバトルは続けるのか?」


「実を言うと今日で止める予定でした。

 粕谷様にはその旨をお伝えしようと考えていたのですが、どうやら見抜かれていたようです。念を押されてしまいました」


「そうだろうな。

 もし粕谷がフードバトルジャンキーなら、ミリアナを絶対に手放したりしない。四天王を3人倒して、粕谷を追い詰めた。


 興行的にも好敵手という意味でも、ここで止めさせるのは勿体ない。もし続けるのなら、リアナに報告をしないとな」


「私にはリアナ様の侍女としての役目があります。それなのに自分の為の行動に、正しさはあるのでしょうか」


 ミリアナさんは遠い宇宙の彼方から、リアナの助けになる為にここにいる。

 だから俺が簡単に答えを出すべきではない。


「わからない。俺はミリアナさんの世界の常識を知らないから。

 答えが出せない問いは誰かに聞けばいい。悩むだけ無駄だ。答えを持っている人がいるんだからな」


 俺は携帯電話を取り出すとリアナに電話を掛けた。2回のコールの後、リアナの声が聞こえた。


『どうしたのかしら? ミリアナの件?』


「今後のことで相談がある」


 ミリアナさんに3日間のこと、最後の相手に背中を押された事を説明する。


『理解しました。ミリアナに変わってもらえるかしら』


 ミリアナさんに携帯電話を渡すと、2人で会話を始めた。俺からはリアナの声が聞こえないが、ミリアナさんの声は聞こえる。ミリアナさんはフードバトルを続けさせてほしいと伝えているようだ。


 しばらくした後に、ミリアナは「変わってほしいとのことです」と俺に電話を差し出した。


『3日間の所感を聞かせてくれないかしら。ミリアナはフードファイターとしての才能があると思う?』


「俺はあると思う」


『そう。わたくしは委員長を信じますわ。ではスピーカーにしていただけます?』


 リアナに言われた通り、通話をスピーカーモードに変える。


『ミリアナのフードバトル参加、許可するわ。だから粕谷という者に、必ず勝ちなさい。

 あなたはフードバトルという世界で、テェンツァルス王国を背負うのです。たとえ今回負けたとしても、最後には相手に負けたと思わせなさい。

 それまでは逃げを許さない』


「はい。必ず勝利してみせます」


『宜しい。ではスピーカーを切ってもらえる? 委員長と話したい』


 スピーカーモードをオフにして、携帯電話を耳元に当てた。


『委員長、申し訳ありませんがミリアナを頼みますわ。

 あ、毎回付き合えというわけではありませんからね。たまに相談に乗ってあげてほしいのです。


 彼女は昔から私に尽くしてくれていますが、自分には尽くさない。せっかく本国から遠く離れた地球に来たのですから、彼女には自分を探してほしいの。

 私の前ではわがままを言いません。委員長に託しても良いでしょうか?』


 俺はリアナと出会ったのはここ数カ月だし、ミリアナさんと出会ったのは数日前だ。だから託されても困る。


 俺は人生経験が乏しい高校生のガキだぞ。俺に何が出来るっていうんだ。


 俺がリアナよりも優れている部分は、地球での人脈ぐらいだ。

 だけど頼られて悪い気はしない。


「俺を過大評価し過ぎだ。まあ、困りごとがあるのなら、なんとか糸口ぐらいは見つけてやる。それで大丈夫か?」


『はい。ではミリアナに伝えてもらえるかしら。自由にしなさい。でも事前報告は忘れずに』


「ありがとう」


『フフ、委員長が礼を言うのはおかしいわ。ではまた明日、学校でお会いしましょう』


 リアナとの通話が切れたので、伝えろと言われたことをミリアナさんに話した。


「この1週間で、相山様を慕うリアナ様の気持ちを理解しました。

 相山様には目の前の問題を挑むことに躊躇がありあません。壁をすぐに乗り越えようと行動に移します。


 それは簡単ではありません。誰もが問題の前では足踏みをしてしまいますから。前に進む相山様の背中を見たリアナ様はきっと、英雄の姿と重ねたのでしょう」


「嬉しいけ言葉だけど、皆して俺を持ち上げ過ぎじゃないか。

 俺は面倒だからそうしているだけだよ。クラスメイト関連の問題は、俺の手元にあれば持て余してしまうし、俺が解決できるとは思えない。


 だからさっさと動いて誰かに助けを求めて解決しているだけだ。その方が早く終わらせて、俺が問題から離れられる。良い方法だろ」


「そうですね。では委員長様のお知り合いの誰かを頼るため、委員長様に相談をさせていただきます。

不束者ですが何卒宜しくお願い致します」


 ミリアナさんが深々と頭を下げた。そして頭を上げた時、そこにあった表情は今までミリアナさんが見せていなかった作り物ではない笑みであった。

 荒野に咲く1輪の花のような尊さがここにはある。


 ミリアナさんはこんな可愛らしい顔が出来たのか。というかかなり可愛い。

 

 これが見られたのなら、3日間付き合った甲斐があった。


「では私達の家に帰りましょう」

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