【3章 プロローグ】
木々が真夏の暑い日光を隠してくれる。そんな山道を登っていると、突然光に溢れた空間が見えてくる。
そこは雑草すら綺麗に刈り取られていて、その奥には小さく口を開けた洞窟がある。
洞窟の横で男性が椅子に座っている。彼は私の姿を見つけるなり、小走りで近づいてきて片膝立ちになる。
私と彼の目線の高さが同じなった。
「こんにちは。お疲れ様です。暑かったでしょ。さあ、中に入って下さい。心配はいりません。清掃も祈りも済ませておりますから」
「こんにちは。ありがとうございます。心配などしておりませんわ。皆さんを信じておりますから」
「うれしいお言葉です。お一人で入られますか?」
「そうですわね。この礼拝堂で彼との初めての対話ですもの。何かが無いとも限りません」
「彼が危害を加えてくると?」
「違います。彼はそのようなことはしません。彼とこの空間の相性が、裏目に出るかもしれません。
ですが心配はいりません。たとえ問題が起きたとしても、それは試練と苦難を主がお与えになった証です。何を恐れることがありましょうか」
「アーメン。それではどうぞこちらへ」
彼が手を指し示した洞窟の入り口に、私は歩を進める。
洞窟中のトンネル通路はひんやりとしている。等間隔に吊るされた電灯が照らす道は綺麗に舗装されていて、思考にふけっていても転びはしないだろう。
時折姿を見せる鍾乳石は下と上とに伸びている。奥に進めば進むほどに、ここは鍾乳洞であると認識が出来る。
私はある時、彼と交信が出来る力があると知った。初めは声のような何かだとしか分からなかったけど、場所を変えるとそれが声であると確信が出来た。
だけどそれは携帯電話の電波のように、場所によって強弱があった。
彼と明瞭な交信をする為に幾つもの場所を巡った結果、この街にたどり着きこの場所を発見した。初めて言葉を往復させられた。
ここは岩灘暮鍾乳洞と呼ばれていたらしいけれど、それは過去の話。管理人がいなくなり、放置され続けていたと聞いた。だから私たちが買い取った。
自分の足音だけを聞きながらしばらく歩いていると、道は狭くなり、急な階段が現れる。本来の名で呼ばれていた時の面影である、薄汚れた看板の横を通り過ぎ、止まることなく進み続けると視界が急に広がった。
この鍾乳洞の中にはドーム状に開けた空間があり、ここが目的の場所だ。最初に来た時はジメジメしていて、蝙蝠の糞がそこいらに落ちていたけど、今は寝転んでも汚れないだろう。
そんな広場の中央には舞台が設けられている。
準備は整えた。最高の環境で、彼と対話する。どのような話を聞けるのだろうか。だけど焦ってはいけない。まずこれを聞かないといけない。
あなたはだあれ?




