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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第2.5章 ザ・フードバトル
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【2.5章 11話】 VS粕谷武史 その前に

 粕谷と呼ばれた大男は、持ち上げていたアッパー敬をバックでも扱うかのように軽く放り投げた。

 床に転がるアッパー敬は不満を言うでもなく、ただ体に付いた埃を払うと黙って立ち上がった。明確な力関係が見て取れる。


 粕谷は1歩前に出ると口を開く。


「見事な戦いであった。貴様に勝者への賛辞は必要ないだろう。

 貴様が欲するものは挑戦権。フードバトル四天王最後の1人である粕谷武史への挑戦権を貴様に送ろう。受け取るか?」


「断る理由はありません。その為の前座は終わりましたから」


「言ってくれる。だが俺を3人と同じだと考えるな。小細工で俺には勝てない」


「理解しております。彼らはエンターテイメントで私と戦いました。だから彼らの土俵で戦って、勝利したにすぎません」


「気に入った。では戦いの形式は大食い30分、食材は寿司。

 戦いの場は回転寿司屋の【積嵐寿司】だ。


 先にルールを教えておこう。勝敗は食べたネタの合計金額が高い方が勝者となる。レーンの上で寿司に手を触れてはいけない。皿を取り、自分の机の上に置いた段階で寿司に触れられる。

 手元のネタを食べ切った状態で次の皿を取ることができる。流れて来るネタはその店での全メニュー。


 つまりはラーメンやデザートも含まれる。投入されるネタは両者同じ順番で投入される。取らなかった場合、取られるまで回り続ける。理解したか?」


「はい。理解いたしました」


「最後に時間だが、明日の19時からだ。1日で体調を万全にしろ。貴様ならば可能だろう。つまらない勝負にはするなよ」


「ご心配には及びません。あなたがファイト中に逃げない限り、楽しい戦いになるでしょう」


 ミリアナさんが見せた挑戦的な笑みを受けた粕谷もまた、天敵すらも畏怖する威圧感のある笑みを返した。


 フードバトルは平和な競技だ。にもかかわらず、一歩でも引いたら捕食されてしまうと感じるほどの空気が、蕎麦屋の一角を充満していく。


 観客も司会者も黙って息をのみ、ミリアナと粕谷から目を離さない。もちろん俺もだ。見ているだけなのに肩に重圧が掛かっている。


「俺を威圧する女が現れるとは愉快だ。楽しみにしている」


 粕谷はそう言うと体を翻して蕎麦屋から退出すると、入り口の扉に取り付けられていたベルの音が店内に響いた。


 これにてフードバトル3試合目、対アッパー敬戦がミリアナの勝利で終了した。


 蕎麦屋の入り口は観客で混雑している。


 今日は本当に疲れた。急いで帰っても余計に疲れるだけだから、ある程度人の数が減ってからにしようとミリアナさんと話していると、番組のディレクターが満面の笑みで近づいてきた。


「いや~、2人ともお疲れ様! 

 見事な食べっぶりで惚れ惚れするなあ。ミリアナさん! 今日も盛り上げてくれてありがとう! 


 良い番組になりそうだよ。というか伝説になるよ。こんな場面に出くわすから辞められない。そうだ! この後打ち上げがあるんだけど、2人ともこないかい?」


 ディレクターの提案にミリアナさんは首を横に振った。


「お誘いいただきありがとうございます。しかし、私の仕事が残っておりますので、辞退をさせていただきます。申し訳ございません」


 ミリアナさんの本業はリアナの世話だ。昨日も今日も無理をしてフードバトルに参加している。

 

 俺も帰りたいと思っていた。だからミリアナさんが承諾したら俺も断りづらかった。これで心置きなく断れる。

 ミリアナさんに続いて打ち上げの参加を断ろうと口を開くと、天坂が駆け寄ってきた。


「相山君も打ち上げに参加するんだね。やったー! 相山君のことだから、最後に会ってから色々と騒動に首を突っ込んでいるでしょ」


「ま、まあ色々とあったな」


「そうだと思った。話を聞かせてよ。じゃあ私、準備してから合流するから先に向かっていて」


 天坂は楽しそうに店を出ていった。

 あんな天坂を無視して帰る訳にもいかないので、苦笑いを浮かべながら「参加します」と言うしかなかった。




 ミリアナさんと別れた後、テレビクルーの一団に交じって打ち上げ会場である居酒屋に向かっている。

その道中、ディレクターから番組制作の苦労話を聞かされている。

 わがままな共演者のパシリをやらされた話や、芸能事務所公認の枕営業を断った話など、聞けば聞くほど絶対に関わるべき世界じゃないと思い知らされる。


 俺が相槌や軽い意見を交えながらその話を聞いていると、気をよくしたディレクターの弁舌は過熱していき、タレントの悪口へと発展した。


 良く知るタレントの裏の顔を知る中で、天坂の話になった。天坂は頭の回転が速く運が良いから、必ず想定以上の取れ高となるそうだ。

 

