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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第2.5章 ザ・フードバトル
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【2.5章 12話】 無限寿司対決 正面衝突

【清白クイーン ミリアナ】対【フードバトル四天王】最終戦


 回転すし屋には既にミリアナさんと粕谷が、カウンター席で背中を向けて座っている。俺は当然ながらミリアナさんの横に座っている。

 白色のレーンだけが回り続けている。


 壁際には大きなモニターが掛けられていて、そこには2人の名前と2つの円グラフ、そして2本の棒線が表示されている。

 円グラフには食べた物が種類別に表示され、棒線には食べた金額が積み上げられていく。


 店内には寿司を目当てにした客はいないが、フードバトルを目当てにした客が溢れかえっている。

 フードバトル四天王戦注目の4試合目ともなると、店内の観客は全体の1割以下であり、混乱を防ぐために生中継用の大型テレビが店の外に置かれている。


 テレビの前に大勢に集まり釘いるように一点を見ている光景は、昔テレビで見た一家に一台テレビを持っていなかった時代の映像を思い出す。


 外にも実況の古宮と解説の天坂の声が届いているようで、古宮が煽るたびに店内は勿論、外からも絶叫が聞こえてくる。


 祭りというよりもクラブの狂乱のようだ。


 その渦中で俺は座っているだけだが、肩身が狭いと感じてしまう。


「遂に清白クイーンもここまで来た! ペンギン伯爵、星洞町の8本ナイフ 聡、アッパー敬! 

 その誰もが強者であったが【ブラックホール 粕谷武史】は王者だ! 数百人の強者を例外なく弾き返してきた絶対の壁! 

 クイーンはその壁に穴をあけることが出来るのでしょうか! 天坂さん、クイーンが勝つ道筋はあるのでしょうか?」


「粕谷は先に戦った3人と違い技と呼べるものありません。

 ただ全てをブラックホールのように飲み込むのみです。ですから単純な力比べになります。クイーンが勝つには、確実に一歩でも多く地道に階段を上る必要があります」


「最終戦はフードバトル黎明期でよく見られた、パワー対パワーに頼ったストロングバトルが見られるのか! はたまたクイーンが何かを見せてくれるのでしょうか!」


「最終戦は単純に寿司を食べた量を競うものではなく金額が勝敗を分け、寿司以外も流れてきます。

 このルールを活用するか、それとも粕谷に直接対決を挑むか。見ものです」


「おっと、流れてきました! 最初の寿司ネタ!

 1周24メートル、秒速8センチのレーンの上に最初のネタ、100円のタマゴが開幕を知らせるゴングを鳴らすため、焦らすようにして2人のもとに迫ってきています!


 そしてタマゴを先頭にして、次々とリングに入場してきます。マグロ、鉄華巻き、アナゴ、続いてなんと茶碗蒸しが流れてきました。これをどう処理するのか!」


「このレーンは約5分で1周します。どのタイミングで何を取るのかが重要になるでしょう」


「さあタマゴがスタートラインを越えるまで残り1メートル! 皆さん、歴史に立ち会う準備は済んでいるか!」


 古宮の煽りに観客は全力でそれに答えて、肌を震わせるほどの歓声を上げた。

 店外からも迫ってくる大音量の声に不快感は無い。そこにいる全ての人たちの一体感が熱となって心を昂らせた。


「遂に、遂に。タマゴがスタートラインを越え、腕を2人が同時に伸ばした!」


 フードバトル四天王戦最終試合が始まった。


 最初のタマゴは2人とも1口で平らげ、すかさず次のマグロの皿を取ってこれも1口で終わらせた。

 

 2人の違いは早々に現れた。


「おっと! クイーンここに来て茶碗蒸しをスルー。次のコーン軍艦を取った! 天坂さん、クイーンの意図は何だと思われますか?」


「2通り考えられます。それは値段と物理的な熱さです。

 値段としては通常価格帯の寿司の倍にあたる250円です。クイーンが寿司を2貫食べるのと、茶碗蒸しを1個食べるのでは、寿司に軍配が上がると考えた。あるいは少しでも冷ます為に見送ったかです」


「という間に粕谷が茶碗蒸しを食べきりました。寿司を2貫分しか飛ばさなかったのは驚きです。しかもきつねうどんを取りました」


「前に来た物を取る。この戦略の外側にいるような圧倒的な力強さ、まさにブラックホールという名に相応しいですね」


 フードバトルが進んでいく中で、古宮と天坂の実況解説は途切れなく繰り出される。

 古宮の問いに瞬時に答える天坂の器用さは、もはやアイドルとは思えない。


 ミリアナさんはおそらくだけど、熱すぎるのが得意ではない。

 何故ならラーメンを口に含んだ時、小声で「熱い」と言ったからだ。前の3試合では独り言を1つも無かった。

 思い返してみれば、ピザもホットドッグも冷めた状態で提供されている。

 

