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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第0.5章+10章 恐怖の猛毒蛇!! 深緑の公園に怪蛇ツチノコは実在した!!
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【0.5章 10話】 輝く容疑者A

 数時間前、気分転換に外に出た。

 その時は今の状況を想像もしていなかった。

 

 俺は自宅のリビングにあるテーブルの前に座っているのだが、自宅特有の安心感は欠片も無い。

 目線はテーブルに置いた透明のポットと、2つのコップ。ポットには緑茶がなみなみと入っている。


 目の前の物を見てはいるけれど、思考の全ては聴覚にかかりっきりだ。聞こえてくるのはシャワーが床を打つ音。その音に心臓が高鳴って痛く感じる。


 お風呂場に入っているのは、少し年上の女子でありアイドルでもある天坂だ。


 誰の耳にも入らない場所で話したいからと言われ、この家を指定した。そして家に入るなり、汗をかいたからシャワーを借りると言い出し、今に至るのだ。


 話を聞くだけだから緊張する必要はないのだけど、女性を家に招待するという初めての経験に自然と心が浮足立つ。


 ただの女性ではない。今朝テレビで見たばかりのアイドルが、俺の家でシャワーを浴びている。


 天坂が風呂場に入った時、少しでも気分を紛らわせるためにアルバイト店員の三島が働くコンビニ周囲を、地図アプリのストリートビュー機能で見て回ったり、ケイに明日の集合時間をメールで伝えたり、警察官の榊さんに電話をしたりと手を尽くしたが、すぐに終わってしまい気を紛らわせる手段を失った。


 だけどその電話で得るものも多かった。


 まずは寶川さんに面会をしたのにお見舞い品を持参しなかった、田中良一なる人物について。


 彼は寶川さんが勤務するキャバクラの常連客。だがある日を境にぱたりと来店しなくなったそうだ。


 榊さんに頼み込んで田中の電話番号を手に入れたので後で掛けて見るとして、もう1つ新たな発見があった。


 それは……、と考えているとシャワーの音がピタリと止んで、お風呂場の硬い扉が開く音が聞こえた。


「バスタオル、借りるね」


 風呂場の方から声がしたので、「ああ」と答える。バスタオルと体の摩擦音が聞こえてくる。俺はもしかすると、音フェチに目覚めたかもしれない。これはマズイぞ。


 続いてドライヤーの音が耳に届く。聞き慣れた音の筈なのに、心をときめかせるオーケストラのようだ。


 テレビで音をかき消せばよかったと、今更ながら思う。


 煩悶していると、ラフなシャツにジーンズ姿という、今朝会った時とほぼ変わらない姿の天坂が、手にバスタオルを持ってリビングに入ってきた。

 その姿で今朝と明確に違うのは、流れるようにきめ細かな美しい髪と、膨らみのある胸である。


 雨井の面影があるものの、完全にアイドルの天坂だ。芸能人は薄っすらと輝いて見えると聞いたことがあるけど、あれは本当だった。

 

 直視できない。


「シャワー、ありがとうね。あの格好、暑いし肩がこるの。帽子に髪を押し込んで、胸も押さえていたかれね。それとバスタオルはどうしたらいい? 洗濯機見当たらないけど」

 