 天坂が芸能界でうまくやっていると知ったところで、目的地の居酒屋に到着した。


 全員が長いテーブルを囲むようにして席に着いた頃、天坂とそのマネージャーが遅れてやって来た。


 俺はどういうわけか右横がディレクターで左横がプロデューサーという、偉い人に挟まれる席順となっていた。そのディレクターが少しずれて天坂を呼んだので、俺の右横の席が天坂に変わった。


 全員が揃ったところで乾杯をすると、天坂が即座に聞いて来た。


「ねえ、何か面白いことあった? 教えてよ」


 顔を近づけてくる天坂は相変わらず良い匂いがするし、よだれが出そうになるほど凄く可愛い。

 それと真っ直ぐに向けられる綺麗な瞳の相乗効果で、期待に答えたくなってくる。これがアイドルの魔力……。


「そうだな。UMAに襲われたり、都市伝説に襲われたりしたかな」


「え! なにそれなにそれ! どういうこと?」


「詳しくは話せないんだけど……」


 と前置きをしてから、UMAと戦ったことや都市伝説の赤い犬について話してやった。勿論クラスメイトについては伏せた。あくまでも専門家の協力を借りて解決する運びとなったと説明した。


「ツチノコって本当に存在するんだね。凄いなあ。専門家に合わせてよ」


「聞いては見る。色々と事情があるからな難しいかも」


「それは残念。じゃあその事情が解決したら話を聞かせてよ。多喜さん、インタビューを取れたら凄い番組になりませんか?」


 天坂はディレクターに興奮した様子で投げかけた。


「まあ、面白そうだとは思うんだけどね」


 答える多喜さんは歯切れが悪い。

 こうなるのはわかっていた。何故なら俺の話を聞く多喜さんは、オカルト番組で頭のネジが大量に飛んでいる自称超能力者を見た司会者と同じ目をしていたからだ。


 絶対に信じていない目だ。俺だって何も知らない状態でこんな話を聞かされたら、波風が立たないように相槌を打ってその場を離れている。


 とは言えこれは好都合だ。グイグイと来られても説明が出来ないし、めんどくさそうな芸能の世界に関わる気はない。


「あんまり乗り気じゃないですねえ。絶対面白くなる筈ですよ」


「天坂ちゃんの言う通り、面白くなるのは確実なんだよ。

 ただ扱い方が難しいのよ。オカルトは面白おかしくイジらないと面倒で。昔さあ、オカルト系の宗教団体がやらかしたでしょ。


 それからコンプライアンスとかが大変なのよね。その前に天坂ちゃんは事務所的にはオカルトOKなの? アイドルとしてオカルトロケなんかに出ていると、落ち目なのかと思われちゃうよ」


「それは心霊スポットに行くとか、UFOを呼ぶとかでしょ。

 叫びながら憑りつかれた振りをするだけの仕事だから、なめられるんです。本物に会えばいいんです」


 さっきからオカルトロケに行くアイドルが酷い言われようだ。俺の知り合いには幽霊も宇宙人もいるけど黙っておこう。


「そこまで天坂ちゃんが信じているのなら、前向きに検討しようかな。と言う訳で、相山君がその知り合いから許可が取れたら連絡ちょうだいよ。仲介料ははずむよ」


 多喜さんは名刺を差し出してきたので、一応それを受け取った。


「それにしても相山君は大変だね。学生なのに色々と巻き込まれて、ブローカーみたいなこともして。それとも困難が好きなのかな?」


「俺がしないと面倒になるのでしているだけですよ」


「それでも行動に移せるのは素晴らしいよ。大概の人は見て見ぬふりさ。相山君とはもしかすると長い付き合いになるかもね」


 多喜さんと話していると、プロデューサーも話に加わってくる。


「この2人の琴線に触れるものがあるのなら、相山君は上株かもしれないな。もし君が良かったら局に推薦状を書いてあげるよ。

 僕の推薦状を持っていたら100パーセント通るよ。卒業見込みが出た後だけどね」


 こうして俺は高校卒業後の職を手に入れた。入る気はないけど。


 そして打ち上げは右肩上がりに盛り上がり、俺はとんでもなく疲れ果てた。

 席替えで古宮や天坂のマネージャーと隣になったけど、意識を保つのが精一杯だ。


 明日は家で引き籠りたい……。

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