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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第1.5章 怪奇ミステリーファイル 赤い犬
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【1.5章 1話】 傷心! 更に都市伝説

《1学期 期末試験前 土曜日》


 テスト前の大事な時期に、こともあろうに町をブラブラと歩いている。言い訳程度に鞄の中に教科書を入れているけど、取り出す気は全くない。


 何故このような事態になっているか。それは単純に勉強がめんどくさいからだ。


 中間試験は赤点が1つもなく、自分なりには良い点数を取れたつもりだったのだか、クラス平均を大きく下回っていた。


 つまるところ、俺はクラスの中では下から数えた方が早い。ちなみに俺の下には3人しかいない。


 というかクラスメイトの頭が良すぎる。

 どうなっているんだまったく。


 何だよ、全教科満点が4人って。狂っているんじゃないか。どうやって上位に食い込めって言うんだ。


 そもそもお前ら大学に進学するつもりないんだから、勉強する必要は無いだろ。俺に譲ってくれ。


 と、委員長なのに圧倒的下位になった時の惨めさの責任を、他人の擦り付けたところでどうともならない。

 教科書の重さが肩掛けバックから伝わって来る。


 仕方が無い。帰って勉強するか。

 溜息しか出ない……。


「あら? あなたケイのクラスの委員長さん」


 肩を叩かれて振り返ると、そこには優しそうな表情の中年女性が立っていた。

 あれ? どこかで見たことある……、あ!


「マージエリイ夫人ですよね」


「覚えていてくれたのね」


 【マージエリイ夫人】はツチノコ探索の時に出会った、多田篠公園で交霊会を開催している【霊媒師】を名乗る女性だ。

 後々ケイに聞いたところ、ケイはあの洋館に住んでいるそうだ。


 マージエリイ夫人の洋館は面白そうなものが多かったので、家に行ってもいいかとケイに尋ねたところ、いつものゴミムシを見るような目で断られた。


「会うのは交霊会の日以来よね」


「そうですね。あの時はご迷惑をお掛けしました」


「いえいえ、迷惑なんて思っていないわ。ケイがお世話になっているしね。前にアイドルのライブ、2人で行ったらしいわね。天坂さんだったかしら。とても楽しかったみたいよ」


「それは良かったです」


「そうだ。今から私の屋敷に来ないかしら? 歓迎するわよ」


「ケイに来るなと言われていますので」


「フフフ。あの子、恥ずかしがっているのね。それではこれでどうかしら。相山君に見てもらいたい物があるの」


 これ絶対面倒なことになるパターンだろ。


 悪いけど、折角の休みの日にクラスメイトでもない人の厄介ごとに巻き込まれたくない。それに俺には試験勉強があるんだ。


 誰が話に乗ってやるもんか。


「大丈夫よ、あの子の家じゃない。私の知り合いの家だから」


「申し訳ありませんが、今日はちょっと用事がありまして」


「用事? 内容を聞かせてくれないかしら」


 グイグイ聞いてくるな。


 断りにくいけど、学生の本分は学業である。何を遠慮する必要があるのか。試験勉強は何よりも優先される筈だ。


「来週試験がありまして、その勉強をしようかと」


「そうなのね。困ったわ。命に係わるかもしれないのだけどね」


 話が大きすぎるだろ。


 世間話の流れで言う内容じゃなくないか。マージエリイ夫人が言葉を信じるなら、受験勉強よりも遥かに優先度が高い。


「それなら俺に相談するよりも警察とかの方が良いんじゃないでしょうか」


「実はこの話、都市伝説に関係があるの。だから相山君はそんなの得意でしょ。私にはさっぱりでね。扱いに困っていたのよ」


 そっち系の話か。まあ確かに誰に相談したらいいか問われたら困る。


 だからといって、俺が得意な訳では無いんだけどな。


 でも仕方が無いか。ここで無下に断ると、マージエリイ夫人の同居人であるケイの心象も悪くなるかもしれない。


 数カ月前の俺ならば都市伝説なんて聞き流していた。だがクラスメイトに伝説がいるから、無いとも言い切れない。


「わかりました。その見せたい物、見に行きます」


「ありがとう。やっぱり相山君は良い人ね。

 実はお金を稼ごうと思って、何でも屋を始めたの。交霊会はお金にならないし、君との騒動の後、あの子は私たちが仕える政府に反抗的な態度を取るようになった。


 能力を持っているだけに無下には出来ないけど、活動資金が減らされてね」


「そうですか……」


「何でも屋は向いていなかったみたいね。次の案は何かあるかしら?」


 どうでも良いんだけど。

 面倒だから取り敢えず答えておくか。


「占いなんかどうですか? あの洋館は雰囲気がありますからね」


「占い。それ良いわね。将来が決まったところで、行きましょうか。大丈夫よ、目的地はすぐ近くだから。本当に良いタイミングで会ったわ。少し待ってね、今から連絡をするから」