「あ、ああ。洗濯機はまだ買ってない。後でランドリーに持っていくから、洗面所にでも置いといてくれ」


「わかった」


 天坂は一度洗面所に行ってから、再び戻ってくると俺の前に座る。

ポットからコップにお茶を注ぐと一気に飲み干した。


心なしか良い匂いが漂ってくる。緊張する。こんな時はまず、軽い話からして場を温める。


「男装が辛いのなら、女性の恰好ではいられないのか?」


「私が天坂だと知られる訳にはいかないのよ。

 特にこうして君みたいな男性の家に上がる時は特にね。たとえ事務所から言われていないとしても、恋愛禁止がアイドルの鉄則。


 恋愛禁止って言葉の意味は、単純に恋愛を禁止されるという意味ではないの。異性と付き合っていると、ファンに疑念を持たせてはいけないという意味なの。


 だから疑念を持たせる写真なんかを出させてはいけない。面倒だけど仕方が無い」


「面倒ならアイドルを辞めればいいんじゃないか」


「ファンが私をアイドルとして望む限り、私はアイドルを辞めるわけにはいかないわ。それがファンに夢を見せた私の責任なの。


 たとえ恋愛禁止が面倒でも、それがアイドルでいる為の社会との契約なのだから甘んじて受け入れるわ。

 他のアイドルがそうではないと言っても、これが私のアイドルだから」


 そう言う天坂に輝きを見た。

 天坂が持つアイドルとしての覚悟は、長く辛い茨の道であるだろう。それでも天坂は気高く責任と言った。


 だからこそアイドル天坂には輝きがあり、人の目を引き付けるのだろう。出会い方が違っていれば、俺も天坂のファンになっていたかもしれない。


 天坂は本気だ。それならば俺も本気で天坂に向き合わなければならない。


「そろそろ、落ち着いて来ただろう。事件について話そうか」


「そうね。事件のことを話す前に、いつ雨井悟が私だと気が付いたの?」


「改めて、天坂と呼んでいいんだよな」


「どうぞ。この部屋には相山君しかいないから、隠す必要は無いしね」


「了解だ。俺が雨井を天坂と知ったのは、天坂が自分で名乗った時だ」


「え? どういうこと? 意味わかんないんだけど」


 眉間にしわを寄せた天坂が首を傾げた。そんな仕草すらカワイイ!


「正直に話そう。雨井が天坂である確信は無かった。だけど雨井が事件の真相を知っている可能性はあった。

 だから俺は曖昧な言葉で質問をして、天坂の反応を見て確信をした。天坂本人か、関係者だろうってな」


 天坂は口をぽかんと開けた状態で少しの間停止した後、爽やかに笑った。ひとしきり笑い終わった天坂は俺をまっすぐに見る。


「そっか。私はまんまと相山君の罠にはまったんだね。

 私も正直に話すと、君を侮っていた。女の子に格好をつけようとして出しゃばる、ただの男の子だと思っていた。

 それで、私がなぜ事件の真相を知っていると思ったの?」


「天坂が当事者でないと知りえない情報を知っていたからだ。まず天坂はぬいぐるみが切り刻まれていたのが、ベンチの右端だといった。

 そして警察官もベンチの右端にぬいぐるみが置かれていると言っていた」


「何か変な箇所はある?」


「ああ。天坂も警察官も方向の起点が違うんだ。

 天坂はベンチに向かい合って右端だと言ったけど、警察官はベンチに座って右端だと言った。さっき確認したんだけど、ケイの猫はぬいぐるみをベンチの端から端まで移動させたらしい。

 ベンチの中心付近には数か所、ぬいぐるみの毛糸が絡みついていたらしい。


 天坂は猫がぬいぐるみを移動させた話をしていない。にもかかわらず初めの位置を知っていた。

 

 それともう1つ、天坂はぬいぐるみを犬だと言ったけど、あのぬいぐるみはどう見てもカエルだ。緑色だしね。警察官もカエルのぬいぐるみと言っていたし、ネットニュースにはぬいぐるみとしか書かれていない。あのぬいぐるみ、俺も頑張って調べたんだけど、確かに犬をモデルにしている事が分かった」


「なるほどね。犯人か、それに準ずる人でないと知りえなかった情報を、私は口にしてしまった。気が緩んでいたわ。

 と言うか、相山君のような行動力の方向性がおかしな人がいる事を想定していなかったわ。真実を知ってしまった相山君は、私に何をさせたいの。

 もしかして私を……」


 天坂が前のめりになり俺を上目遣いで見ることで、シャツの隙間から胸の谷間が見えている。今にも鼻血が噴き出しそうだが、きっとこれは誘惑ではなく挑発である。

 