 そうであるならば、お茶を冷ましておいてやろう。

 俺はコップに粉末緑茶と熱湯を入れると、箸を使ってかき混ぜる。


 俺はミリアナさんの横に座っているので粕谷の豪快さは、実況の声と壁際のモニターでしか確認できない。

 それでもモニターに表示されている数値の増え方の尋常さはわかる。ミリアナさんは寿司を中心に食べているので100円ずつ加算されているのに対して、粕谷の方は様々な値段が入り乱れている。


 粕谷の豪快さは姿を見なくても感じ取れる。ミリアナさんは今までの3人の時とは違い、余裕を隠している様子は無い。


 だがその豪快さを前にしても、ミリアナさんは怯むことなく黙々と皿を積み上げていく。

 追い抜かしたり追い越されたりを繰り返している。


 開始から15分が経過して、両者共に6000円を超えた。

 寿司ネタも2巡目に入っていて、実況の古宮は白熱している。


「今までに粕谷と互角に戦ったファイターがいたでしょうか。いや、いない! 

 我々の目の前で、新たな歴史が刻まれています! 先に手を止めた方が敗者になる戦いは、我々に瞬きをする間も与えない。

 どちらが勝ってもおかしくない状況です」


「そうですね。ただクイーンの方には懸念材料もあります」


「ペースも落ちていませんし、苦しそうでもありませんが」


「それはレーンに残っている物の違いです。

 粕谷の方は寿司もサイドメニューも満遍なく流れていますが、クイーンのレーンにはサイドメニューが多く残されています。


 つまりサイドメニューを消化しないことには、レーンの上では食べやすい寿司の割合が減ります。それが伏兵となり、大事な場面で次の手がわずかに遅れる。

 この戦いは1手のミスが命取りになります」


 天坂の言う通りだ。明らかにミリアナさんのレーンには麺類以外のサイドメニューが多く流れている。

 茶碗蒸しに至っては2個も流れている。これは寿司を中心に取っていたから起こった必然だ。


 麺類が少ない理由は、汁まで飲む必要が無いというルールが関係していると思われる。麺は汁を吸うので、時間が経過するほどに食べる量が増えてしまう。


 レーンに残っているサイドメニューは、茶碗蒸しやカレー、フルーツやデザートに揚げ物関係など様々だ。


 今まで俺はサイドメニューを意識して回転すし屋に来ていなかったのだけど、これほど多種多様な物があるとは驚かされた。


その中でもチャーハンやパエリアが流れて来た時は、フードバトルを忘れてその姿を追っかけてしまった。


 そういったサイドメニューを残しつつ、時間は残り10分を切った。


 今のところミリアナさんの方が500円負けている。

 寿司は一口で食べられるが、所詮は100円にしかならない。量は多いが高価格帯の物を猛烈な速さで食べきってしまう粕谷との、単純な力負けのようにも思える。


 だが逆に考えれば、高価格帯の物がレーンに流れているとも考えられる。


 ミリアナさんがハンバーグ握りを食べ終え、ぬるい緑茶を喉に流してからモニターを見た後、手を伸ばした。


「動いた! クイーンがここに来て茶碗蒸しを手に取った!」


 いままで見送って来た、レーンの上に既に3つも鎮座していた茶碗蒸しの牙城が崩れた。


 ミリアナさんは茶碗蒸しを一気に飲み干すと、次もサイドメニューの天ぷら盛り合わせを取った。


「これは天坂さんの読みが正しかったようです。

 クイーンは冷ます為にレーンの上で泳がさていたようです!」


「前3試合では終盤になって追い上げました。この4試合目もそれを見せてくれるのでしょうか」


 天坂の望み通り、ミリアナさんはサイドメニューで金額を稼ぎ、残り5分になった頃には11000円で並んだ。


 ここからミリアナが追い上げていくのかと思ったが、粕谷は甘くなかった。同じ金額になったモニターを見た粕谷は口角を上げると、食べるスピードが上がった。


「25分が経過しているんだ! なぜ速くなる! 

 やはり四天王最強は格が違った。これでクイーンの負けが決まったか……、いや! なんと! クイーンのペースも上がった!」


 残り5分、力と力の鍔迫り合い、デッドヒートが繰り広げられる。次々と数値を変化させるモニターに、観客のボルテージも最高潮に達する。


 歓声が地響きを起こし、それに張り合うように実況の古宮が叫び続ける。


 残り5秒。


 金額は互角。


 2人の目の前に現れた最後の1皿は……、ミリアナがマグロ100円、粕谷がフライドポテト150円。

 ミリアナは勿論1口で食べた。


 そして粕谷は、ミリアナの倍はありそうな大きな口を開けて、フライドポテトを全て飲み込んだ。


 結果は、ミリアナが13000円、粕谷は13050円。


「しょ、勝者は、ブラックホール 粕谷武史だあああぁああああーーー!」

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