 マージエリイ夫人が携帯電話を取り出した。


 こっちにしたら最悪のタイミングだ。とは言え命に係わるというのは気になる。そんな都市伝説が身近に潜んでいるとは知らなかった。


 頼むから伝説で終わってくれ。

 

 マージエリイ夫人が電話を耳から離した。


「すぐに来てほしいだって。ついて来て」


 歩き出したマージエリイ夫人の背中を追いかけていると、予想外の人物に遭遇した。それはクラスメイトで【魔法使い】の【サマンサ】である。


 サマンサは学校の制服を着ている。学校に行かなければならない用事でもあったのだろうか。せっかく会ったのだから声を掛けよう。

 もし怪人が出る類の都市伝説なら、戦力になってくれそうだ。


 俺がサマンサの名前を呼びながら手を振ると、サマンサも俺に気が付いたようで小走りに駆け寄って来た。


「サマンサ。今日は学校か?」


「違うよ。買い物」


「制服で?」


「うん。私服持ってない。普段着できるの、これだけ」


 サマンサは入学式の日から1週間ほど、三角帽子にゴシック系のドレスを身に付けていた。さすがに目立ちすぎるから止めさせたのだけど、サマンサはあの服と制服以外に外着と呼べる物を持ち合わせていないようだ。


 周囲の目というものに無頓着な性格は、入学式から変わっていない。


 サマンサにはもう1つ変わらない部分がある。それは人見知りの性格だ。サマンサは教室でクラスメイトと会話をしているのを、あまり見たことは無い。


 今も俺の体で隠れながら、チラチラとマージエリイ夫人を見ている。


「紹介が遅れた。こちらはマージエリイ夫人といって、ケイの親みたいな人だ」


 ちなみにこの親みたいという表現は、ケイから聞いた。


 俺の言葉を聞いたサマンサは安心したようで、マージエリイ夫人の前に立って小さく頭を下げた。


「サマンサ・サニーです。魔法使いです」


「よろしくサマンサさん。可愛らしいお名前ね。魔法使いか。もしかすると丁度良かったかもしれないわ」


「そもそも俺もまだ都市伝説の内容、聞いてないんですが」


「そうね。じゃあ歩きながらでもいいかしら。サマンサさんも時間ある?」


「えっと……」


 サマンサは不安そうに眉をハの字にして俺を見る。


「俺も良くわかっていないんだけど、マージエリイ夫人の知り合いが都市伝説に巻き込まれたらしく、その都市伝説由来の何かを持っているらしい。それを見に行こうとしているんだ」


「委員長は、私がいたら、助かる?」


「勿論だ。サマンサがいてくれると助かる」


「そう。わかった。私も付いて行く。それで、都市伝説って?」


 サマンサの疑問に、マージエリイ夫人は頷きを返して歩を進めた。俺とサマンサはその後を追う。


「赤い犬という都市伝説を知っているかしら?」


「知りません」と俺が言うと、サマンサも首を振った。


「それでは簡単に説明するわね。ある男性が財布の中を整理していると、スーパーマーケットのレシートが入っていたの。ふとレシートを読むと、卵とか牛乳とかに混ざって、買った覚えの無い物が印字されていた。


【アリバリア】。


 記憶にない文字の羅列と、文字化けを起こした値段。


 そのレシートを捨てる暇もなく、男性は1週間の長期休暇で友人と旅行に出かけた。

 そして旅行から帰ると事件が起きた。家の物の半分が無くなっていたのよ。


 すぐに警察を呼んで捜査をしてもらうけど、何者かが入った形跡の一切が無い。

 

 不思議なことに、無くなった物と金額との関係性が無かった。例えば大型テレビは残っているのに、買い置きしていたシャンプーは無くなっていた。

 

 だけど1つだけ、増えたものがあった。それは赤い犬の置物だった。その犬は2本足で立ち、顔は笑っていたの。

 数日後、その男は失踪。部屋からは犬の人形と、1枚のレシート以外の全てが消えていた。これが赤い犬という都市伝説よ」


 マージエリイ夫人が語った都市伝説はどこにでもありそうな話だ。

 特に怖さを感じないのは、あまりにも作り物じみているのだ。そして穴の多い話だ。とても信じるに足る話ではない。


 だけど、その都市伝説を聞いたサマンサは、驚きで目を見開いていた。

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