 俺はそれに乗るわけにはいかない。


「何をすべきなのかは俺には決められない。罪を擦り付けられたケイが決めることだ」


 天坂は体を引いた。胸が見えなくなった……。


「相山君の言うとおり。まず私がすべきなのは、ケイさんへの謝罪ね。早速、謝罪文を書いて公開するわ」


「それはケイに聞いてからにしてくれ」


「わかったわ。それで私に聞きたいことはある?」


「天坂と会って1日にしか経っていないけど、天坂は平気な顔で手を汚す人じゃないと思う。何が天坂を追い詰めたのか、聞かせてほしい」


「相山君は私をそんな風に見てくれていたのね」


 天坂は悲しそうな顔で虚空を見つめる。


「やけくそになっていたの。私の熱愛報道があったのは話したよね。その時に写真も撮られた。でも誓って熱愛と呼ばれることはしていない。

 熱愛報道を作られたの。同じアイドルグループで、別のユニットの女の子たちにね。

 熱愛報道の後のストーカーも、その子たちの差し金なの。


 腹が立つ。だから逆に利用してやろうと思ったの。ニュースは私の知名度を上げてくれる。だからストーカー事件を引き延ばす為に、ぬいぐるみの事件を自演した。本当にバカな事をしたわ。


 自分が思っているよりもずっと、悪意の影によるダメージが大きかったみたい」


 天坂は辛そうに顔をゆがめて話した。

 俺は芸能の世界は全く知らない。華やかさの裏にあるどす黒いものの濃さは、俺が思っている以上なのだろう。


 だから俺は天坂を真の意味で理解はしてやれない。それでも俺に出来ることは……。


「もし2度目の影が見えたら、俺に電話をしろ。

 1時間でも2時間でも、気が済むまで天坂の愚痴を聞いてやる。俺はこう見えて口は堅いんだ。一般人の俺になら、言えることもあるだろ」


 天坂は僅かに笑みを浮かべると俺を見る。


「私の愚痴は長いわよ」


「覚悟は、しておくよ」


「まったく。その歯切れの悪さは何よ。でも、ありがとうね」


 再び家の中が華やいだ。


「私からも相山君に聞いて良い?」


「なんだ?」


「相山君はケイさんが好きなの?」


 喉を潤すために口に含んでいたお茶を吐き出しそうになった。


「そんなわけないだろ」


「だったらどうして、そこまでケイさんの為にしてあげるの?」


「始まったばかりでへそを曲げられたら困るからだ。俺の委員長としての使命は、高校を全員同時に卒業することだからだ。1人でも欠けさせる訳にはいかない」


「1年ごとにクラス替えで人が入れ替わるし、委員長も交代すると思うのだけど。それでもケイさんの為に尽くすの?」


「そうであるなら楽だけどな。俺のクラスは特殊で、校長からも変更は無いと言われている。それに、ケイとは良い出会いではなかったけど、関わりを持った人が不幸になるのは見たくは無い」


「もしかして、相山君は相当な優良株なのかしら。今のうちに媚を打って、弱みを握っておこうかな」


「俺に使う時間を業界の偉い人に使った方が、芸能界で大成するんじゃないか」


「そうかもしれないわね……。だけど、私には私の媚の売り方がある。彼女たちとは違う」


 天坂は無言で立ち上がると俺の横に座って、テレビのリモコンを操作した。

 映し出られたのは旅番組だ。


「見てみて私が出ているんだよ」


 天坂はその言葉に続けて、楽しそうに苦労話を始めた。

 こうしていると、中学生の頃に友達と同じものを共有して、バカな話で盛り上がる純粋に楽しかった時間を思い出す。あの頃は気苦労がない毎日だった。


 懐かしいな。


「そうだ! 相山君は晩御飯どうするの?」


「決めていないけど」


「デリバリー頼もうよ。私はピザが良い」


「俺もピザは食べたいけど……」


「安心して。今日は迷惑代ということで私が出すから。こう見えても稼いでいるんだから」


 俺は遠慮をしない。貰えるものは貰う主義だ。


「悪いな」


 こうして俺と天坂は注文したピザを待ちながら、天坂の出演する旅番組を見終わった。丁度次の番組が始まるタイミングで、ピザが届いたので天坂の所属するアイドルユニットの1人が出ているクイズ番組を2人で見ながらピザを食べた。


 楽しい夜は過ぎていった。

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